第12話 レネの植物スキル

 レネと一緒に草木が生えている沼周辺にきた。

「さっそく植物スキルを使ってみますわ」

 レネが周囲の草木に対して鑑定を始めた。移動中に聞いた話では、植物鑑定、植物育成、植物改良の技があるらしい。


 植物鑑定は俺の鉱物鑑定と同じみたいで、植物育成は植物の育成を促進する便利な技だった。植物改良はふたつの植物から新たな植物を作る品種改良で、ある程度は指定した特徴を残せるみたいだ。


 レネが周囲の植物鑑定を終わったみたいで、俺のほうへ顔を向ける。

「食用や有用な植物はありそうか」

「ほとんどが栄養の足りない植物で、食用となれる植物もありませんでしたわ」


「残念だったが、拠点で育てる植物は、ルーペンで種や苗を買って試してみよう」

 神力があればしばらくの期間は食事なしでも平気らしいが、それでも美味しい料理と飲み物は拠点生活に外せない要件だ。


「ルーペンでの買い物は食用の植物以外に、珍しい植物も構わないかしら?」

「もちろん、レネが気に入った植物があれば一緒に買おう。種や苗は実際に見ながら決めるとして、残りの技はまだ試していないのか」

 俺は3種類の技を試してみたが、レネの植物スキルは今日が初めてだから3種類とも確認しておきたかった。


「のこりの植物育成と植物改良も試してみましたわ」

 俺が少し考えている間にすべての技を試していたようで、さすがは元女神で何事にも抜かりがないように思えた。


「周囲の草木を見た感じでは変わっていないように思えるが、植物育成と植物改良の技はどのような感じだった?」


「植物育成を使った植物を鑑定すると、少ない栄養で成長しやすくなっているようですが見た目は変わりませんわ。植物育成は成長だけに特化するのか、栄養や味などにも影響するかはまだわかりません」

 鉱物加工のようにすぐ結果が出るわけではない。育てる部分だけなのか品質もよくなるかは収穫まで待つ必要はあるが、植物が早く育つだけでもありがたい。


「鑑定結果が変わるくらいには影響しているから成長具合が楽しみだ。技の有無で比較すると効果がはっきりしそうだ。もうひとつの植物改良も結果を教えてほしい」


「ふたつの異なる植物同士を使って、新しい種類の植物を作る技ですわ。何も考えずに植物改良すると元の特徴がランダムに残りますが、特徴を意識して技を唱えれば望みの特徴が残る面白い技です。神の創造を思い浮かべましたわ」

 レネにとっても興味深い技のようで、楽しそうに結果を教えてくれた。


 たしかに新たな植物を作るのは創造と同じで、もしかしたらレネは女神のときに創造を使っていたかもしれない。レネの過去を知りたい気持ちもあるが、レネから話すまでは聞かないほうがよさそうに思えた。


「水が少なくても育つ野菜や糖度が高い果物など、植物改良は俺たちがほしい植物にあわせて作れる可能性がある。はやくルーペンへ行って種や苗を買いたくなった」

「私もスキルという面白い現象をもっと楽しみたいです。でもこの沼周辺ではこれ以上の確認はむずかしいですわ」


 レネは元の世界にはなかったスキルを気に入ったようで、異世界へ来て楽しむレネの姿は心を和ませてくれる。レネを女神に戻す方法を探していくが、それにあわせて植物スキルを好きなように使える環境も作っていきたい。


「レネの楽しそうな話が聞けて、沼まできた甲斐があった。できる範囲でのスキル確認がおわったみたいだから、今日は拠点へ戻って休もう。明日になったらルーペンへ行って魔石をお金に換金して買い物しよう」


 俺とレネは拠点へと向かう。途中で魔物にも遭遇したが、近寄ってくる魔物は少なくなっていた。新しく作った槍と短剣で中位魔物を簡単に倒していたから、魔物も野生の勘で俺たちを危険と判断しているのかもしれない。


 魔石は今までの討伐で充分に確保できたから、遠くにいる魔物はそのまま放置して近寄る魔物のみを倒していく。投擲用の短剣に出番はなかったが、槍と接近用の短剣の使い心地は試せて、充分に満足のいく仕上がりだった。


 拠点へ戻ると、夕食の準備を始める。

 馬車にあったものだけなので、水も残りは少ないが、温まるためにほかの食材と一緒に煮込んだ。明かりを点ける油もほとんど残っていないので、庭で乾燥した草木を使って、たき火をしながらの食事となった。


 辺りは暗くなっているが、拠点ができたおかげで気分的には楽だった。

「ひさしぶりに落ち着きながら食べる料理だ。明日の買い物が充実できれば、室内で料理もしたいし家具なども増やしていきたい」

「これからの生活が楽しみですわ。ところでキュウヤは料理ができるのかしら」


「ひとり暮らしをしていたから料理は作れるが、あまり期待しないでほしい」

 ネットなどで調べながら料理はしていたが基本は独学で、俺好みの味に合わせて料理をしていた。最低限、食べられる料理にはなっているが、好き嫌いかは分かれるかもしれない。


「私は料理が作れませんから、作れるだけでも充分です。今後の食事はキュウヤに任せて平気かしら」

「口に合うかどうかは分からないが、料理担当は俺が引き受けよう」


「よろしくお願いしますわ。きっとキュウヤの料理は美味しいと思いますから、明日のルーペンでの食材探しも好きなだけ買って下さい」

 レネの好みは分からないが、いろいろな料理を作ってレネの好みを見つけたい。俺の料理でレネが喜んでくれれば、俺自身もうれしい。


「俺好みの味つけだから、レネが好きな味つけがあったら教えてほしい」

「キュウヤが好きな味つけで構いません。強いていえば、甘いデザートが作れればお願いしますわ」

「品数は多くないが作った経験はあるから、材料が手に入れば作ろう」


 仕事で苦労しているときは無性に甘い物が食べたくなるので、簡単なデザートは自分で作っていた。料理が趣味ではないが、お金は鉱物収集につぎ込んでいたから、節約のために自然と料理を覚えていった。


 質素な食事だが、レネとの楽しい時間が過ぎていく。

 周囲は荒野なので人工の明かりは見られず、夜空にはふたつの月と星がきらめいていた。大きい月は赤みがかっていて、小さい月は青みがかっている。ふたつの月は少し離れた位置で夜空に存在して、異世界へ来ていることを思い出させてくれた。

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