第11話 槍と短剣

 翌日の朝になってから、レネと話し合って今日の予定を決めた。午前中は俺の鉱物スキルで武器を作って、午後になったらレネの植物スキルを試してみる。そこまで行えば一通りを把握できるので、明日になったらルーペンへ行くつもりだ。


 レネと一緒に家を出て、鉱物が豊富そうな丘のふもとへ向かった。

「鉱物鑑定」

 広範囲に何度か鑑定すると、いろいろな種類の鉱物が見つかった。


「私は短剣があれば充分ですが、武器に使用できる鉱物はありましたか」

 本当はレネには弓を持たせたかった。だが鉱物だけで作るのがむずかしいので、投擲用は短い短剣で接近用は長い短剣を作る。


「有効そうな鉱物がいくつかあった。具体的には鉄鉱石と黒鉛、それに亜鉛鉱までみつけられたから、今まで使っていた自然銅を合わせれば槍と短剣が作れる。鑑定結果は一般的な品質ばかりだが、最初に試すのには充分な品質だと思う」


 鉄鉱石は鉄が、黒鉛からは炭素が採れて、亜鉛鉱には名前通りに亜鉛を多く含んでいる。鉄と炭素からは炭素鋼が、銅と亜鉛からは真鍮とも言われる黄銅の合金が作れる。本来はほかにも鉱物を混ぜるが、鉄や銅単体に比べれば使い勝手はよい。


 鑑定した鉱物からどのような合金を作るかレネに説明すると、中身を把握してくれたようで頷いてくれた。

「炭素鋼と黄銅が作れれば、今後の拠点強化にも有効ですわ。今回は槍と短剣へどのように使うのですか」


「槍も短剣も刃の部分は炭素鋼で柄は黄銅で作りたいと思う。槍は相手の衝撃も大きいから、黄銅の表面には滑り止め用のでこぼこをつけたシボ加工をしたい。短剣は軽量化を目的に、黄銅の内部は多孔質材料のように細かい空洞にする」

 刃の部分は強度を求めて、それ以外は使いやすいように工夫を入れた。


「投擲用の短剣は10センチで、接近用は30センチくらいが使いやすいです」

 あわせて短剣の幅は、投擲用が2センチで接近用が3センチくらいだった。


「そのくらいの長さで作ってみるが、ほかの要望はありそうか」

「とくにありませんわ。投擲用の数は10本もあれば充分です」

 槍と短剣の概要が決まったので、材料作りから始める。塀や家などにくらべて武器は小さいので、視界に見える範囲の鉱物だけで充分に足りる量が確保できた。


 最初は鉄鉱石から鉄のみなど、必要な鉱物のみを鉱物加工で抜き出す。次に鉄と炭素を鉱物合成で炭素鋼にしてから、目的の形へと鉱物加工で作る。もちろん表面硬度は高くして、応力が集中しやすい場所にはRをつけて応力を分散させた。


 槍はシンプルな形にして、先端はひとつのみで長細い葉っぱのような形にした。接近用の長い短剣は手をガードする部分をつけて、投擲用の短い短剣はガードをなくして多くの数をもてるようにする。


「短い短剣と長い短剣をひとつずつ作ったから、使用感を確認してほしい」

 ふたつの短剣をレネに渡す。

「使い勝手を試してみますわ」

 レネが長い短剣を使って動きを見始めたので、俺も槍の使用感を確認する。


 手に持った感じは細くも太くもなく、シボ加工もあって持ちやすかった。神力もあって強く握りしめれば、どのような攻撃を受けても手放さないだろう。両手で槍を振ると空気を切る音が棒と異なって、片手でも問題なく槍を使えた。


 ゲームでの動き方とミュランとの対戦を思い出しながら、基本は槍を両手に持ちながら、ときには片手にもって動きを確かめる。神力にも慣れてきて、思い通りの動きができるようになってきた。

 視線をレネに戻すと、レネも確認が終わったようだ。


「俺のほうは使いやすい槍ができたが、レネの短剣はどうだった?」

「強度的にも問題ありませんわ。せっかくですからキュウヤに戦い方の指導をしたいですが、構わないかしら」

 レネの戦いは魔物退治で何度かみたが、軽く小石を投げるだけだった。それでも動き方をみると、俺よりも強いのは肌で感じることができた。


「願ってもいない機会で、ぜひお願いしたい。俺はゲームでの動きを真似ているだけで、いわばパターンが決まった相手に対する戦い方になっている。ミュランとの戦いから、今のままでは強敵に勝てないとわかった」

「キュウヤの向上心には好感がもてますわ。神相手でも全戦全勝の私が教えれば、キュウヤの頑張り次第では、神と同等の高みへ昇れると思います」


 神を目指すつもりはないが、レネが女神へ戻ったときに隣へいられるくらいの強さと信頼を勝ち取りたい。

「何処まで目指せるか分からないが、レネの足手まといにならない強さはほしい」

 槍を握りしめてからレネの前に立つと、レネも接近用の短剣を構えた。


「いつでも平気ですわ。キュウヤの好きなタイミングで攻撃してください」

「胸を借りるつもりで攻めていく」

 再度、槍を握り締め直してレネへ向かっていく。レネに何度も付きを入れるが、避けられるか短剣で簡単に受け流されてしまう。


 レネも短剣で攻撃を仕掛けてくるので、槍を使って短剣の動きを止める。次の攻撃は俺を試すかのように、先ほどと異なった位置へ短剣が繰り出された。考える前に槍が出て何とか攻撃をかわすと、レネが笑ったような気がした。


「キョウヤも反射的に動けるようでうれしいですわ。徐々に攻撃間隔を短くしますから、攻められたくなければ攻撃してください」

 レネの楽しそうな声とは裏腹に、攻撃は強さと速さを増していく。いつのまにか受けるだけになってきたが、ミュランのときよりも周囲が見えている気がする。それでも俺が優位になれる機会は訪れなかった。


 1時間くらい打ち合っただろうか、汗がとまらないほど体を動かした。魔物を倒したときでもなかった疲労感も訪れてくる。


「終わりにしましょう。キュウヤも今の実力や槍を使う上での弱点がわかったと思いますわ。ただ気に病むことはありません。ここまで動ければ、中位魔物ていどならキュウヤひとりでも倒せるでしょう」


「最後はレネの動きを追えるようになったから、少しは進歩があったと思う。俺は特定の動き以外はできないのが弱点だ。時間があればまた付き合ってもらいたい」

 ゲーム感覚で動いていたからか、それ以外の動きには意識しないとむずかしいのがよくわかった。それでも学べる点が多くて、レネの強さを改めて実感できた。


 槍と短剣に関しては、あれだけの打ち合いをしても問題なかったので、鉱物スキルの能力はすごい。


「もちろんですわ。キュウヤの成長を見られるのも楽しみです」

「レネの期待を裏切らないように精進していく」

 少し休憩をしてから、接近用の短剣には黄銅の板から鞘を作る。投擲用の短剣も合計10本ほど作り終えると、俺とレネは家の中へと入った。馬車に残っていた干し肉を少しだけ食べてから、俺とレネは沼周辺へと向かった。

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