第10話 拠点の場所

 俺とレネは丘のふもとへ向かいながら、近寄ってくる魔物を倒していく。中位魔物のブラッドタイガーを見かけたが、俺たちの敵ではなかった。魔石の数もだいぶ増えたので、ルーペンの街で売ればある程度のお金になるだろう。


「ミュランたち、彼らは一体何者なのだろうか。イーグリたちは元騎士団長だったから、強さからいっても同程度の存在と思う」

 歩きながらレネに聞く。


「きっと第1王子派ですわ。それに護衛対象の男女ふたりは、さらに上の地位にいる人物に感じます」

 ミュランたちが第1王子派なら、クリニエル王国の名前が出たときの緊張感は頷ける。クリニエル王国の国王は元第2王子で、第1王子派は看守にされるなどの左遷を受けているから、ミュランたちは逃げているのかもしれない。


「レネの考えには頷ける点が多いから、その可能性が大きそうだ。少なくとも俺たちが作る拠点を襲わなければ、ミュランたちとは友好な関係を築きたい」

「彼らは悪い人物には見えませんでしたから、共存は可能かもしれません」


 レネと話しているうちに沼が見えてきた。ここまで来ると中位魔物の数が多くなってきたが、今まで通りに倒しながら丘のふもとへ向かう。沼周辺には草木がいくらか生えているが、丘の近くまで来ると岩だらけになった。


 野球場よりも広い平らな場所を見つけたので足を止める。

「この辺りは地面がしっかりしているし、広さもあるから拠点によさそうだ」

「周囲も開拓すれば広くなりますから、場所として適していますわ。鉱物も豊富ですから、キュウヤの鉱物スキルも活躍できそうです」


「レネもよさそうと思うのなら、この場所に拠点を作ろう。まずは最低限の広さを確保した上で塀を作りたい。今まで出会った魔物なら脅威は感じないが、繰り返し攻め込まれたら疲れるだけだ」


 俺の言葉にレネも頷いてくれたので、最初に塀を作ることにした。周囲には今まで鑑定した石英もあるが、さらに多くある長石を塀の素材にする。長石はほとんどの岩石に含まれるから、材料不足になるおそれはない。


 拠点は最小限の居住ができる広さと考えて、50メートル四方の正方形にする。

 塀は底面1メートル高さ2メートル幅5メートルを横にした三角柱を複数作って並べる。地中に杭を打てればよかったが、スキルだけではむずかしそうなので純粋に置くだけにするが、塀の重心は下側にあって重いので安定性は問題ないだろう。


 おおむねの方向性が決まったので、レネに詳細を説明する。

「それだけの広さがあれば充分ですわ。植物スキルを試すのも、最初は小さな範囲ですので、家を建てたあとの余ったスペースで平気です」


「レネも問題ないみたいだから作業を進める。塀はかなりの量になるから、スキル使用で疲れるかどうかも確認していきたい。家の詳細は塀が終わったら相談しよう」

「時間はありますから、キュウヤのペースで構いませんわ」


 さっそく塀を作り始める。塀の元となる三角柱は作ると移動はむずかしいから、鉱物加工の技を使うときに、完成場所と向きをイメージして作った。

 最初のひとつは少し戸惑ったが、ふたつ目以降は三角柱が瞬時にできて、置く位置のみ気をつければよかった。50メートルの直線ができると、直角に曲がって次の50メートルを作り始める。出入口のみを開けた塀が短時間で完成した。


「この塀なら魔物以外にも、盗賊たちも出入口以外からはむずかしいだろう」

「すばらしい塀ですわ。今までよりも多くの鉱物を使って、技の使用回数も多いですが疲れはありますかしら?」


「位置調整に神経を使ったが、それ以外は肉体も精神も疲れは感じていない」

 完成した塀を見渡すと、本来なら何日もかかる作業が1時間くらいで終わった。疲労感は全くないから、神力と鉱物スキルの有能さをあらためてかみしめた。


「スキル使用による神力の消耗はごくわずかのようですわ。これならすてきな拠点が作れそうで、完成が楽しみです」

「いまは仮拠点を作っている段階だが、最終的にはレネの植物スキルを充分使える広さを確保するつもりだから、期待してまっていてほしい。もう少しで日が沈んでしまいそうだから、寝床が確保できる家を早めに作る」


 レネと相談しながら、簡易的な家を作り始める。家の大きさは8畳の部屋が4つの平屋で、俺とレネの部屋に共通で使う2部屋とした。本格的な家はあとで作るが、今はこれで充分だろう。


 最初に長石で大小様々な小石を作って、地面を水平にならしていく。壁や床は外部からの影響を直接受けないように長石で二重壁として、あいだには補強リブで強度を上げた。透明な石英をガラス代わりとして、窓も取り付けると家が完成した。


「短時間で作ってすごいですわ。このあとは如何しますか」

 レネが感心したような声で、作りあがった家を見渡す。初めて家を作ったが、レネも満足してくれてうれしかった。この調子で室内も充実させたい。


「レネが喜んでくれて家を作った甲斐があった。残りは暗くなるまで簡単な家具を作って、今日は終わりにしたいと思う。せっかくだから家具作りには、まだ使っていない鉱物合成を使ってみたい」

「どのような技なのか楽しみです」


 レネの前でどのような鉱物合成をするか考える。合成を合金と同じに考えれば、アルミ合金のアルミと銅が該当するだろう。ジュエリーならK18と呼ばれる75パーセントの金に、割金と呼ばれる銀や銅を25パーセント使用する地金が有名だ。


 合成は鉱物同士を結合させるだけでよいのから、可能性はもっと広がる。ためしに石英と長石を鉱物加工で取り出したのちに、合金をイメージする。

「鉱物合成」

 ふたつの鉱物を合わせたような塊が出現した。


「見事に成功していますわ。これで自由度の高い加工ができます」

「ありがとう。つぎは貼り合わせる感じで合成してみる」


 長石と自然銅を作ったのちに、接着剤で結合させるイメージで唱える。

「鉱物合成」

 半分が長石で半分が自然銅の塊で、ふたつの鉱物は混じっていなかった。こちらも想定通りに作られた。鉱物合成は広い意味で、鉱物同士を結合させる技のようだ。


「面白い結合方法です。これなら槍を作る場合に、先端の穂と手で持つ柄を別々の鉱物で作ることも可能そうですわ」

「それは試したいから、明日になったら槍を作ってみる」


 鉱物スキルを使う楽しみが増えていく。石英と長石の鉱物からはテーブルを鉱物加工で作り、長石と自然銅の鉱物からは取っ手を石英にしたカップを作った。


 簡単な家具をいくつか作って家の中へ運び、馬車に残っていた品物と一緒に部屋へ置く。辺りも暗くなって、今日の作業は無事に終わった。

 明日の槍作りを楽しみにしながら、初めて作った拠点で夜を過ごした。

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