第3話 神力とスキル
召喚前を思い出したのちに、いま歩いている場所を把握する。召喚された部屋を出てからは通路を進んで階段も降りて、さらにうすぐらい通路を進んでいた。
闇の中に浮かぶような、ひとつの扉が目に入った。
「扉の中へ入れ。ここから先は別の者が担当だ」
厄介ごとが済んだかのような態度をみせて、騎士のひとりが扉を開けて中へ入るように指示される。
俺とレネが部屋の中に入ると、看守と思われる体格のよい男がふたりいた。部屋の中はこぢんまりとしていて、奥に頑丈な扉がひとつだけあり、あとはテーブルや椅子などが最小限に置いてあった。
「地下牢にはお前たちのみだ。騒ぎさえ起こさなければ、危害は加えない」
看守の言葉使いは乱暴だったが、俺たちへ敵意がないように感じた。ひとりの男が頑丈な扉を開けて男と一緒に中へ入る。扉の奥は左右にいくつかの牢屋があって、手前のひとつに俺とレネが入れられた。
「何かあれば大声で呼んでくれ。召喚に巻き込んですまなかった」
周囲に聞かれたくなかったのか、男の声は体に反して小さかった。この世界へ来てから1番まともそうな人物に思えた。男は何事もなかったように扉の奥へ消えた。
横にはレネが静かに座ったので、外へ聞こえないように小声で話す。
「まさか話の通じない国王と勇者がいるとは思わなかった。明日になれば荒野に放り出されるが、きっと始末されるだろう」
「私たちの身体能力があれば、相手が勇者でも倒されませんわ。懸案していた異世界召喚も、次の召喚はすぐにできないようなので、日本も落ち着くかもしれません」
レネの心配事がひとつ減ってよかったが、あの国王なら準備が整えばまた召喚スキルを使うだろう。
「準備ができていないだけで召喚スキルは使えるままだから、確実に異世界召喚をなくすために国王を倒したりはしないのか」
「私とキュウヤの力があれば倒すのは簡単ですが、この世界の理を把握していないので、こちらの神に話を聞きますわ。神社や神殿があれば神に会えるので、そのときに私の事情を説明するつもりです」
神様でも世界が異なれば、むやみに神の力は使えないのかもしれない。
「俺が口出しをできる内容ではなさそうなので、異世界召喚はレネに任せる。俺は荒野で生活できるように地盤を固めるのと、初めてのスキルを使ってみたい」
「キュウヤの鉱物スキルはどのような中身でしたか」
魔道具のステータスボードで確認した内容を思い出しながら答えた。
「最初の技は鉱物鑑定のみだが、その後に鉱物加工と鉱物合成ができる。鉱物を好きな形状や鉱物同士の合成ができる優秀なスキルだと思う。日用品はもちろんだが強力な武具も作れるから、外れスキルと考える国王は見る目がないだけだ」
俺は仕事で工学系知識を使っていたから、鉄鋼材の活用には慣れている。製品設計から壊れるかどうかを判断する強度解析、モノづくりではプレス加工、鍛造加工、鋳造成形、樹脂成形などを常識レベル以上に知っている。
鉱物加工があれば軽量で強度を保てる中空部品が加工できる。鉱物合成では強度が高いハイテン材が作れて、この世界オリジナルの材料も夢ではない。
さらに趣味で鉱物や宝石を集めているから、地球クオリティーのカットと研磨で特別な宝石も作れるだろう。俺にとって鉱物スキルは、無限の可能性があるすばらしいスキルに感じた。
「私の植物スキルも似たような感じですわ。植物鑑定と植物育成に植物改良ができるので、荒野でも充実した食事が可能になります。さらには稀少な植物が育てば、それだけで交渉が有利に運びますわ」
「魔力がない俺たちがどこまで使えるか不明だが、ユニークスキルは同じスキル持ちがいない特別なスキルなのもうれしい」
「魔力がなくても神力は万能ですから大丈夫ですわ」
うれしい話を聞けた。やはり神の力である神力はこの世界でも万能らしくて、俺の体も神力でできているから今後が楽しみだ。
「すぐにスキルを試してみたいが、そのまえに神力の使い方を教えてほしい。身体能力も強化されるのなら、いまから慣れておけば荒野での生活も楽になると思う」
「神力の流れを感じ取れれば、あとは日々訓練すれば自然と使えますわ。最初は私がキュウヤの神力を強制的に流しますので、両手を貸してください」
言われたとおりに両手を前へ出すと、レネがそれぞれの手を握る。一目惚れしたレネの手は柔らかくて緊張してしまったが、ここで俺が取り乱すわけにはいかない。鼓動の速さを抑えながら平常心を心掛ける。
「神力を通しますので、そのまま受け入れてください」
俺の気持ちをよそにレネは作業を進めていく。
「いつでも平気だ」
俺が答えると、レネの手から温かい何かが俺の手に伝わって、血液のように体の中を駆け巡っていく。しばらくすると温かさはなくなった。
「無事に神力が体全体で動き出しましたわ。これで今までと同じに体を動かせば、神力をまとった動きになります。さらに意識して念じれば、念じた部分に神力が集まります。もしドラゴンがこの世界にいても太刀打ちできますわ」
ドラゴンを倒せるかは不明だが、俺の考えている以上に神力はすごい。
「すこし牢屋内で体を動かして、神力の感じに慣れても平気か」
「構いませんわ。もう少し広い場所があれば、私が手合わせして指導もできます」
「そのときはお願いする」
いつも通りに立ち上がったが、その時点ですでに体の軽さを感じた。
牢屋の中は広くないので屈伸や上半身の回転などの、動きが少ない準備運動で確認すると、今までとの違いを感じた。動きに切れがあって力強さも感じた。ものは試しにゲームで愛用している槍を使った動きを実践すると、体がゲーム通りに動く。
「自分の体とは思えないすごさだ。現実では槍を扱ったことはないが、ゲームと同じに体が動くのであれば、ゲーム同様に槍を使ったアタッカー戦法が使える」
「キュウヤと私の神力は相性がよいようです。これで基本の神力をまとった動きを体感できたと思います。肉体以外に精神も強化されていますから、精神に影響する魔法があったとしても容易に抵抗できますわ」
肉体以外にも精神が鍛えられているのはうれしい。いくらゲームで戦いになれているとはいっても、現実では魔物を倒していない。レネを守るためにも、精神が鍛えられていれば躊躇なく体が動くはずだ。
「俺以上にレネは強いはずだから、神以外には負けないという言葉が理解できる」
「キュウヤもセンスがありますから、なれればドラゴンに太刀打ちできますわ」
お世辞としてもうれしかった。
「神力は毎日鍛えてみる。次はスキルを試してみたい」
石造りの壁と床に扉は鉄格子なので、鑑定する鉱物に不足はなかった。スキルにある技の使い方はよくわからないが、まずは単純な方法として、鉄格子をさわってから技名を唱えた。
「鉱物鑑定」
理屈は不明だが、不純物の多い鉄だと認識でした。
「スキルはどうでしたか?」
「問題なく使えて、鉄格子は不純物の多い鉄だった。これで鉱物加工を使えると思うが、さすがに牢屋内ではまずいから、荒野に行ってから試してみる。あとは対象の鉱物にさわる必要があるのか、技は口に出す必要があるのかを確かめたい」
壁や床も使って技を試したところ、見えている範囲であれば念じても鑑定できるとわかった。あきらかに壁の中にあると思われる鉱物も鑑定できたので、認識できていれば直接目で見ていなくても平気なようだ。
神力の消費量は不明だが疲れは感じない。俺には鉱物と工学知識があるから、鉱物加工で好きな品物を作れる自信がある。はやく鉱物加工を使いたいが、いまはその衝動をぐっと抑えた。
レネの植物スキルも同様な仕様だと思うので、実施した結果をレネと共有した。神力とスキルの確認が終わるころに、扉の開く音が聞こえた。
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