第4話 あすかのプライド
シャキンー!
着替えをおえて教室に入った瞬間にこれだ。
音響チェックを気ままにし、後ろではジャージ姿のムツと男が指をふる。
「まずは、袈裟をきって、横切り、回転斬り」
「横避け、後ろ下がり、回転斬り」
指というのは漫画で陰陽術キャラが指を2本だけ立てるポーズがあるが、その指を刀に見立ててアクションを組みたてているのだ。
ダンスを組み立てるときでも似たようなことするけど、どこもいっしょ。
「舞台裏と同じことしてる」
笑みをうかべてしまう。
ムツとやってるのは、もう1人の下手くそだ。
たしか、志村善だったっけ……居合いから入ったとかいう奴。
武道からアクションに入る人も多い、迫力はあるけどぎこちない。そして、
自分が好きなやつだ。
「志村さん。お客さんはどこなの?」
私の指摘に、志村は頬をゆがめた。
わかっているのだ。彼は客を意識してない、常に自分に向かっている。
「うるさいな。お前はどうなんだ」
私、私はあんたのように客を忘れないし、自分のためだけに演技をしない……
そんなこともわからないなんて……
志村のいらだちに私は壁にかけている木刀をとる。
切っ先を向けた。
「ねぇ、ムツさん。お願い!」
肩をすかすムツ。
しょうがなさそうに竹光をとる。
「一番でいいか?」
一番、いわゆる殺陣の型の一つ、流派によって差はあるけど、師走団で教えられたのはたしか……あれか。
「どっちが、シン?」
シンは勝つ方、いわゆる主人公だ。そして負けるほうがカラミ。
「お前がシンで、小娘が」
ニヤつき雑に竹光を抜刀。なるほど脳内で作った役はチャラ男サムライか。瞬時に役になれるのは演者あるあるだ。
私が役を作るとしたら、この場合は弱そうな小娘が刀の達人だった……クールビューティーな剣士というところかな……いや、私はビューティーはともかく、クールは違うか……
最初は肩に担いでいた刀をあわせるように互いに正眼に構え。
「オリャー!」
するどいが思いっきり、離れた箇所にはなたれる袈裟がけ。
安全上の配慮、そして、私は客の視線を意識し大きく、刃をさける。 ほとんど、しゃがみこむように。
私は型の動作よりも、テンポで覚える 1.2.3で華やかに避けていく。
動作が楽しい、仮想の客が私の華やかな動作に見惚ている。
あせが飛び、私の結んだ髪が動きになびくように流れた。
「なんだと!」
大きく手を広げて、視線を向ける。
そして。私は刀を両手持ちにかえ、逆袈裟を左右に放つ。
窮屈な流れの攻撃をムツは大げさにヒョコと下げがる。
テンポを邪魔しないが、情けないよけ方、私の仕立てるように次の動作も考慮した動き。
やっぱり彼は上手い。
あっ、しまっ!
つい、真っ向が早く勢いを殺しきれてない。このまま、じゃケガをさせる。
「うわっ!」
彼はとっさに刀を寝かし受け止めてくれた。
ここは横面受けのはずなのに、鳥居受けに変わっている。
そっか……フォローしてくれたんだ。
安心できる。
「この野郎、死ね!」
と圧しかかるように刀を食い込ませるが体重はかかっていない。
「その程度、結局、口だけね!」
絶妙だ。そして、私は刀をはね上げる。
「うぇっ!」
くずれるムツの胴はガラ空き、私の脇腹に刀身を当て彼の横を通りすぎる。
まだ、ガマン、ガマン。
仮想の客のまえで、一気に刃は真横にはなつ。
ドッ!
ムツが倒れる音が聞こえた。
そこで、私は血振りから納刀。
「むっ」
刀が詰まるが、そのこじれを見せずに刀を納める。
こうして、客に流し目をむけた。
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