第3話・私とムツの遍歴
いつからだろう……イヤになる。
何が?
それはみんな……ううん、私のこと……
昔はただ、踊るのが好きだった。
筋トレも嫌いじゃなかった。
そう、音にのり、飛びはねてできない表現なんてないと思ってた。
「ちがう」
今も、なんでもできると思っている。
でも、わかってくれない。
あんな下手くそに、みなサイリウムをまわす………
ほんとうにバカだ。
あの子がメインに選ばれて、私は背景のバックダンサー……私のほうが上手いはず……私のほうが……
「だから、私は
ここは私の舞台じゃない
と逃げた……」
そうして、アイドルをやめた。
言い訳ばかりつのり、諦めてないふりを何度もくり返えす。
多くの人に受ければいい、だけど彼らに見る目がほんとうにあるの、あんな奴らより私のほうが……
今もあきらめきれずに演劇なんかやってる。
そんな。私が嫌い……
「1、2、3」
いまも柔軟し、筋トレをおこなっている。
体をのばしていく、なめらかにのびていく。
適度に汗がつたる。
フィトネスウェアーが湿り気をおびてはりついく。
削られる体力、温まる体が心地よい。
やわらかく体が長くなる、かかと、足裏、お尻、腰と筋がスーットすすむ。
疲労が心地良い……
同級生はいつも、足が長くてうらやましいというけど、こんなに動いて手に入れたものだ。
そんな、努力をみずにうらやましいなんて……そんな事を笑ってごまかせないのがいけないのかな。
さて、日課は終わり、シャワーで汗を流そう……
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水気をふくんだ髪に温風が心地いい。
10分程度のカラスの行水からあがる。お風呂のほうがストレッチには良いのだが、明日は早い。
ムツによばれているからだ。
「そうだ! 忘れてた」
ドライヤーの騒音の中で私はおもいだす。
サブスクで観たいものリストにとっていたもの。
普段なら、観ることはないカンフー物。いわゆる香港で撮られたものだ。
なぜなら、ここにムツがでている。
「なんだ、やられ役じゃない」
カンフー映画、彼一人が無双するだけの話。
拳法が好きな人なら喜ぶのかもしれない。
けど。私はよく、そんな動くなと思うだけ。
しかし、その中で似合わない日本軍服を着ているムツがいる。
いつものすました顔でなく、まゆをつり上げて子供をいじめる悪役軍人。
そして、彼は容赦なく軍刀をかまえていると、主人公にケリたおされてしまう。
数分ていどの役、大げさに誇れないじゃない。
「……ダサ」
そっか……刀使えるから選ばれたの……
ふん、そう……私も踊れるから、今回は呼ばれた……あなたの殺陣とさほどかわらないね。
どこまでいっても……何かできるから……それって他にもいるんじゃない…?
嘲笑がもれる。
私をみてよ……
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