第2話 なんで、私だけ……
声の主は座っている男からだ。
やってしまった。
監督がキレている。
「おい、なに飲まれている! せめて流れぐらい守れよ。勇者様も困ってるだろ! このドアホ!!」
怒声に私はおそれから開放されて………そして、悔しさに涙がこぼれた……
「泣けば許されるととか、思ってんのか! だから、ちいたんなんだよ!」
「ごめんなさい……グス」
情けない、その瞬間に監督は悪いことをしたかのように 頭をかき。
「おい、他の演技を観とけ………おい、ムツ、お前も手抜けよ、めんどくせぇ!」
ダレるようにおっさん監督はどっと座りこむ。
無理もない私がわるい……
どうして、ちゃんとできないの、私がんばってるのに……
どうして……誰も認めてくれないの?
離れた床にすわりこみ、私は演技をながめる。
とてもイスにすわれない。情けない。
けど……
「下手くそ……」
舞台の中央のあのイケメン勇者。
ふざけているの。
いいとこの事務所のモデルっていうけどさ、棒立ちじゃない……
「ちいたん、さっきは悪かったな」
スポドリを渡してくれたのはさっきのサムライ。
たしか、
そっか、 相手の私がいないなら、練習もできない 彼にも迷惑をかけてた。
いたたまれなくなり、私は。
「……ちいたん、呼ぶな」
ガンをとばす。
それを軽くいなす睦月。
彼は肩をすかすだけ、 私のせめての抵抗もムダなようだ。
ちいたんなんて、バカにされてるみたい…… 私は
「お前の気持ちもわかる。下手だよなあいつ」
睦月の指先には一人だけめだつ白い鎧をきた勇者がいる。
勇者役のモデルだった。立っているとカッコつくがが動いたり、しゃべるとボロがでる。
ダミ声ぐらい治せよ。 バカ!
けど、はためにはうまくみえる。6人のサムライ
踊り子相手にたたかい、強そうにみえる。
けど、それは周りがスゴイのだ、いわゆるプロの殺陣師のおかげだ。
元々、日本の時代劇のために刀の演技から発展したものだ。ただ、上手く見せるには勝つ方ではなく、やられ役のほうが上手くないといけない。
つまり、 この劇の主人公は彼だ。そんな、彼を引き立てるためにすべて行われている。
「奥のヤツも、居合い
わかりきった指摘なんていらない。
顔をそむける。
マジ、ツマラナイ……ずっと……つまらないまま。
出口のないモヤモヤを私はいだいている。
「な、なにが言いたいの?」
睦月は指さしたのは中央の勇者。
「いや、あの男の下手さをごまかすだけだけの殺陣にイラ立ってるのはお前だけじゃない」
ピーンときてしまう。
こいつも愚痴りたいんだ。
「ムツもそうなんだ」
あだ名呼びはさっきの意趣返し。
年上の達人にそんな呼び方したら、怒られるかな?
すこし警戒したが、彼の表情はかわらずに言葉をつづける。
「う〜ん。それだけじゃないんだな。ちょいと、やってみないか?」
突拍子のない提案に私は目をパチクリさせていた。
けど、ムカつくし壊せるなら、それも悪くない。
おもしろそうだ。こんなつまらない舞台なんて…どうでもいいし。
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