第34話

旭陽が、お姉ちゃんに告白している現場を見てしまったのだ。



あの時、旭陽は中学3年生で、ちょうど高校のスポーツ推薦が決まった頃だった。



『す、好きです!菜津美さん!』



その頃お姉ちゃんは大学生で、すでにクズ男に沼りつつあったのだ。だから、当然旭陽は撃沈して。きっとそのこともあって、高校でグレ始めたのだと思う。  



そんな旭陽を見ているのが苦しかった。



自分だって失恋して悲しいはずなのに。なんでか、旭陽の想いを考える方が辛かった。好きな人が失恋しているなんて、自分のことよりもずっと重大に思えてしまって。



だからそれからも、旭陽のお姉ちゃんに対する恋心を、私は応援し続けたのだ。



1位を取りに行きたいはずの私なのに。恋だけは違った。無理だった。



旭陽の浅黒い肌。今でも太陽と夏の匂いに包まれていそう。テーブルに置かれたやたら大きな手は、昔よりも骨ばっているように感じた。



深夜に見た、暗闇でのキラ君の肌とは全然違う。綺麗すぎるキラ君の手は、私に散々触れておきながら、旭陽ほどの生々しさはなかった。

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