第25話

「おっす成世ぇ。今日も辛気臭いな。部署の士気は確実にお前が下げてんぞ?」


「そうだぞ成世ぇ〜、嬉しいなら両手上げて喜んでみろって」



同じOA機器の営業部仲間、西條洋二さいじょうようじさん(29)と野口のぐち英明ひであきさん(30)には、なぜかこのポーカーフェイスがからかわれている。



「成世はブラインドタッチまで無の骨頂だな。」


「画面にはちゃんと文章が打ち込まれてるのに、キーボードの音がミュートすぎる」


「指使いがきもい。」


「化粧が薄い」


「成世の髪の毛って伸びる時あんの?」


「成世って子供の頃から姿形が変わってなさそう」



陽キャ代表、焦げ茶髪サイドパートの西條さんと、パリピ代表、薄茶髪センターパートの野口さんに両側から成世成世と言われる日々。



しかし能面代表、シナモンベージュの成世は動じない。 



いじられキャラとは無縁だった私が、この電機メーカー、ALISSアリスに派遣入社し、絶対に営業職には向かないと、強引に営業に同行させられたのがきっかけだった。



面白いようにOA機器が売れていくというセオリーが誕生し、今回、派遣から見事正社員に昇格。ポーカーフェイスの女性営業マンが誕生した。



元々私は人前で感情を出すのが苦手で、普段はほぼ無表情。でも仕事となればいくらでも百面相が出来てしまう。



つまり、現金な私は1位を取るためならばいくらでも笑えるし泣けるし、鼻で笑えるのだ。



キャバでも営業でも、オンリーワンよりNo.1を取りに行く。



それが成世秋奈なるせあきなという人物。

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