第24話

「成世ちゃん!こないだの販売士試験満点だって!おめでとう〜!」


「さすが、派遣から正社員に昇格しただけのことはあるねえ。」


  

私の直属の先輩である峯田みねたマリア先輩(32)と、直属の上司である小日向こひなた課長(41)が、私の前で賛辞の言葉を投げた。



すかさず立ち、角度70度の当たり障りないお辞儀をする私。



「ありがとうございます。」


「それに、派遣であれだけの営業成績が取れるなんて前代未聞だよ。今後もOA機器担当の牽引役として期待しているよ。」



上司の期待の言葉には、どれだけの社交辞令と建前が込められているのか。



いいえ、期待される成世は素直に重圧だと受け止めておくのが正解。



「課長〜、あ・た・し!成世ちゃんの仕事ぶりは先輩であるこの私のお陰ですから〜。」     

    

「そうかい峯田みねたくん。君の成績はヒラメのように平坦だけど、メンタルも何一つ変わらないのが凄いところだよ。」


「もう〜課長〜っ!あ、今日のお弁当、鰻弁当発注してもいいですかあ〜?」 


「ははは。勘弁してくれ。私の小遣いもヒラメ並なんだよ。」


 

楽しそうに鰻とヒラメの話で盛り上がる二人。



その背中を確認して、私は表情一つ崩さず席に座る。座った反動で、でこ出しスタイルのボブヘアが前に垂れ下がり、隠れた口元が自然と緩む。



販売士試験満点?え、凄くない私?かなりやるじゃない、どう考えたって絶対受験者の中で1位じゃない?!



心のウキウキが止まらない。   

  

 

でもそれを顔に出せない日中の私。ポーカーフェイスを貫くのがオフィス内での私なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る