第13話
ポケットを叩いてもビスケットは増えないし、さまよう指で電子タバコに触れてもニコチンは含有量に含まれない。
ま、面倒くさいよね。いくら305万円といわれたって、No.1のキラ君からしたら大した額じゃないだろうし。どうでもいい処女に時間割くほど暇なら、ベテランペテン師を目指していることだろう。
別に断られたところで、「ですよねー!変なこと言ってごめんごめん!」というシナリオで返すだけだ。
強がりな私を前に、キラ君の指がポケットからぬるりと出されて。私の喉元が上下した。
「ファイナルアンサー?」
「ふぁ。ふぁいなるアンサー!」
親指を立てる私の震える手を、なんの迷いもなく握るキラ君。私の利き手を、連行するように囚える大きな指。
絶対に承諾してもらえないと思ったのに。瞬きの頻度が高くなる私は、彼の手の言うなりになるしかなかった。
ここから305万円案件は発生しているらしい。握られた指と指の間は強くて柔らかい。ちゃんと私は、手をつなげているのか。大した経験がないせいか、それすらも不安になる。
「深夜に空いてるとこなんてラブホくらいしかないけど。いい?」
「…ん。いいよ。」
いつもの帰路とは反対方向へと歩いていく途中も、キラ君の糖度は上昇していた。
憎まれ口を叩くわけでも、面倒くさそうに嫌々な素振りをするわけでもない。何も言葉を発せず、歩幅を合わせてくれている。
それだけで糖度が上がっているとか、どれだけキラ君のハードル低いんだ私。
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