第12話

「305万、全額くれるなら貰ってやってもいいですよ?」



へらっ。と、馬鹿にした笑みで私を見下す現役ホストNo.1。



“アホかお前。アホだな。”と忌々しい顔が言っている。見事優位に先手を打たれた。現役No.1を卒業したキャバ嬢は途方にくれる。



でもお金を払って買うのは私の方なのである。私が客側。私が優位に立たなくてどうするか。 


  

「305万円、きっちり耳を揃えて払ってやろうじゃないの。」


「処女とは思えない威勢の良さだな。」


     

「もうちょい可愛く言えんのかい。」と笑うキラ君の糖度が、少しだけ上がる。



オプションで“甘さ”と“氷の量”を選択できたらいいのにね。



「本気?本気で俺に抱かれるつもり?」


「ほ、本気だよ!」


「セックスの意味、分かってる?」


「広辞苑よりは詳しいと思う!」



処女というだけでも嫌がられるって分かってるのに。なんで私ってば、かわいくなれないんだろう。



キラ君がNo.1というだけで、どうにも下でに出られないのだ。トイプードルとアメリカンショートヘアに弟子入りして、プライドのない馬鹿なフリを学びたい。



「なんで、俺?」

 

「お金で解決できるから!あ、あと、素性を知らないまま後腐れなく終われるから!」


「ほーん俺じゃなくてもいくね??」


「な、慣れてそうだから!!そう、処女にも慣れてるベテランペテン師だから!!」


「ベテランってほどでもない。」


「認めるんかい…。」



スーツのポケットに手を突っ込むキラ君。多分その手は、ポケットの中の電子タバコを吸おうか迷っているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る