二話 一
ダンジョン。
と言っても、色々とある。
まずダンジョンとは何か。
一般的にゲーム、漫画などに出てくるダンジョンと違い、現代社会においては、明確なそれっぽい定義がなされたダンジョンと、ゲームなどに出てくる方のダンジョンの二パターンの解釈がある。
明確な定義があるダンジョン。これは、ダンジョン出現以降におけるダンジョンだ。
魔力、モンスターの二つが揃っていれば、荒廃した砂漠の遺跡でも、深海の底にある神殿でも、天空の城でもダンジョンである。
とはいえ、細かい分類はある。
といっても、日常で使うものは一つくらいしかない。
建物が人工物か。これで自然系か人工系に分けられる。
人工系のダンジョンは塔、城、要塞に加え、遺跡、神殿、幽霊船など様々ある。
だが、大抵のダンジョンは自然系だ。
俺が今向かっている所も同じく自然系。
自然系は巨大な木が生えててそれにモンスターが住み着いていたり、珊瑚礁が新たに生まれてたり、無人島だったりと、そういうのが多いのだが、中でも一番多いのが洞窟。
数はおよそ七割くらい。洞窟同士がくっついていたりすることも珍しくない。
学校の敷地の端の方に、それはあった。
特別な名前は付いていない。第二千五百七十八、だとか。そういったもの。
その看板の横の自動ドアからダンジョンの前の受付所に入った。
受付所。タイル張りの床と壁。
壁には巨大なモニター。広告が流れたりしている。
流石にあの事件があったからか、人は少ない。
とはいえ、それでもゼロじゃない。
一応、ダンジョンの受付自体は結構ある。渚を送っていったばっかりなので遠い方の受付所だが、もっと近いところも探せばある。
受付の人は、いない。ロボットだ。
学生証を出せば、許可証が発行される。切符みたいなもので、入るためには必要。
魔力で出来ているため、三時間もしたら手持ちから消えてしまっているが……入場に三時間も掛からない。
許可証をタッチすれば、魔力の反応で扉が開く。
中は、ダンジョン。
あのダンジョンだ。
危険度はダンジョン事により異なっているが、ぶっちゃけ指標として参考にならない。
現にここは最上級のランクで割り当てられているが、それはあくまで、最高の難易度で定められている。
基本は下層に行けば行くほど強いモンスターが出てきて、上層だとどこも似たりよったりだ。
園児や小学生なら別だが、高校生ともなれば、余裕で圧倒できるくらい小型のモンスターばかりである。
この学園じゃ、そんなモンスターは雑魚でしかない。
誰もいない狩場で、拳を握ってぶん殴れば、小銭は稼げるのだ。
といっても、だ。
それで稼げる額はちっぽけである。流石に少しはリスクを冒さないといけない。
代行の依頼が無い時はこうして自由探索という形を取らなければいけないので、どうしても仕方なくではあるが、少し深いところに潜るのだ。
レッドピッグ、というモンスターがいる。
豚肉としての需要になるモンスターだ。
尻尾の核を機能停止させれば死ぬ、あまり強くないモンスター。上層に多くいて、今では市場にも安値で出回っている。
のだが、その上位種のことはあまり知られていない。
ファイアピッグ。
長さの平均は一メートル二十センチ程度。縄で縛って、ギリ背負えなくはない感じのモンスターだ。
尻尾に核は無い。その為、比にならない強さ。
最低でも日銭分くらいは売れる。
「さて……」
ファイアピッグ。一頭見つけるのに少なくとも数時間は掛かるモンスター。
早く探そう。
now loading……
そうやすやすと事が運ぶ訳では無い。
洞窟内を歩き回っていても、松明と階段があるだけだ。
ちょくちょく設置されている看板を見れば帰り道は余裕で分かるからどんどん進んでいっているのだが、どこにもいない。
地底湖、地下渓谷、空洞を歩き周り、後から設置された階段を下り、松明に照らされた採掘場を超える。
「……?」
やけにエンカウントが少ない。
モンスターは日によってエンカウント率が大きく変わることもある。
モンスター側にも生態系があるので、それが何らかの理由で刺激された場合、こうしてエンカウント率の高い小型モンスターがいなくなったりもするのだ。
ただ、そういうことは中々無いはずだが……
今時流行っているダンジョン系のウェブ小説でも無いのだからそんなやすやすとイレギュラーが起こる訳が無い。
どうせすぐエンカウントするだろうと思い、止まらずに歩を進める。
now loading……
「……いや」
おかしい。
ここまでモンスターがいないのも珍しいものだ。
「まさか、な」
イレギュラー、なんてことは無いだろう。
というかどうせ、そういうのが起こっているのなら、既にスマホから警報でも鳴ってるはずだ。
ならばイレギュラーじゃないはずである。
その後探し回っていると、ようやくモンスターを発見した。
「運が良いな……」
ファイアピッグ。通常なら、今の三倍くらい時間をかけてようやく見つかるモンスターだ。
特殊な内臓を持っていて、火を放つことが出来る豚。
丸焼きにすると美味しいらしい。もっとも、俺は全て換金しているが……
通常、魔力が近くにある場合、それを吸収して身体能力を上げることが出来る。
剣や弓、または槍などを扱うことができるのだ。
……とは言うが、俺の場合はそんなに強くならない。
スキルは扱うことができるのだが……今は誰もいないので使うことができるが、誰かがいると普通は使わない。
万が一バレれば、即刻地獄行きだ。どういう処罰になるかも分からないが、最後には確実に死ぬだろう。
とにかく武器を使わないといけないのだが、武器代がいくら掛かると思っているんだ、という訳で勿論素手である。
ただ――
「……スキル、か」
一度、手を握る。
誰かに見られたら……まあ、それは言いすぎかもしれないが。
バレたらダメな、俺のスキル。
最強の、概念。
これがあるから、俺は日銭を稼げているものだ。
魔力には、個々の持つ操作範囲がある。
人によって形、長さ、大きさが違っており、また、モンスターにもその範囲が適応される。
脳味噌で魔力を操る。
重なり合う範囲は、頭脳戦で決まる。脳のスペックが勝敗を分かつ。
魔力を、変換する。
黒。その正体は、いつもそばにある普遍的なもの。
『重力』。
方向指定、範囲指定も可能。
点として発動するとブラックホールに。
面として発動すると、一方通行の壁に。
空間として発動すると、逆風にもなる。
非可食部位である脳に、俺の操作を伴った魔力が侵入する。
そして、ファイアピッグは。
脳の右半分と左半分、それぞれがそれぞれを潰し合うようにな重力の発動により。
死んだ。
誰にも見られない中でなら、使える。
最強と言っていい――俺の、俺だけの力。
「……もう一匹、か」
縄で縛りつつ、そう呟く。
脳から首へ血液が流れるのを防ぐため、重力で堰き止め、縄で可食部位を保護する。
鮮度は抜群。大丈夫だろう。
そのまま背中に抱えた。
このときばかりは、無料で貰える消臭剤がありがたい。
now loading……
ダンジョンのモンスターは、それぞれ人間に対しての態度が違う。
積極的に殺しに来るモンスターから、攻撃されたらようやく殺しに来るモンスターまで。
基本的にファイアピッグは硬い癖に炎攻撃が面倒だ。そしてここでいう、攻撃されてから攻撃するモンスターの分類なので、初撃で仕留める以外だとあまり狩られない。
ただまあ、元の数がかなり少ないので、会えたらラッキーのレベルだ。
ちなみに死体はダンジョンが勝手に処理してくれている訳じゃない。
雑食性のモンスターがすぐに食べ尽くすので実質処理されているようなものだが。とはいえドロップアイテム、だとか都合のいいものは中々無いのだ。
アイテムボックスとかいう四次元系のポケットもある訳がない。あんなのフィクションの世界だ。
現実は勿論、死体を捌く。狩ったモンスターが原型も留めなくなったらもう食用として使えない。
「しかも……重い」
はぁ、と一度息を吐く。
重力で楽できる場面もあるが、こうして受付所に近くなってくると、流石に使わない。
死体を丸々一つ、腐らない内に運ぶ。
そういった重作業に微妙に打ちひしがれていた。
毎日こんな感じだ。
本当に、面倒で、本当に憎い。
稼ぎの大半は借金返済に充てられる上に、そこから学費を稼がないといけないのである。全くままならない。
今日はやけにモンスターが少ない。そして探索者も少ない。
お陰で作業はまだスムーズに進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます