第45話

「百合、おいで、怒ってないから。」

朔くんの低くしっとりとした声が耳に届く。

声からはもう狂気を感じないけれど、さっきの光景が離れない。

私は恐る恐る立ち上がって、朔くんの方に手を伸ばして、彼のされるがままに腕の中に収まった。

「百合は、俺を捨てたりしないでしょ?俺を愛してくれるよね。」

「朔くん、」

「分かってよ、俺には百合しかいないの。」

「ごめんなさい、鍵、開けたりして。」

「いいよ。許すから、俺を嫌いにならないで。」

赤ん坊のように俺の体に縋るように抱きついてくる朔くんの姿を見て、やっぱり私はこの人が好きなんだと思った。

そう思ってしまうのはやっぱり私がおかしいからなのかな。


縛られた桔梗と武田琉花ちゃんは、使っていないという地下の空き部屋に監禁された。

鍵は外からしかかけられなくて、中から開けることは絶対にできない。

窓もないから、叩き割って脱出することも不可能。

当たり前だけど、私はその部屋に行くことは禁止された。私が鍵を開けてから、朔くんは私の隣から離れようとしなかったし、眠る時でさえ、朔くんの隣で眠った。

その数日間、殺人事件は起こらずに、世間では収束したものと思われていた。

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