第43話
「何してるの、百合。」
桔梗の後ろから覚えのある、でもいつもの柔らかさがない低く怖い声。
桔梗の横を通り過ぎて私の方に来ると、伸ばしていた手を握り、目元を手で覆われて抱きしめられた。くるっと体を反転させられて抱きしめられた。
ああ、この匂い。この温もり。私の体はもう朔くんを覚えていて、喜んでいる。
「貴方が、百合を?」
桔梗の低い声が聞こえる。
朔くんが私を抱きしめる手に力が入る。
2人の表情は見えないけど空気が張り詰めている。
「あんた、誰?」
「百合の友達、です。返して、ください。百合を返して。」
桔梗の声はどんどん震えていく。
私は桔梗の顔を見たくて、握られていない右手で朔くんの胸を少し押し返した。
朔くんは小さく舌打ちしてより力を入れた。
「百合は、俺のものになったんだよ。」
「百合は!貴方のものなんかじゃない。」
「じゃあ、君のものなの?」
久々に聞く朔くんのドスの効いた低い声に、ひゅっと喉が鳴る。
「誰がなんと言おうと、百合を返す気は無いよ。でも、ここがバレるのは不覚だったなあ。」
そういうと、もう1人の足音が聞えた。瞬時にそれが海琉さんだと気づく。
「百合、ねえ、なんで鍵開けたの?帰りたくでもなった?俺の事、好きなんじゃないの?」
片手で腰を抱かれたまま、もう片方の手で顔をぐいっと上に引き上げられる。
朔くんに見つめられる瞳を避けるように、桔梗の方に目を向ければ、海琉さんが桔梗の首にナイフを当てていた。
あの日と同じ光景に、呼吸が荒くなっていく。
「どこ見てるの、百合。こっち見てよ。」
「私が、悪かったから、ごめんなさい、鍵を開けて、約束守らなくてごめんなさい、もうしないから。桔梗から、手、離して、お願い、海琉さん。」
「あーあー。そんな苦しそうな顔しないでよ。でもね、百合が悪いんだよ、百合が鍵を開けなければ、
彼女を殺すことはしなかったのにね。」
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