第3章

百合Side

第42話

見間違いであってほしい、そう願ってもう一度覗いてみるけど、それは確かに桔梗だった。

なんで?どうしてここがわかったの?

普通なら、嬉しいはず。

殺人犯に誘拐されて、この屋敷に閉じ込られて、友人が訪れたなんてことがあれば、すぐにでも玄関を開けて、会いたかった、怖かったと言えば、簡単に家に帰ることが出来るだろう。

でも私は、桔梗の姿を見て、朔くんの顔と、朔くんが私に言った言葉がよぎる。

もちろん桔梗には会いたい。この扉を開けて桔梗に会えば、家にも帰れる。

でも、そんなことをしたら、私は朔くんから離れなくちゃいけない。朔くんが、捕まってしまうかもしれない。

「百合、いるんでしょ?私!桔梗だよ!開けて、お願い百合。」

懇願するような桔梗の声が聞こえてきて、私の手はチェーンに向かう。

私の中では朔くんが1番だった。なのに私は結局、この鍵を開けてしまう。

もう後戻りはできない。

ごめんね、朔くん。


ゆっくり鍵を開けたと同時に、勢いよくドアが開いて、桔梗が私に飛びついてきた。

懐かしいなあと感じてしまう桔梗の香水の香りに、自然と涙が滲む。

「百合っ、会いたかった。」

「ききょう、私も。」

抱きしめられながらふと視線を感じた。

目を開けると、見たことない女の子も一緒に来ていてこちらを見ていたことに気付いた。

「桔梗、この人は?」

まだ体を抱きしめながら、そう聞いた。

桔梗はああ、と私の体をゆっくりと離した。

「私の幼馴染。武田琉花。同い年なんだけど事情があって、学校には行ってない。百合の隣の家にたまたま住んでたから巻き込んじゃった。すごくいい子なの。」

どうも、と会釈してくる彼女に、私も会釈した。

さっきまで朔くんしかいないと思っていたのに、桔梗の姿を見ちゃったら、家族を思い出して、家に帰りたい気持ちが強くなる。


やっぱりこの屋敷に来てから私は弱くなった気がする。


「百合、帰ろう。」

桔梗はそう言って私の前に手を差し出した。

この手を握り返したら、この生活は終われる。

でも、私が求めている手は、桔梗じゃない気がした。それでも、これ以上家族に心配をかける訳には行かないと、私は桔梗の手を取ろうと手を動かした。

あと少しで指が触れる。手が震えているのが分かった。それでも、とグッと力を入れ握ろうとした時、

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