第40話

桔梗から連絡の途中、私聞きたいことがありすぎた。

どうして、友人が誘拐されて、どこにいるのかを知っているのか。

だけど、桔梗の勢いに押され聞けないまま電話は切られた。

桔梗とは、幼稚園からの所謂幼馴染。そういっても、中学校も高校も別の学校に通っていたから、2人で遊んだことなんかは少ない。でもたまに連絡をとって近況を話していたし、お正月だけは会うようにしていた。ここに引っ越してきてからはあっていないから声も久しぶりに聞いた。

桔梗は私とは真逆で、人から好かれる、明るい性格だった。

たぶん幼馴染じゃなければ私とは仲良くなってないだろう。


次の日。桔梗は本当に私の家に来た。

久々に会う桔梗は変わっていなくて、会うなり、私の体を抱きしめて、久しぶり、と声をかけてくれるから、唯一の信頼出来る人間に、体重を預けて抱きしめてもらった。

ひとまず話を聞こうとソファに座らせて、家にあった紅茶を目の前に差し出した。

「琉花。私に聞きたいことあるでしょ?聞きたい内容もだいたいわかるけど、それを琉花の口から聞かせて。」

桔梗はゆっくり香りを楽しむように紅茶を一口飲んだ。

「なんで、誘拐された人がここにいるって、分かったの。それは犯人しか、分からない事なはずでしょ?分かってたら警察が来るはずだよね。」

「さっすが琉花。鋭いよね、ほんとに。愛のパワーってやつ?私が大好きな友達だから」

そう言って、桔梗は私の質問を流した。

言えない理由でもあるのかと思って、私はそれ以上は聞けなかった。

私の家にはテレビがない。おばあちゃんが元々持ってなかったから見る習慣もない。

スマホも連絡を取るように持っているだけだから、世間の話題のニュースなんかは知らないことがほとんど。

それでも桔梗の言う、誘拐事件は知っていた。連日報道されれば誰だって目に入る。

世間を騒がせている連続殺人犯が、何を思ってか女子高校生の黒須百合ちゃんを拉致しているのは知っていた。まさか桔梗の友達だとは思わなかったけど。

彼女がどこにいるのか誰も知らない、だから私が探している、と桔梗はぽつりと言った。

「それで聞きたいのはさ、あの屋敷に背が高めの、細くて肌が白い子見た事ある?」

桔梗は身を乗り出してそう聞いてきた。

本当に、彼女のことが大切なんだ。

「あの屋敷には、2人しか住んでないはずだけど、」

長身の2人しか住んでないはず。言い切ろうと思ったが思い出した。あの2人より背の低い男の子の存在。桔梗が言っている人は、もしかしたら彼のことなんじゃないかって。

もしかしなくても、絶対にそう。男の子に見えたけど女の子だったのかもしれない。

「なに、いるの?百合が、そこにいるの?」

「みか、けた、気がする、って桔梗?待って、」

私の言葉も最後まで聞かず制止も振り切って、桔梗は走って私の家を飛び出し、躊躇することなく屋敷のチャイムを鳴らした。

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