第39話

【武田琉花】


家庭が崩壊したのは、4歳の冬だったと思う。

4歳の冬、お母さんは、不倫相手に振られたと、機嫌最悪で家に帰ってきた。お母さんは、お父さんに隠そうともせずに、何人もの男の人と関係を持っているらしかった。お父さんの横で眠っていた私を叩こうと発狂していたお母さんをお父さんはすぐに起きて私を助けてくれたらしい。

その後お母さんとお父さんは、直ぐに離婚ししお父さんは私を連れておばあちゃんの家で暮らし始めた。

だから私の記憶の中にお母さんはいない。今の話もおばあちゃんがこっそり教えてくれた。

私がすくすくと成長していく中、高校に入学した一昨年お父さんは、病で帰らぬ人になった。

私が高校を卒業する姿を見たいと言いながら家で眠るように息を引き取っていた。

お婆ちゃんは私を抱き締めてくれて、ずっと住んでいた地を離れて、小さな一軒家に引越しをした。のどかな田舎町だったから隣の家は少し離れていて、大きな屋敷だった。そこには誰が住んでいるかも全く分からなかった。

学校には行けなかった。お婆ちゃんを1人になんてしたくなかったし、お父さんをなくした悲しみは、案外深く私の心を傷つけていて、人に会うことが厳しくなっていた。


隣の屋敷に住んでいる住人は2人だと、そう思っていた。ガーデニングをしているときに車から下りる姿を何回か見かけた。2人とも、凄く身長が高かったくらいで顔なんて分からなかった。男二人でどうしてこんな何も無いところに住んでいるのか、予測すらできなかった。

2人だと思っていた私の予想は大きく外れることになった。


いつも通り、外に育てている花に水を上げていた時だった。屋敷のドアが開いて、初めて、3人目の住人を知った。

たぶん男の子。他2人よりは少しだけ背が低くて、細い体つきで、長身のひとりに手を繋がれていて、大切に思われているのかなとここからでも分かった。やっぱり遠くて顔はよく見えなかった。私に気づいたのか、いつもの2人はこそこそと話していた。その直後、細身の彼の腰を抱いて車に押し込んだ。


なぜだか、彼にはもう一度会いたいと、そう思った。会って、話したい。

人のことが怖いはずなのに彼には何か魅力があると思った。

ポケットに入れていたスマホがヴーっと軽く震えて、私はスマホに目を移す。


「あ、もしもし、桔梗?」

「琉花?久しぶり、元気?」

「元気、かな。桔梗は?」

「友達がさ、誘拐されて。」

「ゆう、かい?」

「場所はもう分かってる。琉花の家の隣。明日、そっちに行くから。」

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