他Side
第38話
【橘 琴音】
つまらない大学の授業に耳を傾けて、でも結局何を言っているのか理解出来ずに、机に突っ伏していれば、あっという間に90分は過ぎる。
今日はこれがラスト講義だったよね。
そんな事を考えながら、友人から今日の分のノートを借りて、私はバイト先に向かう。
こうして過ごしていたら留年したけれどどうでもよかった。
これが毎日の私の日常。何も変わらないし、変える気もない。
コンビニで夕方から夜中までバイトをして、家に着くのは夜の12時頃。
そこからノートを写して、お風呂に入り、明日の時間を確認してようやく眠りにつく。
今日はコンビニに客があまり来なかった。
コンビニは波があるから、物凄く暇な日もある。
人手が足りそうだ、いつも働いてくれているからと店長に帰るように言われ、家に着いたのは、7時だった。
することないな、とぼーっとしていると電話が鳴った。
私に電話をかけてくる人はほとんどいない。
だからこそ相手の想像がつき、確認もせず通話ボタンをスライドした。
「隼人、どう?」
電話の相手は、中嶋隼人。家が隣同士でいつも一緒にいたお兄ちゃんのように慕っていたから、家族ぐるみで仲がいい。私よりも2歳年上だけど、しっかりした彼とは今も仲が良く、電話をする。
「駄目。手がかりなし。証拠はなんにも出てこない。あんだけ派手に殺せば、なにかしら出てくるはずなんだけどな。」
隼人は警察官だ。28歳にして捜査一課の若手エース。隼人は私のために、ずっと調べてくれている。
「もう8年前か、お母さん。」
「うん、もう、8年にもなるね。」
私の母は、8年前、命を落とした。殺されたんだ。
隼人の父も警察だったことから、現場を見させてもらうことができた。
喉を掻っ切られて鋭く血が飛び散った現場に、寒気がした。
犯人は当時まだ15歳で、犯人と同じ中学生だった私にとって、自分と歳が大して変わらない男に母を殺されたと思うと、怒りにまみれた。
犯人は18歳までの3年間を、少年院で生活したそうだ。これも全部、隼人が極秘で教えてくれた。
もう、悲劇は起こらない。その希望は、3年後、犯人が出所して直ぐに壊された。
60代の男が殺された。私の母を殺した犯人と同じ人間がやったということは証明できなかった。
でも、決定的なことがあった。
母が殺された時と同じような現場で、同じ殺され方をして男は死んでいた。
私はそのことを隼人から聞かされた時、私の母を殺した、未成年だったあの男に違いないと思った。
さすがに名前までは隼人も教えてくれなくて、知らなかった。だからあの男がやったかも、その地に居るのかも分からなかったけど飛び散った血しぶきは、母の時のものとそっくりだった。
出所してもなお、殺人を続ける男に、憎しみを抱いた。母を殺して、3年もの少年院で、反省したんじゃなかったの。
1年に3人ほどのペースで殺人を重ねていった男には何か心境の変化があったようだった。
今年に入ってまだ2か月しか経ってないのに、3日に1度ペースで人を殺すようになったことで着々と人数は増えていた。
娘を誘拐された、という報道を見て、家族が泣く中報道される娘の顔が写ったテレビを食いつくように見た。
彼女を見つければ、犯人の顔がわかるかもしれない。そう思った。
同じ方法で、絶対に、殺してやる。
喉を掻っ切って、お母さんの苦しみを、
連続殺人犯に、与えてやるんだ。
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