朔Side
第36話
あっという間に外は暗くなり、海琉の手元には紙袋が有り得ないくらい持たれていた。
全部を百合が欲しいと言ったわけじゃない。言ってなくても、俺が似合うなあと思った服とか、じっと見つめていたものを全て買ったから、こうなっている。
最初は嫌がっていたものの、百合も化粧されていることなどわすれているようで、高校生だなあと感じさせる笑顔を見せてくれた。
ようやく一通り見終えた時には陽が落ちかけていた。
握られている手がふわふわと緩んでいくから顔を覗くと、車に戻っている途中だったけど、百合は瞼が今にも落ちそうな顔をしていた。
「百合、眠い?」
「ん、久々の、外だったし。」
「そうだよね、もう少しだから、車で寝ていいからね。」
海琉が車を近くまで持ってきてくれて、車に乗ると、百合はすぐに目を瞑って眠りについた。
「ふふ、可愛いな。」
「そりゃ疲れるよな、こんなに歩いて。」
車の中では、特に会話はなかった。
俺はひたすらに百合の寝顔を見て、この愛しい人を手放さなくてはいけない日が来ないことを願うことくらいしか、出来なかった。
屋敷についても百合は起きなかった。
気持ちよさそうに寝ている顔を見ていたら起こすのがもったいないと感じた。俺は百合の体を横抱きにして中まで運んで、ベッドに寝かせた。
ショッピングモールに行って俺は、やっぱり、狂っている。そう実感した。
あれだけの人を見て思ったのは、幸せそうとか、楽しそうなんて感情じゃない。
こんなにも大勢の人がいれば、どれだけ殺してもいいな、という事だ。
隣で楽しそうに笑ってくれる百合とは対照に俺は欲望に駆られていた。
海琉はそれに気づいているようで、時々目を合わせてきた。
まあこんなところで殺しはしないが、うずいて仕方なかった。
「死体をどうするか考えないとな。」
リビングに戻って、2人でソファに腰を下ろして話し合う。
百合のいないリビングは異様に静かで、百合がいなかった頃の日常が思い出せない。
「隣の人間にも、気をつけろよ、朔。」
ああ、そうだった。今日出かける時、百合のことをじっと見つめていた人間の話だ。
「百合には近づけないようにしないと。」
「もちろん、わかってるよ。」
結局話し合って、ひとまず安全を考慮して地下の鍵がないと入れない頑丈な部屋に入れておくことになった。そのうち会社の人間はいなくなったことに気付くだろうが、幸いなことに死体となったあいつは評判が悪い変態。警察に届けを出されるまで時間はあるはずだ。
俺も久しぶりに疲れたのだろう。ベッドに入れば、すぐに眠りについた。
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