第35話

「よーし、行くか。はい、百合手貸して。」

と朔くんが俺の方に手を差し出してくるから、約束ね、と言われたことを思いだして私はその手に自分の手を重ねる。

こんな事しなくても、逃げることなんてしないんだからいいのに。

久々に外に出ると、直に浴びる太陽の光に目が霞んだ。

段々とまぶしさに慣れてきた時、少し遠くに男性のシルエットが見えた。

遠すぎて、顔なんてわからなかったけどこっちを見ていたような気がする。

「朔、人、いる」

海琉さんが警戒するようにこそっと朔くんに言うと、朔くんはぐっと私の手を引っ張って、車に押し込むように乗せた。そっか、見られない方がいいんだもんね。

「あそこに人なんて住んでたっけ。」

「いや、わかんない。引っ越してきたのかこれまで会わなかっただけか。」

「百合、顔見られた?」

「遠すぎて、私も向こうの顔なんてみえなかったから、大丈夫だと思うよ。」

車に乗っている間も、朔くんは私の手を離さなかった。

ショッピングモールに着いてからは、とにかくいろんな服や雑貨を見れることが楽しくて自分が今誰と来ているかなんて忘れてしまうくらいはしゃいだ。

完全に男の子じゃなくて中性的な部分を残してくれたおかげで洋服を見ていても不審がられることはなかった。

これ可愛いなぁ、なんて手にとってみた服は、欲しいと言っていないのに店を出る時に海琉さんの手元にあったり、食べたいと言っていないのに、朔くんは美味しそうなものがあるとすぐに買ってきて、私に渡してくれた。

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