第2章

百合Side

第27話

痛む体と、痺れる感覚の中で、柔らかい感触が唇に当たっていた。

涙で濡れた目をうっすらと開けると、1番会いたいと思っていた人の顔がそこにはあった。

朔くんも目を開けてキスをしていたから、目が合う。

瞬きするだけで涙はぼろぼろと頬を伝っていく。

顎をくいっと上げられて、頬に手を添えられて私の瞳から目を離さないままキスをする朔くん。

私の涙が零れる度、目を細めて苦しそうな顔をした。

朔くんのせいじゃない。私が、玄関を開けてしまったから。

長いキスの後、やっと唇が離れて、朔くんは私の腰を片手で支えながら、もう片方の手で器用にパジャマのボタンを付ける。


朔くんの頬にはその人の血が飛び散っている。

血をみるとさっき見てしまった、朔くんが人を殺す瞬間がよぎる。

私は無意識に頬に手を伸ばし、指でその血を拭っていた。

「…百合、触らないで。こんな、汚いもの。」

朔くんはパジャマのボタンを締め終えたようで、私の指に付着した血を舌で舐めとった。

「ああほら、目、腫れちゃうから。冷やしに行こうか。」

朔くんはぐずぐずと泣き続ける私の体を軽々しく抱き上げると、そのまま2階に上がった。

冷やしたタオルは腫れた目にひんやり気持ちよくて、ぐずぐずだった顔は随分とマシになる。

ソファにゆっくり体を下ろされて、また朔くんは私を抱き締めた。


男の人が、私に襲いかかってきた時。

死ぬんじゃないか。殺されるんじゃないかって考えた。

そんな時1番会いたいと思ったのは、17年間育ててくれた両親でも、慕っていたお姉ちゃんでもなくて、朔くんだった。

男のべたべたと肌を触るその手に、朔くんの繋いでくれる長くてしっかりとした手に焦がれて。

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