第28話

「…朔くん。」

「なーに、百合。」

「私、怖かったよ。でも朔くんが来てくれてよかった。」

「うん。ごめんね。もう、1人になんてさせないから。」

「朔くんが、1番に思い浮かんだんだよ。」

「ご両親じゃなくて?お姉ちゃんでも、なくて、俺が?嬉しい、ありがとう。」


朔くんは俺の体を抱きしめるのをやめた。

そして首筋にくっきりと残る赤い印を、上から消すように、ぢゅっと音を立てて吸った。

その跡を見て私は愛おしいと思ってしまった。


自分でもわかっているんだ。

殺人犯を、好きになっちゃいけないってこと。

この人は、お母さんを殺そうとして、お姉ちゃんまで殺そうとして、私から、家族、という幸せを奪った人。

幸せに暮らす人達を、無差別に自分の娯楽のためだけに殺す、最低な人。



それでも

私の事を、世界一、愛してくれる人。

私の事を、すべてから守ってくれる人。




再確認した時、私の目からはまた涙があふれるように出てくる。

有り得ないと思っていた。

よくわからない屋敷に連れられて、不自由ない生活だったけど、決して自由ではない生活を強いられて。

だけどもう気づいてしまった。

もう誤魔化せないほどに気持ちが溢れてきてしまった。

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