第23話

屋敷で生活して、1週間が経った。

無情にも、この生活にも慣れてきてしまって、1週間も過ごしていれば、人は簡単に次の居場所に馴染んでいくのだと知った。

勿論今でも、家族に会いたいし、友達とはしゃぎたい。

学校で勉強したいし、部活にだって行きたいと思っている。


それも、前ほどではなくなった。

お母さんやお父さん、お姉ちゃんを思って涙を流すことはなくなった。

この家から飛び出してリスクを犯してまで家に帰ろうとは思わなくなった。

友達と遊んでいる姿を思い出すことも少なくなってきた。



私が殺人犯に連れ出されたことは、大々的にニュースになっていた。

1週間たった今でも、俺の名前と連続殺人犯という表記は隣り合わせで報道される。

毎朝見ていた女性アナウンサーの口から私の名前が連呼されている。

何も知らない専門家たちが、17歳の彼の幸せを奪った犯人を許さないだとか、早く家に帰してあげるべきだ、警察は何をやってるんだとか言っている。

もうすべてが他人事のように思え、私は感覚を既に失っていた。


人を殺すのが好きな殺人犯を隣にして、当たり前のように握られた手と、腰に添えられた手を払いもせずに、受け入れていた。彼の温もりが心地よかった。

私が不幸であると勝手に決めつける専門家にも腹が立つほどに、平穏な日々だった。

それほどまでに私は朔くんと暮らすこの生活に、慣れ始めていた。

朔くんが既に殺した人数は40人を突破して、目標まで60人となっていた。

血を全身に纏って帰ってくる朔くんは、当たり前のようにそのまま出迎えた私の体を抱きしめることが習慣になった。

前までは不快でしか無かったそれも、私は受け入れるようになり、与えられる温もりに甘えるようにまでなった。

誰のものか分からない血は、次の日のニュースで知る。私についた血は、朔くんがハンカチで綺麗に取ってくれる。


綺麗だよ、と言ってくれるこの瞬間が好きになっていた。


「百合?今日の夜、行ってくるね。」

顔を覗き込まれてそう伝えられれば、41人目の決行か、と察してしまう。

朔くんは夜の8時に海琉さんと家を出ていった。また帰ってきたら、血だらけのあの体で、抱き締めてくれるんだろうな。


彼を求める自分がいることに、具合が悪くなりそうになる。

朔くんや海琉さんがいれば、俯瞰で考えることもないのに。

一人になったこの家は、突然寂しさを帯びる。

2人が出かけてから1時間くらいは、テレビを眺めていた。

特に面白くもないそれを、ただひたすらに眺めて時間を潰していた。

もうどうやって暇を潰していたのかも分からない。

早く帰ってきて、そう思った。

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