第22話

「百合、どうしたの?」

「お風呂に、入りたいんだけど、場所がわからなくて、海琉さんが朔くんに聞けって。」

ああ、お風呂ね、そう言って朔くんが案内してくれて、私は洗面所に入った。やはりここも真っ白で統一された空間。

そしてお風呂の扉を開けるとまるで大浴場のように広い風呂場に私は少し驚いた。

ここまで広いと、私以外にも誰かいるんじゃないかとか、そんな怖いことを思ってしまう。



30分くらいお湯に浸かって、スキンケアをとりあえずする。

洗面所の扉を開けると目線の先にはなぜか朔くんがいた。

「わっ!なんでいるの!」

お風呂上がりの火照った顔でまだ上のパジャマのボタンを閉めてない、下着を見られる、と咄嗟に後ろを向いた。

「髪、乾かしてあげようと思ってきたんだけど、ほら濡れたままで出てくると思ったから。」

朔くんは私の後ろに回り、そのまま腕を回してきた。ひやっとした感覚に、少し声が漏れる。


「可愛い。ねえ、そこ座って。」

「まって、パジャマ、ちゃんと着てないから!」

そう言って腕を解いて、私はパジャマのボタンを急いで閉めた。

その間もずっと視線を感じていたけど、気にしないようにした。

パジャマを着て、言われたように鏡の前に座れば、心地よい風が頭に降りかかる。

朔くんの指が頭皮をなぞるように髪を撫でて、俺の眠気を刺激する。


お母さんに、幼い頃、よくやって貰っていたことだ。

上手に自分で乾かせないと嘘をついて、本音はお姉ちゃんにお母さんを取られたくなくて、理由を作りたかっただけ。

お母さんの優しい手が髪を撫でてくれる感覚が、とても好きだった。

どこか朔くんの手つきもお母さんにそっくりで。

その記憶が頭に過って、目頭が熱くなる。

この屋敷に来てからは、よく涙が流れる。



朔くんは俺の流している涙に気づいて、ドライヤーを止めて、正面から抱き締めてくれた。

「会いたいっ。」

「大丈夫、大丈夫だよ、百合。俺がいるから、ね?」

そんな声を聞かされて、私が泣いてるはずなのに朔くんの方が寂しそうな声を出していた。

私は感情のままに、朔くんの背中に腕を回していた。

ぎゅ、と抱き締め返すように力を込めると、朔くんはえ、と小さく声を漏らした。

「百合、抱き締めてくれてるの?」

「朔くん、が、抱き締めてくれるから」

そっか、優しいね、百合は、その言葉を聞いて、私たちはしばらくそこで、抱き締めあっていた。



久々に感じた温もりに、さっき泊まった涙がまた溢れそうだった。

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