百合Side

第20話

目が覚めたのは、明るかったはずの空が暗くなった頃だった。

ぼんやりと自分が気を失ってしまっていたことに気付いた。

えいやっと勢いよく起き上がるが、昼食を食べ損なったせいか、空腹が酷い。

ふらふらと私は力なく歩いて部屋を出た。

白いフローリングのリビングに向かえば、珍しく朔くんではなく、海琉さんが眼鏡をかけて資料を読んでいた。

見渡しても朔くんの姿はなくて、俺は仕方なく海琉さんの座るソファに1人分開けて腰を下ろした。

海琉さんがいくら影がなさそうとはいえ、まだ少しこの人のことも怖かった。

資料に集中していたのか、海琉さんは少し沈んだソファの感覚で私に気づき、眼鏡を外して資料から目を離した。


「起きたんだね、おはよう。」

「お腹、空いた。」

ふわっとした笑顔に少し身構えてしまった。

空腹のあまり咄嗟に出た言葉は何故かタメ語で。

でも海琉さんはそんなこと全く気にしていないようで、またふふ、と柔らかく笑った。

「そっか、昼食べてなかったね。分かった、準備するからおいで。直ぐにできるよ。」

そう言って海琉さんは食事する部屋に向かった。私も慌ててその後をついて行く。

直ぐにできるよ、の言葉通り、まるで用意してあったように、私が席に着くと続々と料理が運ばれてきた。今日は洋食が中心みたい。

海琉さんも一緒に食べるようで、2人分の皿があることに少し喜ぶ。

いつもは1人で食べることが多いから、やっぱり誰かと食べれるのは嬉しい。



「海琉さん。ありがとうございます。」

「百合、さっきタメ語で話してくれたでしょ、俺にはあれでいいから。あっちの方が俺もやりやすい。ね、お願い。」

敬語で話そうと声をかけたのにそう言われて、私は素直に分かったと頷いた。

「朔くんは、食べないの?」

用意された食事は3人分は軽くあるように見えるけど、皿の数が3つになったことはない。

「朔はひとりで食べるんだ。食べる時は、俺ですらこの部屋に入れてくれないよ。用意してドア先で渡して、中から鍵をかける。見られたくないんだろうね。」

全く気にしていないように、海琉さんは手を合わせていただきます、と言うと、上品に肉を切り分けて口に運んだ。

私もそれ以上聞くことはできなくて、おとなしくご飯を食べ始めた。

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