第19話
もし、普通に出会っていたら。
学校や街で、ふとした拍子に出会っていたとしたら。
純粋に、百合は俺のことを愛してくれたんだろうか。可愛らしい笑顔を俺に向けてくれたのだろうか。
警察から逃げることも無くて、俺の中で押し寄せる、人を殺したい欲にすら阻まれることなく、純粋に、百合だけを好きでいられたのだろうか。
あの夜、百合を見つけて、俺のものにした。その決断に悔いはない。
ただ彼女だけは殺さないと誓ったあの日に、俺はなにか大切なものをそこに、落としてしまったような気がする。
愛情にまみれたこの世を、憎く思っていた俺を、殺してしまいたくなるのだ。
彼を、百合を愛してしまっている俺に、鳥肌が立ってしまうのだ。
殺人鬼らしからぬ言動をしてしまう自分が怖い。
少しだけまだ付着していた血を、取り出したハンカチで優しく拭ってやる。
握られた手に少しだけ力が込められたように感じてしまう。
俺とは違う小さい手。
汚れていない手。
こちら側に引き込んでしまったことを許してほしい。
愛する人を見つけた殺人鬼は、
その愛を紛らわすように、今日もまた、どこかの誰かの命を奪う。
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