朔Side
第17話
昼を過ぎ、13時を回った頃。お腹が限界の悲鳴を上げ始めた時、タイミングよく玄関の扉が開いて、ゆりー、帰ったよ、と声がして、私は玄関まで走った。
一瞬にして走って出迎えたことを後悔した。
玄関に着くとそこには、顔やら服やら全身に血を飛ばして、血のついたナイフを口にくわえたまま靴を脱ぐ、朔くんの姿があった。
海琉さんは、あちゃーとでも言うように頭を抱える。そして気まずそうに眼を逸らした。
見てはいけないものを、見てしまった。そんな気がした。ほんとに、彼は殺してきたんだ。
たったいま、人間を。
殺してくる、なんて嘘だと思いたかった。そんなわけないのに。
朔くんが靴を脱ぎ終わる。一歩、また一歩とこっちへ近づいてくる。
腕を伸ばして、百合、と声を掛けてくるから、
「そんな汚いので、近寄らないで!」
とっさにそう叫び私は逃げるように、部屋を走り回った。
けれど直ぐに掴まって、彼に抱きしめられた。血の生臭い匂いと、べっとりとした感覚が、私の肌にまで馴染んでくる。あったかい血の感触がより殺した人間を思わせ、朔くんのはりつけたような笑顔と相まって気持ち悪さで吐きそうだった。
「いい子にしてた?ねえ、百合?」
「また泣いてるの?」
「聞いてる?」
誰の血かも分からないそれを、彼は私の頬にべっとりと塗りたくり、それを舐めた。
正気の沙汰じゃない。
「可愛い百合。これは君のための芸術だ。」
生臭いその香りに、私は酔ったように、頭が蕩けて行く感覚に陥った。
そこからの記憶はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます