第15話
「百合、ちょっといい?」
朔くんが遠慮がちに扉の外から聞いてきた。
どうぞ、と言えば、さっきまでの黒い格好とは裏腹に、真っ白なパーカーにジーンズを合わせた朔くんが立っていた。
こうして見れば、さわやかな好青年。
36人も殺した人には到底見えない。
「仕事に行ってくるよ。ターゲットが決まった。」
にや、と口角を上げて笑う顔を見て、ぞくっとした。
「まだ、俺のことが怖いの?ここにいれば、俺は君に何もしないよ。ここにいてくれるだけでいいから。」
「怖い。怖いに決まってる。嫌、近づかないで」
じりじりと距離を詰めてくる朔くんに体を震わせていると、包み込まれるように抱き締められた。
胸を押し返そうとしてもピクリともしない。それでも、押し返そうとすることはせめてもの抵抗。
「ごめんね。怖い思いさせて。でも、お願い。ここにいて。」
そんなに優しく言われたら、私はどうしていいのか分からない。殺すと脅した時のようにずっと恐怖で支配することだってできるのに。そんなことをしないこの人が分からなかった。10秒くらいそうしたあと、朔くんは海琉に声をかけて、車を出すように指示した。
その隙に逃げてしまおう、さっきまではそう思っていたけど、GPSをつけてあるから、無駄だよ、と言われた時、全てを諦めた。監視されていることなんてわかっていたはずなのに。
今日は、どんな人が殺されて、どんな人が、ニュースになるんだろう。
朔くんの行ってきます、という声を後に、この家には私1人になった。
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