百合Side
第14話
部屋に入れば、一人で食べきらないくらいの豪華な食事がズラーっと並んでいた。
ナイフにフォーク、お箸まで、丁寧に置かれていて、和食に洋食、中華にスペイン料理など種類も豊富。ホテルのバイキングでも来ているかのような気分だった。
椅子を引かれて、私はそれに素直に従って座る。テーブルマナーは日頃からお母さんに教えられていたから、食べることに苦戦することは無かった。
「これ、全部、あの、」
「俺のことは海琉って呼んで。全部君のために用意したんだ。食事係は俺だからね、口に合った?」
「美味しいです。」
「そう、それは良かった。」
海琉さんは、朔くんとは違って、笑顔をよく見せてくれた。それも、朔くんとは違って純粋な笑顔。闇がありそうなものじゃなくて、全部、本物のように見えて、私は少しだけ、この人になら託してみても大丈夫かなって、そう思った。
「海琉さんは、なんで、こんなこと」
「海琉でいいって言ったでしょ。まあ呼び方は後々慣れようか。うーん、それは、朔にすら話してないことだから、まだ君には話せないや。ごめんね、ジュースのおかわりでも持ってこようか」
と少し影を落とした声をかけるから、あ、はい、と返事をすることしかできなかった。
朔くんが、人を殺しているというのは、目を見れば理解出来る。冷ややかで、人を見下したような真っ黒なその目は、殺人鬼そのものだ。他の殺人鬼を見たことはないけれど、普通の人とは違う目。
でも海琉さんは、まるでそんな物騒な世界とは無縁の人のように見える。温かみがあって、目に闇がない。
渡しには2人の接点がまるで分からなかった。
家に帰りたいといえば、もう二度とそんなことを言うなと低い声で脅され、ひとりで家を出れば派手に殺すと脅されて。
私は結局、ここに留まることしか許されていない。ここにいれば、全てを与えられる。
けれど、自由はない。
勿論スマホはさっき朔くんに回収されて、新しいものを渡された。
中には、朔くんと、海琉さんの連絡先しか入っていなかった。
お母さんと、お姉ちゃんは元気だろうか。今頃、泣いて私の帰りを待ってくれてるんじゃないか。
桔梗には、もう会えないのか。じゃあ、またね、と言って別れたのに、あれが最後だっていうのか。
食事を終えて、することもない。用意された部屋でぼーっとしてそんなことを考えていると、扉を叩く音が聞こえて、無意識に立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます