第13話

ターゲットを決めている時以外は適当に場所と人を選んでいた。

だから37人目の殺人に挑もうと、今回も適当に目についた住宅に入り込み、母親と娘を見つけて、リビングに引きずり出し、いつも通り喉を掻っ切ってやろうとナイフをあてがった。

母親が大きな声で百合、と叫ぶから、まだ娘がいるのか、と、もう1人殺せるという喜びに胸を躍らせた。

どたどたと音がしてリビングのドアが開いた時、



初めて、彼女だけは殺せない、そう思った。



彼女を見た瞬間、何かが弾けたように、どくん、と心臓の鼓動が重くなった。

彫刻のような綺麗な顔をした彼女は、俺が母親の首元にナイフを当てているのを見て、顔を歪めた。恐怖で震えている姿や顔も美しかった。

しまいには、俺の目の前まで来て、お母さんを殺すなら私を殺して、と言い出した。

凛とした姿に思わず口角が上がる。

本能的に、彼女を自分のものにしたいと思った。

彼女になら素顔を見せてもいいだろう。彼女がいれば母親や姉も通報はできない。

顔をさらけ出した時、彼女はどう反応するだろうと久しぶりに殺す以外でワクワクした。

条件を飲む、その変わり、俺について来て欲しいと言えば、少し迷ったが案外簡単に、彼女はその条件を飲んでくれた。


「百合」


彼女にぴったりな名前。ゆっくりエスコートして海琉が運転する車に乗せる。

小さなあくびをした彼女は眠たい目を擦った。

怯えていたはずなのにもう俺の肩にもたれてくるのが、可愛くて仕方なかった。

俺のことが知りたそうだったから、話してあげた。

まあメリットを聞かれたことは想定内だったけど、派手に殺すと言えば体が震え泣いてしまった。その姿も可愛らしくて抱きしめてしまったほど。

それでも家に帰りたいと泣き叫ぶ彼女には少しいらついてしまった。

まあそんなこと二度と言うなとドスの効いた声で言ってやれば、いいタイミングで海琉が彼女を食事する部屋に招きに来た姿を視界の端で捉えた。

食べておいでと言えば、怯えたように彼は俺から離れていった。

俺は既に、次の殺人を考え始めていた。

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