第7話

肩を揺さぶられて、私はゆっくり目を開ける。

車の外はもう明るくて、朝日が昇っていた。もうそんなにも時間が経っていたことに驚いたし、それほど車を走らせてどこまで来たのか怖かった。

「よく寝てたね。着いたよ。さ、降りて。」

手を繋がれたまま、私は車から降ろされる。

まぶしさに目を細めながら見上げて目に入ったのは、とても大きな屋敷のような家だった。


「ここは?」

「今日から俺たちが一緒に暮らすところだよ。」

「一緒に暮らす?私と?待って、私を殺すんじゃないの?」

「君のことは殺さないって、言ったでしょ。」

手を優しく引かれるから、仕方なく私はその足について行く。

大きくてきれいな玄関を通り過ぎ、リビングに入って喉がひゅっと嫌な音をたてた。

明るい日が入る大きな窓と、壁にかかったテレビ。リビングとキッチンしかない1階。

ここだけ見ると普通の家。

なのに反対の壁一面を、新聞記事やらが埋めつくしていた。異様な空気を醸し出すリビングに恐る恐る入り、新聞記事を見た。

当たり前だけど、全てこの事件の記事だ。

よくよく見れば、壁には人の写真と、その写真に刺されたナイフも見える。これが、ターゲットになっていくんだ。


「百合。俺が怖い?」

新聞記事に夢中になっていると、そんな言葉をかけられる。

聞いた本人はリビングの入り口で壁にもたれかかり腕を組んだまま、飄々とした姿で私をまっすぐ見つめていた。


怖い?怖いに決まってるじゃない。

世間をさわがせる連続殺人犯と、共同生活をしろって言うんだから。


「怖い、家に帰りたい。」

泣きたくないのに涙がでそうになる。

もうどういう顔をしているのかもわからないけど、素直にそう言ってみても、彼はただ、眉を下げて笑うだけ。

「もう、家族には会えないよ。百合はここで俺と暮らすんだよ、分かって。」

私の目からこぼれる涙を指で拭い、そのままぺろっと舐めると、しょっぱい、と目を細める。

こうしていれば、ただの人間なのに。

黒いメガネから見えるかっこいい目元と、甘い声、すらりとした見た目。

このギャップに騙されて、殺されていったのか、36人もの人は。


「聞きたいことが沢山あるって顔してるね。ふふ、分かってる、説明するから。そうだね、ここじゃ落ち着かないだろうし、2階に行こうか。」


新聞記事だらけの1階に比べて、2階はとても綺麗な内装だった。

掃除もしてあるのか、ホコリひとつないし、家電は全て最新のものばかり。

この階にもキッチンとリビングがあり、生活は主にこの階でしているのだろう。

座って、と言われたとおり、私は白色をしたふかふかのソファに腰を下ろした。

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