第6話
私を連れて行って、きっとどこかで殺すんだろう。
そしてテレビでよく見たように山にでも埋められて、あとから家族も殺すつもりなんだろうな。犯罪者って、そんなもんでしょ。
お母さんの泣く声を背に、冷静にそんなことを考えていた。
犯人に玄関のドアを開けられて外に誘導される。
外に出た途端、彼は私の肩からぱっと手を離して、前に回ってきて笑顔になった。
「言うことを聞いてくれて嬉しいよ、さ、行こう。」
そう言って彼が指した方向には、黒い立派な車が停車していた。
不気味な笑顔で手を差し出してくるから取りたくはなかったけど、ここで取らなければ、何をされるか分からない。
私はゆっくり彼の手に自分の手を乗せた。
その手をぎゅっと握られた瞬間、私はぐっと引き寄せられ彼の腕の中に閉じ込められていた。
少しだけ鉄の匂いがするのは、人を殺し続けているから染みついている、のだろうか。
「君が俺のものになってくれて嬉しい。名前、教えて。」
ゆっくりと私を後部座席にエスコートし、座らせながらナンパでもするように、そう尋ねた。
「百合って言います。」
声は震えてなかった、と思う。
可愛い名前、と彼は呟き、愛しいものを見るように優しく微笑みながら髪を撫でた。
空いた助手席には乗らずに、私の隣に乗り込んだ彼は「朔」と自分の名前を名乗った。
運転席には既に誰かが座っていて、この男も共犯なのかと、ぞわっと身の毛がよだつ。
「あの人は、誰ですか。」
恐る恐るそう聞けば、朔と名乗る男は案外簡単に教えてくれた。
「彼には主に、現場の証拠を消してもらってる。あとは、運転手。目的地まで、快適に運転してくれるよ。」
目的地、と言うのは、殺す相手の家なんだろうな。
その話をしている間も彼はにこにこ笑っているのだから、怖くて仕方ない。
でも言われたとおり、運転は凄く快適だった。
まるで全ての道を知っているように、少しの歪みにすら揺れない車内に、違和感すら覚えてしまうほどに。
「ふぁ…」
慌てて口を押えたが3時に起きたこともあって、眠気が私を襲う。
いつ殺されるかわからない状況で、気が緩んでしまってはいけないのに快適な車内と彼の温かさに負けそうになっていた。
「はは、そうか、高校生には眠たい時間か。いいよ、寝てて。おやすみ、百合。」
その甘い声に誘われるように、私のまぶたは落ちていった。
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