第12話

「あのっ!すみません、用事を思い出したので帰ります!」

「待って、大丈夫。取って食ったりしないよ?」

「でもっ、」

「苗字、さくらばって、言ったよね。桜庭さんはね、瑞希ちゃんの恩人なの。」

「恩人?」

「そっ、恩人。だから大丈夫。安心して?」


それ以上は聞けなかった。

瑞希さんも黙ったまま、腕を組み目を閉じて座っていた。

なんとなく、聞いちゃいけないんだと思った。

でも、私の本当のお母さんが恩人だなんて信じられなかった。

悪魔が本当に存在することに驚いてるのに、悪魔と人間に交流があったなんて。

本で調べた限り、そんなことはありえないと思ってたのに。

まだ、私のお母さんが人間だったかも、悪魔だったかもわからないけど。


「じゃっ、本題に入ろっか。結論から言うと、桜庭ちゃんはなんとかなると思う!」

「なんとか、ですか?」

「うん!なんとか!」

「はっきり言ってあげな。」

「うーん、そうだなぁ。羽を見た限り、悪魔の部分が抜けても、つまり悪魔の部分が死んでも人間として部分は生きていられると思う!」

「なるほど?」

「悪魔はね?20歳になって、1年以内に契約を結ばないと死んじゃうの。それは知ってるよね?」

「契約は知ってます。でも死ぬんですか?」

「そう。最初に羽が朽ち果てて、そのまま体も砕けていくの。」

「そうなんですね。」

「で、俺は考えた!悪魔の力が弱ければ、そのまま人間として生きられるんじゃないかって!羽だけが朽ちて、体は人間として残るんじゃないかって!」

「ちょっと待ってください、それって前例は。」

「ないよ!でも大丈夫、きっと、大丈夫!」


何の根拠もない。だったら契約した方が安全なんだろう。

でも人の命を奪ってまでする契約なんてしたくもなかった。

だから大翔くんの、強い目力に負けてしまった。かけてみようと思った。

1年。

1年何もせずに待てば、羽がなくなる。


「うん、私も賛成。これくらいなら、いけると思う。」

「よし!決まり!」

「具体的には、何を?」

「なーんもしなくていいよ!たまにここに来て、経過観察できればそれで大丈夫!」

「わかりました。よろしくお願いします。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る