不偸盗戒
「森友由香の家で起こった盗難事件を覚えていますか?」
顔を合わすなり、吉田に聞かれた。
気の良い若者たちだ。昨日は「疲れたでしょうから」と和田宅訪問後、予約してあったホテルまで送ってくれ、「歓迎会です」と近くの居酒屋に連れて行ってくれた。
お陰で、大都会で途方に暮れなくて済んでいる。
歓迎会の後も仕事をしていたようだ。今朝はわざわざ出迎えに来てくれた。ホテルのロビーで顔を合わすなり立ち話が始まった。
「女優の森友由香です。ほら、有名なテレビドラマの新宿ラストキスに出ていた」と竹村が教えてくれる。
「ああ、そんなドラマがありましたね」と答えてみたものの見ていない。
「二、三年前ですかね。雇っていた家政婦が、森友由香の家から貴重品を盗んで大騒ぎになった事件があったんですけど覚えていますか?」
正直、ほとんど覚えていなかった。世間を賑わせた事件のようだが、阿佐部にとっては刑事事件と言うより芸能スキャンダルだった。「ええ、まあ」と曖昧に答えておいた。
「あの事件、後味の悪い結末を迎えてしまい、それに結局、有耶無耶になってしまいましたよね?殺された長谷川真理子、あの事件の関係者だったようです」
「長谷川真理子が⁉」
昨晩、ホテルに戻って近藤に電話をかけた。情報交換だ。篠原の指示で、こちらでの捜査状況を伝え、あちらの最新の捜査状況を教えてもらえることになっていた。「近藤と密に連絡を取り合え。逐次、近藤から話を聞く」という篠原の指示には、近藤と上手くやってくれという願いが込められているのだろう。
阿佐部から東京での捜査状況について一通り説明が終わると「長谷川の遺体が見つかった」と近藤は短く言った。
不愛想な男だが、電話だと更に愛想がない。怒っているかのようだ。
最後に残っていた長谷川の遺体が見つかり、長谷川の私物も回収できたようだ。これで長谷川の住所が判明し、警視庁に身元照会を行ったと近藤は言っていた。早速、竹村たちが調べてくれたのだ。
電話の最後に「ひとつお願いがあります」と阿佐部は近藤に頼み事をしておいた。
「被害届が出たので捜査を始めたのですが――」吉田が説明してくれる。
森友由香はモデル出身で、中高年の男性に人気がある、知る人ぞ知る女優だ。既に四十代だが、今でも第一線で活躍する大女優でもある。商才にも恵まれ、自らがデザインした衣類やアクセサリーをネットで販売し、デザイナー兼経営者として億を超える年商を稼ぎ出していた。
二十代後半の人気絶頂期に、いきなり結婚を発表して大騒ぎになった。
結婚相手として選んだのは、都内で不動産会社を経営する青年実業家だった。二人の結婚は、当時、芸能ニュースで大々的に取り上げられた。だが、セレブ・カップルに対するやっかみからか、世間の反応は薄かった。
結婚後間もなく、二人の間に第一子となる女児が生まれた。その暮らしぶりは派手で、世田谷の豪邸に二人の家政婦を雇い、家事と育児の両方を任せ切りにしていた。
二年前のことだ。森友は指輪やネックレスなど、時価、数千万円相当の貴金属が無くなっていることに気が付いた。盗難に遭ったものと考えられたが、屋敷の防犯システムは完璧で外部から不審者が侵入した形跡は見られなかった。
貴重品は夫婦の寝室にあるクローゼットに置かれたジュエリーボックスに、無造作に放り込まれていた。森友家の事情に詳しい者であれば簡単に盗み出すことができた。
「金持ちは違いますね」吉田が言う。
「ですね」と相槌を打つと、吉田は話を続けた。「まあ、当然、二人の家政婦に疑いの眼が向けられました。特に年若の家政婦、三宅しのぶは森友家に来て、まだ一年しか経っていませんでした。彼女が真っ先に疑わたのも無理はありません」
もう一人、年嵩の家政婦は森友家に勤めて三年近く経っており、森友夫婦の信用が厚かった。家政婦になったばかりで仕事に慣れず、「要領の悪い子ね」と森友から叱責を受けることがあった三宅はそのことを恨み、犯行に及んだのではないかと疑われた。
気が優しく、大人しかった三宅は声高に無実を主張することができなかったようだ。
「あなたが盗んだの?」森友由香は気の強い女だ。直球の詰問を受けて三宅は錯乱した。怖くて黙り込むことしか出来なかった。
痺れを切らした由香は彼女のバッグを持って来させると、テーブルの上に中味をぶちまけた。テーブルの上に散らばった私物に混じって、盗まれた指輪の一つが見つかった。これで三宅の容疑が決定的となった。
三宅は「知りません。私は、こんな指輪知りません!どうしてバッグの中に指輪が入っていたのか、私には分かりません。お願いです。信じて下さい。私は盗んでなんかいません!」と涙ながらに訴えた。
だが、証拠の指輪が見つかった以上、彼女の容疑は決定的だった。三宅は森友家の家政婦を解雇され、森友家は警察に被害届を出した。
その夜、三宅は自宅で手首を切って自殺した。
――私は無実です。森友さんの貴重品を盗んだりしていません。
それが彼女の遺書だった。
「彼女のあの姿、忘れられません」
遺体を発見したのは吉田だったと言う。被害届を受け、一人暮らしのアパートに向かった吉田が、風呂場で冷たくなった三宅の遺体を発見した。
「不思議なことに――」三宅のアパートから、残りの盗品は発見されなかった。
このことが公になると、
――森友由香が犯人扱いしたので、若い家政婦は命を絶ち、自らの潔白を証明した!
と、世間の批判は被害者であったはずの森友由香に集中した。セレブを気取り、どこか人を見下したような態度をとる森友を、快く思っていなかった視聴者が多かったのだろう。
視聴者はここぞとばかりに森友由香を攻撃した。
指輪は森友由香が予め家政婦のバッグに仕込んでおいたものだという、言い掛かりともいえる批判が噴出した。
世間のパッシングを受け、森友由香は盗まれた貴金属を取り戻すことをあきらめ、被害届を取り下げた。
こうして事件は有耶無耶のまま終わってしまった。
「後味の悪い事件でした。森友由香は被害届を取り下げてしまいましたが、亡くなった三宅さんの無念を思うと、未解決のままにしておくべきではありませんでした」吉田が残念そうに言った。
「それで、その盗難事件が長谷川真理子とどう関係しているのでしょうか?」
阿佐部の質問に「すいません。持って回った言い方をしてしまって」と吉田が恐縮した。すかさず竹村が「お前はいつだって回りくどいんだ。持って回って一周するくらい回りくどい」と口撃する。
吉田は「一周回ったら元通りじゃないですか」と反論してから、「盗難事件が起きた時、森友家にいたもう一人の年嵩の家政婦、それが長谷川真理子だったのです」と阿佐部に告げた。
「えっ!」
「黄鶴楼で見つかった犠牲者の名前が長谷川真理子だと聞いてピンと来たのです。もしかして森友由香の事件関係者じゃないかって。ずっともやもやしていましたが、昨晩、愛媛県警から連絡を頂いた住所から、森友家で家政婦をやっていた長谷川真理子で間違いないことが分かりました」
「お前にしては上出来だ。よく覚えていたな」
竹村が褒めると「~でしょう」と吉田は胸を張って見せた。
「調べてみると、長谷川真理子は盗難事件の後、森友家の家政婦の仕事を辞めていました。あんな事件があった後では働きにくいという理由だったそうです」
世間の批判が森友由香に集まっていた時期だ。周囲の者は同情こそすれ、不審は抱かなかったようだ。
「殺害されたのが森友家の家政婦だった長谷川真理子だったとなると、森友家の盗難事件が絡んでいた可能性が出て来たって訳ですね。宝石を盗んだ真犯人は長谷川真理子だったのかもしれません。三宅さんは無実だった」
「僕もそう思います」
「不偸盗戒」
「ふちゅう・・・とうかい?」
「遺体に奇妙な前掛けが掛けられていたことはお話したと思います。長谷川真理子の前掛けには不偸盗戒という戒めが記されていました。汝、盗むなかれという意味です」
「長谷川真理子に相応しい戒めだった訳ですね」
「日野が不飲酒戒、村田を名乗っていた鈴木が不殺生戒、殺すなという意味です。そして、長谷川が不偸盗戒だった。となると――」
阿佐部が言いかけると、吉田が先回りして言った。「残りの二人も戒めに相応しい罪を犯していたのですね」
頭の良い若者だ。だが、「おいおい。人の言葉を遮るな」と竹村に注意されてしまった。
「えへっ! すいません」と吉田が頭をかく。
「ところで残り二つの戒めは何なのですか?」と竹村が尋ねる。
「水谷という黄鶴楼のマネージャーを勤めていた男が不妄語戒、嘘をつくなという意味だそうです。そして、内村という若い女性が不邪婬戒、汝、姦淫すること勿れという意味ですね」
「なるほど。被害者を絞り込む参考に出来そうですね。柴崎の証言によれば、鈴木は柴崎が殺し、日野は鈴木が殺したということでしたが、後の三人はどうなのでしょう? 誰が殺したのでしょうか?」
「内村亜由美については、転落死ですので、事故の可能性があります」
「阿佐部さん、事故だと思っているのですか?」竹村が阿佐部の考えを見透かしたように言った。
「いえ、殺されたと思っています」と阿佐部は苦笑いを浮かべながら答えた。
「誰の仕業でしょうか?やっぱり鈴木の仕業でしょうか?」
「やつは逃亡中でしたから、人目に付く騒ぎは起こしたくなかったはずです」
「正体がバレて、三人を殺したのかもしれません」
「彼らは絶海の孤島にいると信じ込んでいた訳ですから、その可能性は排除できませんね。正体がバレたのなら、全員、殺してしまえば良い。鈴木がそう考えたとしても不思議ではありません。ですが・・・」
「ですが、何です?」
「宿泊者は一癖も二癖もある人間ばかりです。日野は前科があったし、長谷川も窃盗事件に絡んでいた。水谷や内村は何日も行方不明になっているのに、失踪届けが出ていない。身内が名乗り出ないのは妙です。後ろめたいことがあるからかもしれません。ひょっとして、あの屋敷には、そういった癖のある連中が集められていたのではないでしょうか?」
「どういう意味でしょう?」
「絶海の孤島だと思わせ、犯罪者を集めて、一人、二人、殺害する。そうすれば、人間のクズのような連中です。後は勝手に殺し合いを始めてくれる。犯人はそんなことを考えたのかもしれない。そう思っただけです。すいません。ちょっと妄想が過ぎますね」
蟲毒。近藤はそんな話をしていた。
「いや、面白いですね。そうなると、犯人は他にいることになります」
「屋敷は絶海の孤島などではなく、陸続きの半島の先にありました。外部から侵入が可能だった訳です。屋敷外に犯人がいたとしても不思議ではありません」
立ち話が長くなってしまった。「さて、今日はどうしますか?」と阿佐部が聞くと、「そろそろ出発しましょう。今日は浦安に行く予定です」と竹村が答えた。
「浦安ですか」
浦安に何があるのだろうか。
「黄鶴楼の発注元はイーストゲートという会社でした。詳しいことは道々、ご説明します。さあ、参りましょう」と竹村は言う。
愛媛県警の高橋が調べたところ、黄鶴楼は地元の建設業者がコンソーシアムと呼ばれる企業連合を組んで工事を請け負っており、発注元は大阪の開発業者だった。ところが、大阪の開発業者は関東の大手開発業者から委託業務を受けており、関東の大手開発業者は更に別の開発業者から注文を受けて――という状況で、なかなか大本の発注元に辿り着けなかった。
最後に辿り着いた先は、別荘の所有者として不釣り合いな東京に籍のある個人企業で連絡を取ったが応答がなかった。ここで捜査が行き詰まっていた。
後は警視庁の捜査待ちとなっていたが、その個人企業がイーストゲートだったようだ。
エレベーターでホテルの地下駐車場に降りて行く。エレベーターの中で竹村が意外なことを言った。
「イーストゲートは関東に本社を置く会社で、代表者は東口良治という人物でした」
「東口良治! あのクルーズ船の所有者だった東口良治ですか⁉」
宇和島港のクルーズ船の一時係留許可申請は東口良治の名前で出されていた。東口良治の住所は都内となっており、その捜査も警視庁に依頼してあった。竹村と吉田は東口良治の行方を追ってくれていた。クルーズ船に黄鶴楼の発注者、二つの線が東口良治で繋がったのだ。
「今日は俺が運転する」と竹村。
地下駐車場で警察車両に乗り込み、車は走り出した。
「イーストゲートは休眠会社という、会社登記は残されているものの企業活動を停止している会社でした」と吉田が説明してくれる。
阿佐部が東京に来る前に、既に調べを終えてあったと言う。
「東口良治は負債を抱えて夜逃げしたようで、住民票に登記された住所に住んでいませんでした。東口には妻と子供がおり、借金の督促が家族のもとに行かないようにという配慮からでしょう。妻と離婚し、子供は妻に引き取られた形になっています。そこで、離婚した妻を探し出して話を聞きました。都内に住んでいて、東口の所在を尋ねると、知らぬ存ぜぬを繰り返されましたが、なんとか、やつの棲家を聞き出すことができました」
「お前ね。ああいう脅しみたいなことをしちゃダメだ」と竹村が口を挟む。
「別に脅してなんかいませんよ」
「元亭主が凶悪な事件に関与した疑いがある。奥さんにも罪が及ぶかもしれないって脅したじゃないか」
「そんなこと言っていませんよ。元旦那さんが事件に関与した疑いがあるから助けたい。協力して欲しいって頼んだだけです。ちゃんと聞いてました?」
「そうだっけ」と竹村がうそぶく。
「すいません。話を戻しますね。借金返済の目途がついて、会社の営業再開がもう直ぐできそうだ。長い間、待たせて悪かった。もう直ぐ一緒に暮らすことができる。最近、そう東口から連絡があったそうで、渋る妻の口から東口の現住所を聞き出すことが出来ました」
「東口良治が住んでいるのが浦安だと言うことですね」
「はい。流石、阿佐部さん。感が鋭い。何処かの先輩とはえらい違いだ。東口のアパートを急襲して、締め上げてやりましょう」
竹村がすかさず応じる。「おっ、いいね~吉田君。やる気満々じゃん!」
「僕は何時だってやる気満々ですよ」
「何時だってやる気満々だなんて、嫌だね。君、いやらしい」
東口良治は浦安のアパートに人目を忍ぶようにして暮らしていた。
築十年以上は経っていそうな、ありふれた二階建てのプレハブのアパートだった。
部屋を尋ねると、「刑事さん?」と東口は迷惑そうに三人を迎えた。いきなり刑事が尋ねて来たことに驚いていない様子だ。心当たりがあるのだろうか。部屋には上げずサンダルを突っ掛けると、「ちょっと近くの公園まで歩きましょうか? 道すがら話を聞きます」と言って、ずんずんと歩き出した。
小柄で色黒、無精髭を蓄えており、柴崎の証言にあったクルーズ船の船長の人相と酷似していた。
「東口さん、愛媛県の宇和島市近郊に建てた黄鶴楼、ご存じですよね?」竹村が前を歩いて行く東口の背中に声をかけると、振り向きもせずに「知りませんね」と答えた。
「変ですね。あなたが社長を勤めるイーストゲートという会社が、ナリタ・エンタープライズを通して発注して建てた屋敷だってことは分かっているのです」
「ああ、あの会社。あれは私の名義になっているだけで、実質は人に貸している状態です。刑事さんがおっしゃった屋敷の話は初耳です。私の知らないところで、うちの会社の名義を使って勝手にやったことでしょう」
嘘か真か会社の名義を他人に貸し出していると言う。
「一体、何時、誰に、何のために、会社の名義を貸したのですか?」
「何時?さあ、何時だったかなあ・・・二、三年前じゃないかな。福永さんという方が、突然、尋ねて来てね。会社の名義を貸してもらいたいと言われました。結構な額の手付金を提示されたよ。名義をお貸ししている間は毎月、社長としての給料を頂けるというので、一も二もなく名義をお貸しした。こちらとしては願ったり叶ったりでした。どの道、営業再開の目途が立っていないような、寝かしているだけの会社でしたからね。有難いお話でした」
――福永!
和田家で聞いた怪しい人物の名前が、ここでも出て来た。
「その福永さんと言う方は、成田実業という会社にお勤めの福永昌弘という人物ではありませんか?」竹村が東口に尋ねる。
住宅街にある小さな公園へ足を踏み入れた。幼子を連れた母親が、平日の昼日中にもかかわらず公園へとやって来た男たちを不審そうな目でじろじろと見つめていた。東口は公園の隅にあったベンチに腰を降ろした。
東口の前を塞ぐ形で、三人が並んで立った。
「ああ、そうです。成田実業の福永昌弘さんという方でした。開発大手のナリタ・エンタープライズの子会社、成田実業で企画本部長を勤められているとお聞きしたので直ぐに信用しました」
「成田実業はナリタ・エンタープライズの子会社なのですね?」
「おや、ご存じありませんでしたか? 名刺をいただいた後、調べたので間違いありません。まあ、社名から直ぐに分かりますけどね」
「今でも福永さんと連絡を取り合っているのですか?」
「いえ。名義をお貸した時に会ったきりです。給料は毎月、きちんと銀行に振り込んで頂いているので、会う必要はありません。福永さんが私の会社をどう利用しているのか私は何も知りませんし、知りたくもありません」
最初にもらった手付金と毎月の給料で、間もなく借金を返済できそうだと東口は嬉しそうに言った。そして、借金を返済し終えれば、福永に会って、会社の名義を取り戻すつもりだと熱っぽく語った。
「ところで、東口さん。あなたはクルーザーをお持ちですよね?」
ニューウィン号というクルーザーが宇和島港で一時係留許可申請を行っており、クルーザーの所有者が東口になっていた。東口はそのクルーザーで事件の被害者たちを島へ運んだはずだ。
「クルーザー? まさか、私にそんな余裕なんてありませんよ。んっ、待てよ、クルーザー・・・」東口は急に口を噤んだ。
「クルーザーがどうかしましたか?」
「いや、クルーザーなんて高価なものは持っていませんが、福永さんに会社の名義をお貸しした時に、ひとつだけ条件を付けられました」
「条件ですか?」
「一級小型船舶免許を取って欲しいというのです。それで、ボートスクールに通って講習を受講して、学科と実技の試験を受けました。費用は全てあちら持ちで、報酬も弾んでもらいました。こちらとしては時間を持て余していましたから嫌はありませんでした。免許を取ってから、免許は福永さんに預けっぱなしになっています。今の今まですっかり忘れていました」
「船舶免許まで人に貸し与えたのですか!?」竹村の鋭い口調に会話している相手が刑事だと言うことに思い当たったようだ。
「いえいえ、お貸ししたのではなく、預かって頂いているだけです。うん。会社の名義にしてもお貸したのではなく経営コンサルタントとして加わって頂いているだけで、きちんと契約書を取り交わしています」東口はそう弁明すると押し黙ってしまった。
後は何を聞いても「知りません」、「分かりません」としか答えなくなってしまった。
結局、「東口さん。福永さんの名刺、お持ちですか? お持ちでしたら、それを貸してもらえませんか」とアパートに戻って名刺を探してもらい、事情聴取を終えた。
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