【第二話 希望の異世界転生】
異世界 星聖歴 1209年
大気が不安定で嵐と横殴りの大雨で、周りの視界がほぼ見えず、雨が鉄玉のように痛かった。
「——ごめんね、×××………。あなただけでも………」
フードを被った女性は全身ボロボロになりながらも、赤子を抱えて走る。誰かから逃げているのだ。
「それを渡してください」
「うっ!」
フードを被った女性の皮膚や肉を直径二センチにも満たないビー玉のような無数の魔法弾(まほうだん)が貫き抉る。フードを着た女性が膝をつき、後ろを振り返ると、その男は角が生えた紳士服を着た赤目の悪魔だ。悪魔は不敵な笑みを浮かべる。
「駄目です! この子はあなたたちのおもちゃではありません! この子にはこの子の人生があります‼」
フードを被った女性は悪魔の男に向かい、悪魔の言うことに聞く耳を持たず、自分の考え強く訴えかける。すると、悪魔の男はふっ、と口元をゆがませ、馬鹿にしたように嘲る。
「それは作りものですよ? 魂は入っていても、器は作り物。人間ではないんですよ?」
「それでもっ………! この子はっ………こんな所にはいてはいけない」
「はぁー」
悪魔の男はまた無数の魔法弾を男の周り、無から生成する。
「ごめんね………《ランダムテレポート》」
「なに⁉」
すると、赤子はフードを被った女性の腕から寝ている籠ごと消えた。
「あなただけでも………」
「《ランダムテレポート》はその名の通りどこに飛ばされるかわからないんですよ⁉ もしそのせいで死んでしまったら、あなたがあれを助けた意味が………」
悪魔の男は「馬鹿ですか?」と、信じれない顔でフードの女性を凝視した。
すると、女性は答えた。
「——大丈夫、私の子供だから…………」
フードを被った女性のフードが取れた、その女性は赤髪のサイドテールで深紅の瞳の女性だった。自身の息子だからという根拠の全くないことだったが彼女はまっすぐ疑いのない瞳で我が子の無事を信じていた。
「生きてたらまた会おうね………」
悪魔の男はさっき生成した魔法弾をぶつける。
………彼女は微笑んで地面に倒れた。
「よかったですね、あなたはあのお方から気に入られています。なので——」
× × ×
星聖歴 1218年 4月
窓からさす眩しい光が瞼を通して目に映る。
「うっ……」
私は目が覚めた………。
「ど…こ?」
知らない天井だった………。木が何本も使われた吹き抜けのような、ロッチのような天井だった。
ふと、視線を横に移す……。木とセメントでできた壁、西洋風の無数のアンティークの数々、木でできたタンス………。
見覚えがない……。
理解が追いつかなかった。そしてようやく、意識がはっきりし、バッと上半身を起こした。
「………私は、拳銃で撃たれて死んだ……はず……。病院?」
違う病院ではない。すると、自分の声が聞き覚えのない声だった。
ほんとに自分の声?
「あっ、あ~。⁉」
やはり違う。こんな少年のような声は自分の声ではない……、少年?
私は自身の上にかかっていた布団を剥がし、目に入った鏡で自分の姿を確認しようと、ベットから降り、自分の足で床に立つと目線がいつもより低いことに気付く。
やはり、何かおかしい……。
「うっ……」
今度は頭がのぼせたように視界にもやがかかり、頭を締め付けるように頭痛がする……。額に手を当てると熱を帯びているのが分かった、しかも結構な高熱だ。熱があると途端に足取りが重くなる……。その足取りでゆっくりと鏡に近づくと自身の変化が決定的なものになった………。
「……なっ、なんだこれ?」
自分の姿に衝撃を受ける。——なんとそこに立っていたのは小学生ぐらいの黒髪の少年だった。
「えっ、えっ? えーーー!!!」
嘘ではないかと鏡を前後に揺らす。そのせいで頭痛が悪化し、
やばっ………。
ドサッと重力に従い床に倒れこみ、気を失ってしまった。
× × ×
「彼方君?」
そう呼ばれて私は目を開ける。
すると、そこにはいろいろな花や木々が伸び伸びと育ち数えられないほどある花園のような場所だった。
しかし、伸び伸びと育ちすぎた花や木々は私の視界が見えなくなるほどだった。
私は背伸びしながらあたりを見回すと、百メートルぐらい先に植物のない開けた丘があることに気が付いた。
よくよく目を凝らすと、スチール製のガーデンチェアとテーブルがポツンと置いてあり、小人みたいな人が私を手招きする。
私はそれに誘われるように私は迷路のような自分と同じぐらいの背丈の花や木々をかき分けていくと、丘にたどり着いた。
すると、そこに立っていたのは、小人の少女………ではなく羽のついた妖精の少女? だった。彼女はシルクのようなワンピースを着ていて、深紅の瞳とひまわり色のような肩までの長さの少し短めな髪を持った妖精だった。
………ひまわり色の髪…? どこかで見たことがあるような……?
この妖精の少女に見覚えがあるような、ないようなと頭をひねらせたが、全然思い出せなかった。すると、妖精の少女が、
「こんにちは、彼方君。まあ、まずそこの椅子に座ってよ」
と、スチール製のガーデンチェアを私が座れるように小さな体で空中に浮きながら後ろに下げてくれた。
「あっ、はい」
私はわけもわからないまま、言われるがまま椅子に腰かけた。
「ちょっと待っててね、紅茶入れるから」
「あっ、お構いなく……」
ガーデンテーブルの上に置いてあった白いティーポットを妖精の少女はまた羽をはばたかせて持ち上げ、私の前に置いてあるティーカップに器用に紅茶を注ぐ。
「ささ、どうぞ~」
「あっ、はい」
妖精の少女に勧められるまま、カップを口元に運び、一口紅茶をすする………。
「うっ………」
手から力が抜け、カップが手から滑り落ちる。
その紅茶の味は未来がたまに入れてくれる紅茶の味とまったくと同じだった………。
「未来………」
気持ちの悪さが体全体に痺れる。決してこの紅茶がまずいというわけではないのに………。
「ねぇ、彼方君? 僕は君が何でつらいか分かるよ………」
「あなたに分かるわけっ」
私はどうせこの妖精の少女が言ってることはでたらめだと割り切り、耳を塞いだ。
「未来ちゃんを自分のせいで縛ってしまい、大切な時間を自分のせいで潰してしまたことと、自分のせいで危険な目にあわせてしまい、あわやく、自分のせいで殺されてしまったと、ね」
耳を塞いだって妖精の少女の声は塞いだ手を貫き、耳に響く………言っていることはほぼ当たっていた。
「なんで、そんなに知ってるの……?」
言い方に棘を持たせながら聞いてしまった。
「それはね。君と僕は契約しててね、君を心の中でずっと見てたんだ。だから分かる。」
「なんですかそれ…」
「君はねこの世界で新たに『生』を受けた、そう転生したの……」
「私は『生』なんて受けたいだなんて望んでいません。………私はもうあそこで終わりでいいです。死なせてください」
私は不貞腐れながら下を向きながら答えた。すると、私の顔に妖精の少女の小さい手が触れ、強引に正面を向かせ、左頬を全力で叩かれ(はたかれ)椅子ごと倒れる。
左頬にズキズキと痛みが残る。
「なにを——」
起き上がろうと地面に手をつき、妖精の少女を睨む。すると、妖精の少女はテーブルに仁王立ちで立ち、
「なにを不貞腐れたこと言ってんの⁉ 君がこんなに落ちぶれるなんてね、昔の君ならどんなに折れそうになっていっても、希望をもって立ち上がってきたのにね! そんなダサい姿を未来ちゃんが見たら、さぞかしがっかりするんだろうね! あぁ、恥ずかしい!」
「はっ? 意味が分かんない! 未来は死んじゃったの! 未来が見てるなんて——」
「そんなこと言ってんじゃないの! 分かる⁉ 君は死んで魂がこの世界に飛ばされたの! それなら未来ちゃんの魂だってこの世界のどこからか見てるんじゃないの!」
「そんな曖昧な………」
「……未来ちゃんがどこで見ててもいいように、立派に今回は生きなさい。それに未来ちゃんも彼方君のせいで死んで恨んでることはないと思うよ。未来ちゃんが彼方くん家(ち)に行くの辛そうに行くのがあったとしても、行かない日なんてなかったじゃん。それぐらい大切な友達だから早く元気になってほしかったんだよ………。それに彼方君が悲しんでる姿を見たくはないと思うよ。せっかく彼方君の笑顔を取り戻したのにそれじゃ未来ちゃんの努力が報われないよ…………」
「……………」
「新たな『生』を受けたんだから、今度は…今度も頑張って第二の人生謳歌しようよ! 希望をもって生きるいいね……!」
「分かった……。努力する………」
妖精の少女は「よしっ!」と言いながら笑った。——しかし、なぜ私が生まれ変わったのか、ここはどこなのか、君は誰なのかという無数の疑問が残り、
「ねぇ、ここはどこなの? なんで目が覚めた時、私の体は小学生ぐらいの少年ぐらいの体だったの⁉ ——今は私の体っぽいけど………。そ、れ、と‼ なんで私はまだ生きてるの?」
「まあまあ、落ち着いて。紅茶でも飲んで」
「うっ、うん」
さっき私が落としたコップだった。だけど、そのカップには汚れがなく、ヒビすら入っておらず、そのカップには新しく注がれた紅茶が注がれていた。私はもう一度紅茶を、少ししり込みしながらもすする………。
「………やっぱ、おいしいね」
今度は気持ち悪くはならず、普通に飲めた。………少しは希望をもって前向きに進めるようになったっていうこと、かな………?
妖精の少女はそんな私を横目に和やかそうに眺め、「よし!」と言い、口を開いた。
「ここはね、君の心の中の世界だよ」
「えっ? こんな花や木々に囲まれてるのが私の心の中? そんな乙女チックなのが。あはははは……。ほんとですか……?」
「うん」
「え?」
「じゃ次行くね、彼方君が何で少年の姿になってたかというと、まあ、ぶっちゃけ彼方君は死んじゃって体は死んだけど魂が生前の情報を残したままこの世界の人間として生を受けちゃったから第二の人生が始まったんだよね~。まあ、魂の情報は肉体が死んだときに消えちゃうんだけど、なんか不思議な力が働いてね~。彼方君の魂が変わらないからこの世界では前の姿だけどね。あとね、君が生まれ変わった世界は地球じゃなくてね——剣と魔法のファンタジー世界、《テラリアン》そう呼ばれる世界に転生したんだよ………驚かないんだね」
妖精の少女は私が驚かないことに疑問を浮かべる。それはなぜかかというと私は異世界転生系をアニメやラノベとかでたくさん見てきて、たいそうなものとは思わなかったからだ! ——でもいいな、さっきの不貞腐れていた私と違って少しワクワクする気持ちがあった。
「いいね、少し元気が出てきたみたいじゃん。……でもね、そこらのゲームや漫画と違って、コンティニューはないし、セーブ地点まで戻れるってことはないから………」
さっきまでのにこやかな表情とは打って変わって、まじめな声で浮かれている私の首筋をヒヤッと撫でる。その緊張感に私はつばを飲み込む。
「分かった」
「よし!」
さっきのまじめな声からいつものにこやかな表情に戻った。
「でも、なんで新たに生を受けたのに、生まれてくるところじゃなかったの?」
「あぁ、それはね………。内緒」
妖精の少女はかわいくテヘッとして話をはぐらかした。
「ねぇ——」
私が圧をかけて吐かせようとすると、
「あっ、君にこの世界で君の人格がなかった九年間の記憶と人格をあげるよ」
「えっ? なにそ——」
妖精の少女が私の頭に触れ、
「ほいっ!」
すると、なにかの粒子が私の周りをと回り、やがて私の体へと入り込んでいく。やがて、この世界に『生』を受けてからのその九年間の記憶が断片的に脳に流れてきた——。
「ごめんねー、さっき、ベットから目覚めたときに空白の九年間の記憶とその九年間で培った人格が全て流れ込んできちゃって、頭がキャパオーバーで熱が出て、頭が痛かったでしょ」
あぁ、あの時はそのせいで………。流れてきた記憶は私自身が体験したように不自然な感じにはならなかった。
「記憶を一気に全部戻しちゃうとまた熱が出てまた、倒れちゃうから重要なものだけにしておくね。あと、人格は彼方君の今までの性格が七割、空白の九年間の人格を三割ぐらいにしておくね、そうすれば空白の九年間の人格のまんま行動しなくなるでしょ」
「自分の意思に反した、子供っぽい行動を抑えられるってわけね」
「そゆこと~」
「でもさ、なんでこんなことできるの」
「そっ、それはね魔法だよ!」
妖精の少女は目を泳がしていた。
「あっそ」
私はこの妖精の少女にもうちょい、詰めて聞こうと思ったが、しらばっくれるのがおちだと思い、聞くのはあきらめた。
「でも、俺………⁉」
その空白の九年間の人格の一人称だろうか? 私は自分のことを『俺』と呼んでしまった。——しかし、まったくの違和感がなく、いつも言っていた感覚がある。
「俺、俺、俺。んふっー」
私は自分のことを『俺』と何度も言いながら呼んでうぬぼれていると、
「ぷっ、俺w」
くすくすと小馬鹿にする笑い声が聞こえた。私はたちまち恥ずかしくて顔が赤くなり、
「いいでしょ! 別に!」
と、そっぽを向いた。
「ごめん、ごめん。かわいかったよw」
と、まったく謝っていない感じで謝罪してきた。——あれ?
「私、この世界の友達や家族の記憶はあるのに君のことが空白の九年間の記憶にないんだけど………?」
「それはね、僕は今日が初登場だったからです! ——ということで初めまして彼方君、君との『生涯』契約妖精の『アイラ』です! 彼方君がこの世界で生きるサポートをします、どうぞよろしく!」
アイラの『生涯』という単語に引っかかることはあったが、アイラが自身の手を私の前に差し出したので、
「よろしく」
と、私もアイラの手を握り握手をした。
× × ×
「兄さん……」
「んっ………」
この声変わり前の幼い女の子の声は………、妹の『ユア』だろうか? 記憶ではこのような声だったような……と思い出す。
「おはよう、ユア……」
「おはよう兄さん、体調はどう元気になった?」
やっぱり、少年の姿は夢じゃないんだ………と、少し前の姿が恋しくなり、寂しくなる。
だが切り替えてあたりを見回すと、さっきまで居た花園とは違い、転生して初めて目を覚ました木とセメントでできた部屋だということが分かった。——空白の九年間の記憶のおかげで今ではここが自分の部屋だってことがわかる………あれは夢じゃなかったんだ。ということも同時に気付かされる。
「兄さん」
「うん、大丈夫……」
ベットの隣にある椅子に腰かけているユアとふと目が合った………ユアはエルフなどの種族が持っている長い耳と純白で長めの髪、エメラルドグリーンのきれいな瞳を備えたかわいらしい少女。
ユアはこの世界で私の妹だ。
ユアはこの世界ではハーフエルフという長い耳を持った種族で、ハーフエルフはその名の通り半分エルフ、片方の親がエルフでもう片方の親は別の種族ということだ。
うちの親も母が魔法に長けた(たけた)エルフで、父が手先に器用さがあるドワーフという種族だ。二人とも耳が地球に住む人間と比べると長い、長耳族(ちょうみみぞく)という総称で広く見ればそう呼ばれる。遠い親戚みたいなものだ。
——しかし、私の耳の長さは普通の人間と変わらない。
ならお前はどこの子かと疑問に持つ者もいるだろう。……私がどこの子かいうと、生まれてすぐに人間の実の親から捨てられた子だ。そして、今育ててくれている両親が拾って育ててくれている。だから、耳の形などの両親の特徴が何一つ受け継いでいない、ただそれだけの話だ。
そんな私を両親は何も言わないで本当の息子として育ててくれている。こんな人がいるのかと思うほど優しい人たちだ。
「ねえ? 兄さん、そんなに私のことをじろじろ見られると恥ずかしいんだけど………」
ユアは少し照れながら、手で顔を隠した。
「………あぁ、ごめん」
んっ? こんなにかわいい子が私の妹でいいの⁉ 夢じゃないの⁉ と、確認のため頬をつねる。うん、夢じゃない! 自分も昔から妹がほしかったため、うれしく思い高揚感が沸き上がった。
「に、兄さん。ほんとに大丈夫? 心配なんだけど………」
ユアは本当に心配して、私の顔を覗く。
私は心配させないために、
「兄さんは大丈夫、だぜ‼」
と、元気にニカっと笑いながら少し男要素も付け足して言った。
「………」
そしたら、ユアが立ち上がり、私の部屋から出ていき、階段をドタドタと急いで下り、
一階の両親がいるリビングに向かい………「兄さんやっぱり、頭打っておかしくなっちゃったみたい………」と、母と父に報告しにいった。
その声は二階である私の部屋まで聞こえた。
なんか、言うこと……間違えちゃったみたい………男っぽい声のかけ方ってなにぃーーー!!!
× × ×
頭を打った疑惑から一日が経った………。
今日はこの我が家(わがや)の近くの村から医者が来た。
「うーん、これだったらもう今週末ぐらいで直りますね」
「そうですか、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
母さんがお礼を言ったのに続き、自分も続いてお礼を言う。
医者はいえいえと言いながら、帰る支度をし、
「では私はこれで」
と、我が家を後にした。
私と母さんはもう一度ペコっと頭を下げる。
「………じゃあ、母さん。私……俺はもう部屋に戻るので」
と、私は階段を上り始める。すると、
「なぁ、母さん。『エオ』ってまさか反抗期に入ったのか?」
と、父さんがウキウキで母さんに尋ねる。
「確かにそうかもしれないわね」
と、きりっとした表情で興味深そうに同意する。
あの~聞こえてるんですが? と聞きたい気持ちはやまやまだったが、それを聞き にいってしまったら、「お前反抗期に入ったのか?」とかとんでもないことを聞かれ そうな気がしたので、私は階段を上る足を止めなかった。
そんなに息子が反抗期に入ってうれしいものなのだろうか? と思った。
彼方の頃の両親だったら、お父さんは「娘が反抗期になってしまった」と泣いて、お母さんなんて「あっ、反抗期に入ったのね」と無関心だった、と思い出す。
両親か……お父さん、お母さん元気にしてるかな……。私のせいで………。なんかもっと話をしておけば……。うんうんいいんだ、この世界の両親のほうが…………。
………。あっ、そうだ。
言い忘れていたがこの世界での私の名前は『エオン』というらしい、そして父さんが 言っていた『エオ』というのは私の愛称だ。
うん、西洋風。いやでも待てよ、エオというのも最近の日本の子のキラキラネームならあり得るかもしれん。そうこういう感じに、
『青(エオ)』
こう書いてエオだ。
どういう意味かというと青はローマ字表記でAO。えーおー、エーオー、エオという感じになるかもしれない。他には——。
………おっと話が脱線してしまった。
「いやー、でも優しいけど変わった両親だな~」
私は何にもないところを見つめながら考える。
だって、あんな息子や娘のことに興味津々な親がいるか? と、思った。
彼方の頃の両親なんてお父さんでもそこまで踏み込んでこなかったと思う。
……なんでも彼方の頃の両親と比べてしまう。それほど今まで居た環境とは打って変わって違っていたのだ。
「でも……エルフとドワーフの両親でしょ………かっこいいな~」
ふと、そんなことを呟く。
ゲームやラノベなどの二次元にしか存在しないものだと思っていたからふと、目の前で見るとそれはもう、驚きだった。
父さんの『アディアス』は男らしい顔で、真っ赤瞳と真っ赤な髪のオールバックで声が大きく、何事にも熱い性格。
母さんの『レイナ』は顔が整っていて、淡い緑髪でユアと同じぐらいの長めの髪と同じ色の瞳で、父さんより背が高い高身長美人で性格はややおっとり系で怒らすと怖そうという感じだった。
……しかしまぁ、初めて二人を見た時は驚き、本物だ……と腰を抜かすほどだった。
あと、ユアは完璧に容姿が母さん似だった。『似てる』と二人の前で声を出すぐらいに。
——そんなことを考えていると、「おやつ食べるー?」と下から母さんの声が聞こえた。
「ユアが作ってくれたのよー」
「うん、食べるー」
でも前の家庭と全然違って驚きがたくさんあるこの今の家庭も嫌いじゃない、むしろ気に入っている、と思う。
そう思うと、ユアが作ってくれたというおかしを食べるため、下に降りた。
× × ×
星聖歴 1218年 5月
時間というのはどんどんと過ぎ去っていくというもので、この世界に転生してからかれこれ一か月が経とうとしていた。
そして今日は私の誕生日! らしい………。うーん
私も今日起きて部屋がカラフルに装飾されているのを見て、母さんに聞いたら『えっ今日はあなたの誕生日でしょう? 一か月ぐらいから楽しみにしていたじゃない?』と言われ、初めて知った。
家族全員で祝わってくれるなんて、地球で自分が八歳ぐらいの時以来だ。
私はこの精神年齢になると少しこっ恥ずかしいので、あまりこんな盛大に祝ってくれなくてもいいと思うが……私の前の私が相当楽しみにしていたようなので、ここで「ごめんやっぱやだ!」なんて言ったら、また医者に連れていかれ「うちの子まだおかしいかもしれません」と言いに行く可能性があるかもしれないし………。
純粋に装飾やらケーキやらここまで準備してくれた家族に失礼だと思い、今日ぐらいは九歳のエオンとして楽しもう、そう思った。すると、うちの玄関がノックされた。
私は夜の自分の誕生日パーティーのために出していた食器をテーブルに行き、どちら様か聞きに行こうとすると、手が空いた母さんが一足早く玄関のドアを開けた。するとそこに立っていたのは、二人の少女だった。
「こんにちはー」
ピクニックで持っていくような籠を手に持った背の高い方の少女が挨拶してきた。それに続き小さいほうの少女が「こんにちは!」と挨拶をした。
「あら、二人とも~、久しぶり~」
母さんの知り合いだろうか。って、うん? 母さんがいつも人と会う時に使っている耳の形を普通の人間と同じように見えるイヤリングの魔道具を使っていない。
魔道具とは簡単に言うとそれ一点に特化した魔法が込められている道具だ。
私はまずいんじゃないかと、あたふたして、隣で食器を並べていたユアに、
「なぁ、母さんいつも人と会う時に使う魔道具使ってなくない? 大丈夫なの?」
と、耳打ちした。すると、ユアは、
「何言ってるの兄さん、『エリナリア』さんと『カラナ』お姉ちゃんだよ?」
エリナリアとカラナ? そんな記憶はなかったが………。
(あっ、あー、テステス。聞こえますかー彼方くーん?)
突如としてアイラの声が聞こえた。
あたりを見回してもアイラの姿は見当たらない。
えっ、どこ?
(ごめんね、ちょっと人前だと姿を出しづらくって。……エリナリアちゃんとカラナちゃんの記憶だよね。……うーん、ほいっ!)
エリナリア『姉さん』とカラナの記憶が脳に入ってくる。
エリナリアは私の五つ年上の十五歳、青い瞳に青い長い髪と白い肌を持った少女で、妹思いの優しいお姉さんだ。
そして、カラナはエリナリアの妹で私と同じ十歳、エリナリアとは対照的にサイドテールの黄色い髪に淡い赤い瞳に少し褐色かかった肌で活発的な女の子だ。
私は二人とは幼馴染でよくカラナとユアと遊び、エリナリアがそれを見守ってくれている。——などといった記憶がよみがえった。
(これでいいかな?)
ありがとうアイラ。
そうお礼を告げると、
(うん! ……ちょっとまたあとで話そうね)
? うん分かった。すると、アイラの声が聞こえなくなった。
「久しぶり、エオ君。元気になってよかったよ」
と、エリナリアは私を見つけて言った。
「あっ、ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げる。
「えっ? エオがおねえちゃんに敬語……どしたの?」
カラナがびっくりしたように私を見る。するとユアがカラナに近づき、
「兄さん、頭打って少しおかしくなってるから、おかしなこと言ったら優しい目で見てあげて」
んっ? 聞こえてるんですけど?
すると、案の定カラナが優しい目でこちらを見てきた。
エリナリアに視線を向けるとエリナリアも少し憐れんでるように私を見ているのが分かった。
おかしくなってないのに………。
夕日が沈んで空が暗くなってきた頃。
各々の飲み物が入ったグラスをみんなでカチンとぶつけ、
「「「「「「かんぱーーーい!」」」」」」
と叫んで私の誕生パーティーは盛大にスタートした。
すると、こういうパーティーで真っ先に叫ぶ、父さんが浮かぬ顔をしながら私を正面にして、体を向ける。すると、母さんも私を正面にして向く。
「んっ? どうしたの、父さん、母さん?」
「今日言おうと思ってたことがあるんだ……お前は実は………」
何かを言いだそうとしているが父さんは言葉が詰まって出てこないらしい。
すると、父さんは自身の目の前にあるお酒の入ったグラスに手をかけ、一気に飲み干す。
「お前は俺たちの——」
「本当の子供じゃないんだ。でしょ?」
「な、何で知ってるんだ⁉」
父さんと母さん拍子抜けな私の回答に唖然とした。
………やっぱり、当たってた。……この両親は私が本当に知らないと思っていたのだろうか、私じゃなくてもこの年の子供ならこの二人との私の容姿の違いに気付くだろう。
父さんと母さんはエリナリアやカラナ、ユアなどに「知ってた?」と尋ねるような視線を送る。
みんなは、それが当たり前のように頷く。
「えぇ~!! なんだ、心配して損した~」
「ほんとよね~」
「もしかしたら泣き出すかと思ってたのに………」
私がまだ泣き虫べそかきの幼稚園児かなんかだと思っているのだろうか………。
「でも、血は繋がってなくてもお前は父さんと母さんの大切な子供だ」
「えぇ」
「ありがとう。父さん、母さん」
するとユアが突然立ち上がり、
「私も! 兄さんのこと血は繋がってなくても、本物の兄さんだと思ってるよ」
ユアは恥ずかしくなったのか最後のほうはごにょごにょとなっていた。だが、
「ユアもありがとう」
「うん」
「じゃあ、パーティー仕切りなおすか!」
「そうね」
「うん」
「…うん」
「はい」
「はーい!」
「そうだ、エオにプレゼントが——」
「えっ、なになに?——」
パーティーは案の定とてつもない盛り上がりで、この私ですら童心に帰って楽しんでしまった。父さんも母さんもこんな感じに………。
私はテーブルに突っ伏して眠りながらよだれを垂らす、父さんとお酒のコップを倒してスーと同じく突っ伏して眠っている母さんを横目に見る。
うん、将来お酒を飲むときはここまでならないようにしよう。
と、心に誓った。
「ねえ、エオ君」
「わっ!」
エリナリアが突然声をかけてきて私は驚いた。
「なっ、なんですかエリナリア姉さん?」
エリナリアも父さんと母さんぐらいのペースで飲んでいたような………。
そう思いつつも私はエリナリアの方に体を向ける。
エリナリアはお酒でほんの少しだけ頬を赤くしてはいるが、さっきの言葉も酔っているような声ではなかったし、お酒に強いほうなのだろうかと思った。
「いやー、エオ君。二人で話すなんて久しぶりだね。もしかしたら、初めて…かも?」
「あっ、はい……。そうかもしれませんね」
何を聞かれるかと思ったら、そんなことかとかと思い少し拍子抜けだった。
「ねえ、エオ君……あれ? ……あはっ、私何を聞こうとしてたんだっけ……こんな事あまりないから色々聞こうと思ったんだけど忘れちゃった」
エリナリアはテヘッとかわいらしく微笑んだ。
「あっ、はぁそうですか」
「何か思い出せたら言うね。——うーん、何言おうとしてたんだろ、いつもよりお酒飲んじゃったから、頭が回らないな………」
エリナリアはうーん、と伸びをしながら何を言おうとしていたか考えつつ、自身のカーディガンのような羽織をあっつー、と言いながら脱ぎ、畳んで自身の膝の上に置く。
んっ?
私はそんなエリナリアをまじまじと見つめる。
小ぶりなスイカと同等の大きさを持つと思っていたエリナリアの胸は伸びをすること によって、大きなスイカへと変貌を遂げる。
なんちゅう、大きさなんだ!!!
私が見てきた胸の中で一番といってもいいほど大きい。
私が彼方だった頃と比べると丘と富士山ぐらいの差がある。
この差はなんだ!!!
なんで私だけ、おっぱいが小さいんだーーーーー!!!
と、心の中で叫び、今の自分の胸を見る。
やはり男なので絶壁だ。
まぁ、これで胸があったらなかなかとんでもないことになるぞと思っていると、
「どうしたの? 下向いて」
そう言われて、私はハッとし、
「いっ、いえなんでもっ。そっ、それにしてもエリナリア姉さんはメロンとスイカどっちが好きですか?」
………しっ、しまったーーー! 考えていたことがそのまんま口からこぼれたーーー!
「あっ、すいません! 全然つまらない質問なので言わなくても——」
「うーん、私はメロンが好きだけど、今の時期的にスイカも捨てがたいなって思うんだよねー、エオ君はどっちが好き?」
「うーん、大きいほ……ゴホン! 自分もメロンですかねー」
「おいしいよねメロン!」
「ですよね! メロンってあまり完熟しすぎてると自分舌が痺れちゃうんですけど、その熟しすぎる手前ってむっちゃ甘いし、いい感じの歯ごたえでおいしいでうよね!」
「分かるわー。他には! 他には何が好き?」
「そうですねー」
——私とエリナリアの会話は私の失言から始まったがなんやかんや小一時間続いた。
こんなに続くなんて驚きだだったが、意外と楽しい時間だった。
すると、誰かがくしゅんとくしゃみをした。
「そろそろ、お開きにしますかね……」
私がそうぽつりと言った。
「そうね」
エリナリアがコクっと頷く。
私とエリナリアは散らかった物や食器を片付け、他のみんなに毛布を掛けた。
「じゃあ、私たちは帰るよ」
エリナリアはそう言って、持ってきた荷物をまとめ、カラナをよいしょ、とおんぶした。
「父さん、起きて、お開きだよ。エリナリア姉さんとカラナ帰るって……」
……起きない。
はぁ~、とため息を吐き、起きている私だけがお見送りの準備をすることにした。
私はエリナリアといまだにおんぶされながら眠っているカラナと共に玄関まで向かい、
「じゃあ、今日は楽しいパーティーに誘ってくれてありがとね」
「いえ、自分もエリナリア姉さんとカラナのおかげでパーティーがより楽しくなりましたし、エリナリア姉さんと一対一で久しぶりに話せてとても楽しかったです。こちらこそありがとうございました。また一緒に話しましょう」
「そうね」
「じゃあ自分一緒に家まで送りますよ」
「いいって、いいって。すぐそこだから」
「でも」
「大丈夫だって」
「そうですか……」
「うん、じゃあ」
「うーん、エオ、バイバイ~」
寝ぼけながらも目を覚ましたカラナが手を振りながら言った。
「じゃあ、また……」
——エリナリアとカラナが見えなくなった後、トイレに行きたくなり、玄関のドアを開け、家の裏にあるトイレに向かおうとした時だった。
(彼方君)
脳内にアイラの声が響く。
どうしたの? ……あぁ、またあとで話そうって言ってたもんね。
(うん……)
それで、何の話?
すると、目の前に無数の光が集まり、心の中で出会った、『アイラ』という妖精が現れた。
「おおっ」
「おハロー、彼方君」
「おハローって言っても、もう夜中だけどね……。ていうか、本当に夢じゃなかったんだ、てっきり、あの心の中の世界でしか姿が出せず、この現実世界には干渉できない系の妖精かと思ったよ」
「ひどいなー、僕はどこにでも現れることはできるよ~」
「へぇ~」
「そ、れ、よ、り! 君がこの剣と魔法の世界で覚醒してからもう一か月だね」
「あっうん、それは、確かに」
「そろそろ、魔法とか魔道具とかの詳しい説明をしようかなって」
「ほんとにっ!」
《魔法》という言葉に目を輝かせ、ついつい詰め寄って聞いてしまう。
「おぉ、すごい乗り気だね」
「それは魔法なんて言う非現実的な事に興味がないわけないじゃん!」
「でもね、魔法ってすっ~~~ごく難しいんだよ」
「大丈夫!」
「もしかしたら、強い魔法が使えなかったり」
「大丈夫!」
「転生特典とかもないんだy——」
「大丈夫です!!!」
私は全くと言っていいほど聞く耳を持っていなかった。
それほど魔法は私にとっても興味深く、ロマンの塊のようなものだった。
「………でも、彼方君今この世界で外に出れるの?」
「当たり前じゃん、庭だって——」
「違うよ………その庭の柵を超えた向こう側。膨大に広がる世界を『たった一人』で地に足つけて歩けるの?」
「あっ、当たり前じゃん……。柵ぐらい…柵ぐらい……」
あれ? 足がすくむ……。なんで? この世界で生きるって決めたのに、なんで動かないんだ………!
「………!」
「やっぱり、まだ心は立ち直れて……。まあ! できないことはできるように特訓していこう‼」
「………。うん!」
「よし切り替えていこう!」
そう言われて、確かに今難しいことは考えるのはやめようと思った。せっかくの楽しかったパーティーが暗い気持ちで終わってしまうのは嫌だったからだ。
「——というかさっきも思ったけど、なんでテレパシー的なの使えるの?」
「あー、あれね。あれは契約者と契約精霊間(かん)には心のつながりができて、お互い心の中で話したことが聞こえるようになるんだよ」
「えっ、それってプライバシーとか大丈夫?」
「そっち気になるんだ……でも大丈夫! 契約者の方がテレパシーを拒否すれば解除するまで、お互いの心の声は聞こえないよ」
「スマホのブロック機能と同じか………」
「うん、まあそういう感じ……。あっでも、テレパシーを拒否している時でもこっちからコールして応答を待つこともできるんだよ」
「電話と同じか……むっちゃ便利だねテレパシー」
「これが赤の他人とかだと大魔法使いほどにならないとできないよ」
「ほぇ~」
「そういえば、トイレ大丈夫なの?」
「………忘れてたぁぁぁぁあ、おしっこ漏れるぅ‼‼」
私は走って急ぎ足でトイレのある家の裏までダッシュした。
「………あっ」
私のトイレが間に合ったかどうかは私の黒歴史事件簿第二章に書かれている………。
× × ×
十歳になってから一週間。
今日は『そろそろ魔法を教えよう!』と父さんが言ったため、庭で魔法の練習だ。
「——とは言っても、俺より母さんの方が魔法を教えるのは適任だから、母さん頼む!」
と、言って父さんは母さんに私に魔法を教える役を丸投げした。
おいおい、自分から言い出しておいて………。
「はいはい、分かってましたよ」
と、母さんがあきれながら半ば分かっていたように承諾した。
父さんはすーっと、下がり玄関に置いてある木製のロッキングチェアに座った。そして、家でお絵描きをしているユアを手招きし、自分の膝の上に座らせ、「母さんの魔法を見よう」とユアに言った。
「じゃあ、エオやるわよ!」
「うっ、うん」
「ねえ、エオ、魔法って知ってる?」
「うん、あれでしょ? この世界の大気に干渉して、さまざまな事象を起こすことの総称だよね?」
「うん、合ってる。でもね、そういう知識じゃなくて魔法を使う時の心得ってわかる?」
母さんが真剣な顔になった。
「⁉………分からない……」
「心得はね、魔法ってのは日々の生活を便利にしたり、自分や大切な人を守るためにあると同時に人を殺める(あやめる)可能性もあるということを忘れないっていうのが魔法を使う時の心得、分かった」
「うん……」
魔法は人を殺める可能性がある……。そうだ、この世界はゲームでも漫画やラノベでもない、現実だ……。この世界の人はみんな生きてる………それを心にとどめておかないといつか………。
「だから、魔法を使う時はしっかり考えて……、特に上級の魔法や殺傷性のある魔法を使う時は………」
「うん」
「さあ! 魔法の使い方を教えましょう!」
母さんは手を叩き、私に切り替えるように促した(うながした)。
「うん!」
「じゃあ魔法の使い方からね。魔法はさっきエオが言ってくれたようにこの世界の大気から魔素を集めて、自身の魔力を使い魔法を作り出すの。まあ、魔法を使う時は心と想像力(イメージ)と集中力が大事なの。他にも魔力総量とかセンスとかも大事ではあるけどまずこの三つからね、基礎の基礎。じゃあやってみようかっ!」
「うんっ!——」
「——あれ、おかしいわね~。初級の魔法でも、上手くいかないなんて……」
目線の先で水の球体を生成しようと手を自分の前に上げて集中し、その魔法を発動させる呪文詠唱を始める。すると、手のひらに魔法陣が現れ、徐々に水の球体が作り上げられる。しかし、次の瞬間魔法陣にひびが入り、水の球体が形を崩し、手のひらから水の球体だったものが水となり流れ落ちる。——これがもう八回は繰り返されている。
「うーん、もしかした心に原因があるんじゃないか? 子供は想像力はあるし、エオが集中すると他のことは聞こえない子だし」
ユアを肩車した父さんがこちらに歩いてきて言った。
「えっ?」
心に原因か……。
心当たりはあった。
誕生日パーティーのあとアイラに言われた「膨大に広がる世界を『たった一人』で地に足つけて歩けるの?」という言葉がひっかかっていた……結論から言うと、私はこの世界をたった一人で歩ける気がしない。なぜなら、私自身を外部の敵から守ってくれる箱や相手がない恐さ…恐怖をまだ持っていた。……その恐れ、恐怖が原因な気がした。
……未来のことを前向きに考えるようになったとしても、未来と一緒じゃないと外に出れないというのは、根本的に根付いてしまったものらしい。
「うーん、ちょっと気晴らしに家族で散歩にでも行くか?」
父さんが突拍子もない提案をする。
「そうね。最近エオとユアあまり外に出してなかったし」
「よし決定!」
………私の意見は?………
すると、父さんはユアを肩車しながら、「よし行くぞ~」と言いながら、柵を超え外敵を守る箱から外という無限に続く世界へと踏みに出した。それに続き母さんも………。
すると、母さんは私がその場から一歩も動いてないことに気付く。
「どうしたのエオ?」
「………っ」
「足がすくんでるの?………まさか、外に出るのが怖いのね………?」
「っ………………」
図星で言葉が詰まったが、静かにうなずいた。
………私は何か言おうと、息を大きく吸い、
「おっ……俺、無理なんです! 外に出ようとすると足が震えてっ、外に出たいけどっ、足が言うことを聞かないんですっ………!」
と、震えた声で今の心情を吐いた。
母さんは下を向いた私の顔をしゃがみながら優しい顔で見上げた。
「そっか……。エオ最近外に出るのがなかったから怖くなっちゃったのかな………?」
「じゃあ、『あれ』をしよう!」
「あぁ、『あれ』ねっ!」
父さんと母さんは『あれ』というのがお互い何かわかってるらしいが、私にはその『あれ』というのが分からなかった………。
「よしっ、エオは父さんの背中に乗れ」
「うっうん、でもなんで……?」
「まあ。いいから、いいから」
私は父さんの背中に渋々乗っかった。
……大きい背中だな………。
身長は母さんより低いはずなのに、この父さんの背中が大きく感じて、安心してしまう。
父さんは母さんに「ユアのほう頼む」と言い、ユアを預ける。
「よし、行くぞ! 怖さや恐怖があるなら目を瞑ってな!」
——その瞬間、父さんのもとに風が集まり始める。
風は徐々に私たちの体をふわっと浮かし、地面から父さんの足が離れる。
その非現実的な光景に目が離せない……。
すると、父さんは風が吹いている中、一瞬ビタッと静止したと思ったら——突如として速度をつけ、地面との距離を一気に離す。
「飛っ、飛んでるぅーーー‼‼」
驚きが叫びとして漏れる。
怖さなんて、恐怖なんて、吹き飛ばすにはちょうどいい速度だった。
「いいね! 父さん空を飛ぶって!」
「なっ、そうだろ! なにか落ち込んでたり、もやもやしたりしてる時に空を飛ぶって最高だろ! 空が、空気が、脳をクリアにしてくれて、風が自分を前に一歩踏み出させてくれるんだ!」
「うん、本当だね!」
『彼方、これで一人で歩けるね………!』
どこからか聞こえるのはかつての幼馴染の未来の声。
「うん。今までありがとう……未来! これなら自分で歩けそうだよ!」
『ふっ、ここまで来るのにどんだけ時間がかかったか…』
未来は少しはにかんだ後、少しあきれながら言った。
「ごめんっ、未来」
私は笑いながら言った。
『でも寂しくなるな彼方が独り立ちしちゃうなんて……彼方、わたしのこと忘れないでね』
「うん、忘れないよ絶対。でも、なんかまた会えるような気がするな……」
『もしかしたら、また会えるかもね。この世界なら……』
「さようなら、未来」
『うん、さようなら彼方』
未来は私に微笑みかけた後、私と視線を外し後ろを向いた。
私は後ろを向いた未来が少し寂しそうな……でも少しうれしそうな、そんな顔をしてる、気がした。
「絶対忘れないよ……」
「どうしたんだ、エオ? 急に独り言をし始めて」
「うん? いやなんでもないっ………!」
——未来と話した気がした。しかし何の会話をしたかは覚えていない………でも、背中を押してくれる言葉を掛けてくれたような気がする………。
今の私は一人でどこにでもこの無限に広がる世界を歩けそうだ。
もし、また怖さや恐怖が引っかかって一人で歩けそうになかったとしても、マリー・アントワネットみたいに、
怖さや恐怖で足がすくんで一人で歩けそうになかったら、地に足つけないで空を飛べばいいじゃない。
と、思えばいい。そしたら、また一人でもこの無限に広がる世界を歩ける。なぜなら、空が脳をクリアにして、風が背中を押してくれるからだ。
【キャラクタープロフィール】
エオン(愛称 エオ)
年齢 10歳(仮) 誕生日 不明(エオンの父と母がエオンを拾った日「5月29日」を
誕生日にしている。)
身体的特徴 黒髪の少年。何度直そうとしても跳ねるくせ毛が前髪にある
性格 巣羽彼方が転生したため性格の変化はこれといってない。だが、ところどころ子供らしく無邪気になるときがある。(少し明るくなった)
補足 誕生日、父アディアスがエオンにプレゼントをあげたが、それはなんかきれいな三つの宝石が入ったペンダント。(ハンドスピナーみたいな形をしている)
アイラ(エオンの『生涯?』契約妖精) 妖精族
身体的特徴 深紅の瞳とひまわり色のような肩までの長さの少し短めな髪を持った妖精。
補足情報 謎だらけ……。詳しいことはわかっていない。
ユア(エオンの妹) ハーフエルフ族
年齢 8歳 誕生日 3月1日
身体的特徴 ハーフエルフ。エルフなどの種族が持っている長い耳と純白で長めの髪。エメラルドグリーンのきれいな瞳を備えたかわいらしい少女。
性格 引っ込み思案。エオンにクッキーを作ってくれる優しい子。
補足 どこに行くときも「兄さん、兄さん」と言って後ろについて行ってしまっていて、少しブラコン気質。
アディアス (エオンとユアの父) ドワーフ族
身体的特徴 ドワーフ。 真っ赤瞳と真っ赤な髪のオールバック。声が大きい。ザ・男!
性格 何事にも熱い性格。
レイナ (エオンとユアの母) エルフ族
身体的特徴 淡い緑髪でユアと同じぐらいの長めの髪と同じ色の瞳。アディアスより背が高い高身長美人。
性格 ややおっとり、だが怒らすと怖い。
エリナリアとカラナ姉妹 人間族
エリナリア 青い瞳と青い髪、白い肌を持った少女で15歳。なかなか落ち着いている。
あと胸がでかい‼
カラナ サイドテールの黄色い髪に淡い赤い瞳に少し褐色かかった肌で活発的な少女。エオンと同じ10歳。
二人はエオンとユアの幼馴染。
【現在のこの世界の情報】
《世界線》
第一代魔王が勇者と英雄によって倒されてから五百年以上たった地球とは別の
この世界は二つの巨大な大陸でできており、その東と西の大陸の間には渡れない海があり、そこを渡っていく大陸を行き来するのは不可能に近い。だが、ほんの一部(もともと魔王城があったところだけ)東と西の大陸が繋がっている。昔はそこしか大陸は繋がっていなかったが、今では魔道具の《転移ポータル》があり行き来自由。
主人公は東の大陸の小さな村の外れに住んでいる。
《魔法》
この世界の大気に干渉して、さまざまな事象を起こすことの総称。
魔法は詠唱をすることによって、魔法の属性と生成方法を絞り、その生成したい魔法の魔法陣を発動させる。——しかし、魔力が足りない、詠唱失敗すると、魔法陣が崩れて何も起こらない。
魔法の種類は誰でも使えるが属性を持たない《無(む)》と大体の人が扱える属性を持っている《火》《水》《風》《土》の基礎四属性の他、《雷》《氷》《癒し》《光》《闇》《呪い》《祈り》《毒》と、属性なし、属性あり合わせて十三種ある。
二つの魔法を同時に発動する(同時に魔法陣を作る)ことはできるが種族がエルフなどの長耳族ぐらいの強さそしてなおかつ魔力が多い人ではないと不可能。(まず詠唱が無理、口二つないと詠唱負荷。あと、二つの魔法を同時に発動するときは片方の魔力消費量がそれ単体で使う時の倍になる)
《魔法級》
魔法の強さを八段階に区切ったもの。
下から《水星級》《金星級》《地球級》《火星級》《木星級》《土星級》《天王星級》《海王星級》の八個の名称がある。でも一般的には水星級魔法を初級、火星魔法は中級、地球級魔法を上級ともいう。
《魔力》
魔法を使うための力。心臓から血液が生成されるように、魔力も心臓から生成される。
魔力を使いすぎて心臓からの魔力の供給が間に合わなくなると、めまいを引き起こし、場合によっては気を失う(魔力超過)。
実体を持たない種族(妖精族など実態を持たない種族)は契約した相手の魔力や大気、木々、花、大地にある有機物に宿る魔力を使う。
《魔力範囲》
自身がノーリスクで魔法が放てる範囲。たいていの人は自身の体の周りしかない。
《魔術》
この世界の誰もが持っている。十歳前後になると発現する、自分以外使えない自分専用の強力な力、魔法とは異なる。——しかし、詳しいことはわかっていない……。
また、魂が強い人だと二個発現する者もいるとかいないとか………。
《契約》
この世界に顕現できない種族を自身の魔力を使い、顕現させること。
・妖精との契約の場合
自身の魔力を膨大に消費して妖精を召喚し、対等な関係で力を分け合い協力関係を結ぶこと。
妖精の属性の指定もできる。妖精がその召喚した人を気に入らないと、召喚、契約は失敗する。また、魔力が少ない人が契約すると魔力超過で最悪死ぬケースもある。——そのため、人間の国ではこの妖精と契約という概念が廃れている。
妖精との契約は契約者が破棄すればなかったことになる。
《魔道具》
その一転に特化した強力な魔法、魔術が仕込まれている武器や道具のこと。
また、今では再現できない古代魔法が組み込まれている魔道具もある。それをアーティファクトと呼ぶ。
《種族の特性》
この世界は二十を超える種族がいるがその種族一つ一つが別々の特性を持っている。『人間族は例外』。
エルフ族やドワーフ族を含む長耳の種族は魔法の詠唱を破棄して魔法を扱うことができる(無詠唱)。またドワーフ族は手先の器用さ、エルフ族は魔力総量が多いなどという特性がある。
父と母を別の種族で持つハーフはそれぞれの特徴がぶつかり合って、特性が発言しない場合があるが、極まれにそれぞれの特徴を持ったハーフもいる。
《エルフの特徴》
長い耳を持っていて高身長。顔が整った美人やイケメンが多い。二十代から三十代の容姿を老いても維持してる。髪の色が鮮やかな色の人が多い。また、五百年ぐらい生きる。植物や木々の下で暮らしているため、おっとりとはほのぼのとした性格のものが多い。
《ドワーフの特徴》
エルフと同様長い耳を持っている。その特性と相まって職人気質のものが多く、こだわり強い。赤や黒系の髪が多い。身長は百五十から百六十前後、寿命は四百年。
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