第8話 いざ、獣王国へ…行けるかな?

「―――ぬおっ!?」


見知らぬ天井の下、モーヴは目を覚ます。

魔力不足の倦怠感は消え意識がはっきりとしていく。

背筋でベットを叩きつけ飛び起きると周囲を確認する。

個室・2階・下には数人の気配とアルコールの匂い…、


「ギルド…ノースギルド?」


ぐっすり眠ってたからにはあのパパメルトとかいうおっさんがうまくやってくれたのだろう。

しかし、状況がわからないので歩業術の〈忍び足〉で音をたてずに下に降りる。

足指から小指球、母指球、土踏まず、踵の順にできるだけ表面積を一度に地面に接触しないよう注意して歩く。


ギルドの大広間に繋がる扉の前まで来ると、


「お、起きてきたか!」


気配を消していたはずだったのだが、パパメルトに気付かれてしまったのでじっとりと姿を表すモーヴ。


「…うっす」


その姿を見た瞬間ギルドの空気は凍りつく。

まぁあれだけ暴れたのだからしょうがない。

ボタンとアゲポヨ、ついでに何故か一緒のテーブルで食事を共にするセーソの姿をみて警戒を解く。


「ボタンちゃん、アゲ姉貴、無事か?」


「モーヴぅ!!無事で良かったよーー!」


涙目でモーヴに抱きつくアゲポヨ。


「よかった…丸2日目を覚まさなかったんです…よかったぁ…」


ホッと胸に手を添えるボタンちゃん。


「本当に良かった!寝たままだったら様にパーティに入れてもらえるか話ができないもんね!」


セーソとかいう最初のパーティにいたマセガキ…む?


「……うーむ、アゲ姉貴?」


「ああああ!?ごめんなさい!話しちゃったんですぅ!!」




――――――1日前、同所――――――


「ええっ!?なんでこいつが居るんですかパパメルト様?」


「パパメルト呼びでいい、これからパーティに入れてもらうつもりだからな!」


「私もセーソでいいよアゲポヨちゃん」


「だーから!なんでおめぇみたいなビッチがここに居るって話だっつーの!!」


「だって…私も『竜の物語』に入れて貰おうとおもって…(チラッ)」


「はぁ?おめぇムノーと一緒に私らをハメようとしただろ?あぁ゛?」


「むっきゅ〜ん(上目)」


「……殺すぞ」


「まぁまぁまぁ、いいじゃねぇか若いんだし。それと俺の監視が届かないってなるとムノー同様捕まえなきゃいけなくなるんだよなぁ?」


「「え?」」


パパメルトの言葉に驚くセーソとアゲポヨ。

パパメルトが経緯を説明する。


「まずシーリとパイオッツはノース領の‘影’、まぁ構成員だな。勢いのあるパーティに潜伏させてラード・デブゲッチョと『魔神の尻尾』の繋がりを探らせていたんだが、案の定だった。ラードの奴は適当な冒険者にボタンちゃんなんかの獣人を保護した体を装い、フセイっていうノース領の憲兵だった男、まぁそいつが『魔神の尻尾』だったわけだが…あてがった冒険者を始末しつつ『魔神の尻尾』の組織に連れ込み生体実験をする手はずだったんだと」


「「げぇえええ」」


「私…お二人に助けていただなければ今頃…」


「そんでな、一緒にアルベルト陛下が関係を良くしてくれてる国家間も悪くできて一石二鳥だったらしくてな…まぁそれはいいとして、つまり間接的にでもラード・デブゲッチョに『竜の物語』を紹介した『無双の剛剣』は罪に問われる」


「た、たすけてーアゲポヨ様ぁ〜!!」


「知るか!自業自得っしょ!それに…モーヴと相談してからじゃないと…でも、」


現在モーヴは寝たきり。


「ねぇアゲポヨちゃん、モーヴって本当にただモーヴなの?」


真剣な眼差しでアゲポヨに問いかけるセーソにギクリとする。

ぽかーんと理由のわからないボタンの横でニタリと広角を上げるパパメルト。


「な、何言ってのアンタ?頭大丈夫?」


「ふーん…そっかぁ…」


「な、何よ?」


「近からずとも遠からずって感じ?ぐふふ…」


「なんなのよ…もう…」


「モーヴについては俺も聞きたいねぇ、立ち会った時に感じたあの気迫と技量、部下に報告を受けていた人物像と違いすぎてちびりそうになっちまったぜ?アイツさ…ワキヤック殿じゃねぇのか?」


「え〜おじさん、流石にそれは…」


茶化すセーソだったのだが、口を開けてあんぐりしたまま冷や汗をかき彼方を見てキョドりまくっているアゲポヨが目の前にいる。


「…マ?…マッ!?ほ、本当に?なんで?」


「実はな、特別教師として王都の学校に通う息子の連絡で1ヶ月前からワキヤックの様子が違うらしくて…丁度1ヶ月前からだろモーヴの様子が違うのが。これも息子から聞いた話だが、ワキヤック殿は本気を出すと紫色の稲妻を操ると聞いていて…妙に気になっちまうんだよなぁおっさん(チラッ)」


「それって……もうほとんど確実じゃん!言い逃れできない奴じゃん!?」


「ふふふ、マジか!すごいすごい!ワキヤック様ぁ絶対彼ピにしたぁい!!」


「ふざっけんな!裸で迫って振られたくせにーーー!」


「一度や二度であきらめないもーん」


「アンタだけは絶対認めーん!!」


「はっはっは、若いっていいねぇ〜」


「……私、不意にとんでもない事聞いちゃったような…」




――――――――――――


「そうか…まぁアゲ姉貴がいいなら別にいいさ。『竜の物語』のリーダーだし」


「そっか、ごめんねモーヴ…ん?アタシがリーダー?」


直ぐ様自分の冒険証を確認するアゲポヨ。

冒険証の『竜の物語』の記載の横には☆印のルーンが刻まれている。


「マジだ…いいの私で?」


「アゲ姉御に任せたい。『無能の剛剣』に居た時「無双な」判断、マネジメント、気配り、どれにおいても一流だったぜ!俺はそういうの考えず突っ込みてぇからな」


「俺と一緒だな」


「え、えへへ…そう?」


「ねーえワキヤック様ぁ?私は〜(ベタベタ)」


「敵の気配も察知できない斥候は弁解できん。こいつを仲間に加えるのかアゲ姉御?」


「うーん、まぁムノーに無理やり処女奪われた話とか聞いちゃったら…ねぇ」


「そうか、アゲ姉御が言うならやぶさかではない」


「やったー!早速登録してくるねー!」

「おっ、ついでに俺も登録してくるぞ、リーダーの冒険証を貸してくれ」


「え?あ、はい」


アゲポヨの冒険証を渡すとパパメルトとセーソはスキップで受付の元へ行く。

その姿を見送って所でボタンが口を開く。


「ワキヤック様?でよろしければ聞きたいことがあるんです…」


「おう、子供が気ぃ使わんでいいぞ」


「(もし本当ににワキヤック様だったら同じ歳って事は黙っておこう。)実は、私は姉を探すためにホウオウ王国に来たのです」


「ほぅ」


「名前をコウメと言います」


「あっ、コウメちゃんかぁ!そっかぁどっかで見たと思ったんだがコウメちゃんかぁ。あの子ならバルバロイのおっさんとカマセー領で元気にやってるぜ」


「え!?ほ、本当ですか!バルバロイ様がお姉ちゃんを守ってくれたんだ…」


「おい、あんまり鵜呑みにするなよ?騙される時は自分に都合のいい情報をちらつかせるならな?また悪者に捕まっても知らないぜ〜」


「は、はい」


「だかよ、俺達はこれから獣王国へ行く予定だからよ。カマセーには行かないぜ?どうすんだ?」


「ど、どうしましょう……アゲポヨさん?」


「そ、そんな可愛らしい目で見られても…モーヴ?」


「一度獣王国へ帰って家族とか仲間とかと一緒にカマセー領まで行くとかじゃ駄目か?」


「私、両親に内緒で来てまして…バレると連れてかれちゃいます…」


「ボタンちゃんはいいとこのお嬢様なの?」


「……ラピスラズリ」


「ラピスラズリぃ!?獣王国の輝石の騎士じゃない!凄いじゃないの!」


「へ、外国にも輝石の騎士っているのか?そもそも輝石の騎士ってなんだって話だけど…」



「……え!?知らないの?では、リーダーのアゲポヨ様が教えてしんぜよー」


「お願いしやす!」




輝石の騎士、というのは四神ビャッコ、ゲンブ、セイリュウ、ホウオウから王族以外で特殊な力を授かった血筋の者たちで、世界に16人、各国ごとに4人ずつ存在する。

風を司るビャッコの緑石。

大地を操るゲンブの黄石。

水を操るセイリュウの青石。

炎を操るホウオウの赤石。

なぜ石と言っているのかだけ謎だけど…




「ほーーーん。そんだけ仰々しいとボタンちゃんも大変だな」


「そうなんです。でも私はまだましでお姉ちゃんは…えっと、私が本家でお姉ちゃんは腹違いの分家なんですけど、もう信じられないくらい劣悪な環境で苦しまされた挙げ句成人(15歳)したら国外へ追放。ラピスラズリ家で唯一私の理解者だった大事なお姉ちゃんが人族国に居るって聞いて、もう居ても立ってもいられなくて信用のある商人に頼んだら騙されて…奴隷になりました」


「まぁそれはそれとして「え゛」、問題はこれからな……お?」


ふと何かに気づいたモーヴが何かに気づくと、何も無いはずの空間に話しかける。


「おいおい、お前がここに居るってことはガンちゃんはもう気づいちまったのか?」


「ちょっと…どうしたのモーヴ」

「モーヴ様、誰もいませんけど…」


「居るぞ」


「「ひえっ!?出たーーー!!」」


何もない空間から突如現れたのは幽霊…ではなく、褐色長身のミステリアスな執事であった。


「お久しぶりですワキヤック様」


「おー、バレてるバレてる。俺今はモーヴだからなディア」


「は?かしこまりましたモーヴ様」


「し、知り合いモーヴ?」


「うん?そうだけど…おっ、そうだディア!お前さこのお嬢ちゃんを【空間魔法】でこの子をカマセーまで運んでくれ―――」


「その必要はありません。偶然にも彼女も来てますから…」


「ボタン!!」

「お姉ちゃん!!」


振り向くとそこにはメガネをかけた小柄な兎獣人の少女、コウメが居た。


「ボタン…今後の獣王国守りの要になる存在なのよ。こんなところにまで…」


「だって、お姉ちゃん…」


「まぁいいわ、私の『モヒカンズ』の任務を果たしに来たの…モーヴ・ビィエスエス―――ワキヤック様、すぐにカマセー領にお戻りください。大変なことになりそうなのです」


「え、嫌だけど。俺獣王国に行くから。お前らだけでなんとかしてくれ」


「無理だから頼んでるんです!貴方の体をどうにかは我々にはできません。あっちのワキヤックは今教会と協力を―――」


「クソッ、ガラワル(モヒカンズ)辺りにバレやがったか!?あー聞こえなーい聞こえなーい。そもそも僕はモーヴってしがない冒険者なんですぅ〜」


「(ムカッ)ふぅ、仕方ないです。強制的に持ち帰ります。今の貴方になら私でも勝てますよ…」


上着も脱ぐコウメ。

メガネが怪しく光ると【魔装】を纏う。


「え、ちょっと?お姉ちゃん?本当にお姉ちゃん?雰囲気変わった?」


「ね、ねぇ?『モヒカンズ』ってワキヤック様の特殊部隊じゃなかった?敵じゃ無いのよねぇ?モーヴ?」


「いい目をするようになったじゃねぇかコウメちゃん。表出ろよ。久々に指導してやるか」


「ちょっとーーー!?煽っちゃ駄目でしょ?」


「ひゅーひゅー!」

「いいぞ!喧嘩か!」

「楽しませろよーー!!」


表へ出る二人。


【性質魔装・紫電】


「原初の…稲妻!」


「一ヶ月、練り、瞑想、執念。俺がどこまで仕上がったかその目で見てみな―――」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る