第7話 一方その頃ワキヤックは
「親父ィィッ!?ふざけろクソ野郎!!バーカ!バーカ!」
騎士科特別講師のランメルト先生の悲鳴が聞こえた。
僕についてくる女の子たちから事情を聞くと、どうやら突然の領主任命で発狂したらしい。
王国の要である輝石の騎士であり剣術の天才ランメルト・トパーズ。
でも今の僕はそのランメルトと同等の実力がある。
僕の名前はワキヤック・カマセー。
幾多の悪魔を退けた大いなる英雄にして、幾多の種族を束ね、領地を飛躍的に成長させた生ける伝説。
今はもうあの冴えない冒険者はいない。
「おい、聞いたか?とんでもない冒険者ルーキーが出てきたの、お前知ってる?」
「あの『戦慄のパパメルト』と同じ実力者だって言うじゃねぇか?やべぇよやべぇよ…。100の憲兵を魔法で薙ぎ払い……」
「原初の雷鳴(紫電)を纏い、B級冒険者達も瞬殺―――」
「「紫電のモーヴ」」
「は!?はぁあああああ!?」
「へ、ワキヤックさん」
「ど、どうかしました?」
「いや、なんでもない……」
紫電のモーヴ!?え、何?どうゆうこと?
しがない、情けない、うだつの上がらない冒険者だったはずだ。
僕が一番よく知っている…
「ワキヤック……本物は違うってか!?僕だって―――」
――――――――――――
「ねぇ君たち?」
「うおっ?びっくりした!」
「な、何がんす」
やんちゃな感じの男爵がワンパクくん。
冴えないオカッパメガネの感じがガンスくん。
なぜワキヤックがこの二人とよくつるんでいたのか解らないが、よく話を聞いてくれる。
「紫電のモーヴって知ってる?」
「モーヴ?誰だよその冴えない名前」
「紫電のモレクじゃ無いがんす?うん!?そういえばパーマさんが…、モーヴっていう冒険者気になるがんすね…」
呆然とするワンパクくんと違って俯き、何かを思案するガンスくん。
「うむ……―――ディア!」
「はっ、こちらに」
「調べてきてほしいことが出来たがんす。紫電のモーヴ……頼めるがんすか?」
「御意に。【ディメンション】」
魔法によって消えたディアというガンスくんには似合わないクールな褐色イケメン執事。
ミステリアスな雰囲気があり、近寄りがたい執事だ。
彼が忽然と姿を消し、ガンスはゆっくりと視線を僕に移すと、
「さてさて、愛しのフィアンセが来たガンスよ」
ああ、そうだ!
セーソより美少女なんて居るはずがないという固定概念が彼女と出会うまであった。
「サチウス…」
サチウス・カワイーソン。
本当に美しい女の子でスタイルもよくて色っぽくて男の理想を体現したような乙女。
「ワンパクくん、ガンスくん…ワキヤック様、ごきげんよう」
「サチウスちゃぁああん!なんでこんなイカれモヒカンの婚約者になっちまったんだよぉ…」
「それはワンパクくんが好きな子にツンケンしてたからがんすよ」
うっうっと泣き始めるワンパクくんには悪いが彼女はワキヤックの―――この僕の婚約者なのだ!!
「サチウス、昨日ぶりだね。今日も綺麗だよ」
「「「うっげぇ!?」」」
ワンパクもガンスも、何故かサチウスちゃんまで苦虫を噛み潰した様な顔をする。
「ご、ごきげんよう…実は来月の舞踏会なのですが…お断りしてよろしいですか?」
「え!?なんで?僕に何か非があるのかい?」
「えっと…以前のような獣じみたワキヤック様じゃなくて落ち着かないの!」
「獣じみた?」
「そう。ワイルドで!突拍子がなくて!ここぞという時に現れる理想の男性!なのだけれども、調子が悪いのか、もしくは頭を強く打ったとか…?」
「な、なんでさ?どこも悪くないよ」
「うーん」
「でも…」
「いや、普通に気持ち悪いよ。どう考えても。以前のお前が「おはよう!」とか「またね」とか、しかも爽やか笑顔なんて見せねえよ。お前、マジでどうしたんだよ!死んだ魚見てぇな目で通ってたじゃなねぇか!」
ガンスとサチウスが言葉を濁すが、ワンパクくんがはっきりそんな事を言う。
でも、だって、さあ?
伝説の英雄だよ、現国王陛下の親友でもあるんだよ?
そんな腐れモヒカンな態度では理想の英雄像のへったくれも無いじゃないか。
っていうか謎の声がしてこの体になって、一番疑問何だが―――
「―――なんでモヒカンなの?」
ふとぼやいたその一言を聞いて、ピクリと眉毛が動いたガンスくん。
「あのさぁ
「「ハッ◯ン?」」
「なんだいそれは、僕に関係あるのかい?」
「なるほど……よく解った。【スピリットシャッフル】。…ふざけやがってオーディンとかいうクソ野郎が…」
「う゛っ!?」
一瞬だったが…とんでもない冥い表情をしたガンス。
正直怖い。
ただの地味オカッパ眼鏡じゃないの?
「と、とにかくせっかくの舞踏会行こうよサチウスちゃん!」
「(ちゃん?)ごめんなさい、やっぱ無理ぃ〜(ソソソ〜)」
早足で立ち去るセーソちゃん。
「「あーあ、振られちゃった〜」」
ぬぐぐぐぐぐぐ……
――――――――――――
くそっ!くそっ!くそっ!!
一体僕とワキヤックと何が違うっていうんだ!
今、僕のこの体こそワキヤックじゃないか!!
この筋肉、男爵なのに侯爵すら頭を下げる権力、男も女も群がるカリスマ。
一体何が不服だっていうんだサチウスちゃん、いやサチウス!
「僕が本気になったら無理にでも―――」
そんな荒んだ僕のもとに、教会のお偉い方が姿を表す。
「シヨーク・エラソー枢機卿様、ご無沙汰しております」
「ほっほっほ、ワキヤックくんも元気そう…ではなさそうですね?懺悔しますか?」
元々教会系列の孤児だった僕にとって枢機卿様と話せるなんて夢のようだった。
3年ほど前に『破滅のモヒカン』とかいう眉唾物の怪物が暴れたせいで教会という組織自体が壊滅寸前まで追い込まれたらしい。
そして何故かアルベルト陛下は教会を毛嫌いしている。
ここは英雄として僕が助け舟にならなければ……と思っているのだけれどいつも僕のほうが懺悔などで助けられている。
「……なるほど、その様な事が…。大変でしたねワキヤックくん」
「そうなんです!解っていただけますか?」
「ほっほっほ。貴方が紳士に振る舞うにもかかわらず、そのサチウスという女酷いものですね……」
「うっうぅ、どうして女ってこう優しくするとつけあがるのでしょう。いっそ―――」
「力付くで?いいではありませんか!貴方には力がある。ですが権力と名声がすこし足りないのでは?」
「え!?足りないんですか?」
「あくまでも貴方は男爵家、権威が足りないのですよ。そこで不動の武功をたてて、爵位を意のままにしてみては?」
「そんな事可能なんですか?」
「可能です。魔王バルバロッサを打ち倒すのです!」
「魔王…バルバロッサ!?」
聞いたことがある。
世界最強とされる魔族領の王。
「で、でも何のために?アルベルト様は種族のいさかいは廃止するって…」
「その様な事を許してはいけません!!ヤツ等は忌々しい魔神の血を色濃く引く悪魔なのです。裏で何をしているのか解ったものではありません」
「は、はぁ?」
「しかし、魔王は強大です。ワキヤックくん一人で太刀打ちするのは至難を極めるでしょう。そこである集団式召喚魔法の手伝いをしてほしのです」
「その魔法って?」
「―――【勇者召喚】」
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