第6話 輝石の騎士がナンボ

「そらぁ!どうしたどうした?【魔力枯渇】か?ラッキー!」


「ぬおっ!?―――鋭い!何千何万と繰り返した修練の剣―――」


「それを避けるたぁ、おめぇナニモンだよ!うりゃあ!!」


「ポーターでぅ―――おっと」


「ポーター…まじかよ」


元輝石の騎士パパメルトの猛攻に防戦一方のモーヴ。


「(くっそぉ、さっきから【マジックドレイン】をやってるのに…それすら防ぐのか【黄石の加護】いや、【性質魔装・土】か…)」


「【ファイアーボール】」


アゲポヨがすかさず火球をパパメルトにぶつける。


ドォーーン!


爆炎が上がるが、その中から無傷の無精髭の男が欠伸をしながらまるで散歩のように出てきた。


「やめとけ!【黄石の加護】は魔防にも優れて上級魔法ぐらいまで気張らねぇとダメージは通らない!」


「【黄石の加護】!?じゃ、じゃああのおじさん…輝石の騎士…嘘、ははは」


乾いた笑いが出てしまったアゲポヨ。

輝石の騎士は王国の最高戦力。

冒険者で言えば世界に指で数えるほどしか居ない伝説のS級冒険者並の実力とされている。

それを魔力の枯渇した状態、しかもC級のモーヴに勝ち筋が全く見えなくてつい笑ってしまったのだ。

そこへボタンが声を上げる。


「聞いて下さい!私は奴隷でも人身売買に関わってるわけでもありません!」


「安心しなさい、後でおじさんが保護してやる!」


「あっ―――聞いてない、モーヴ様…」


ボタンがちらりとモーブを見るとフラフラしながらも避け続ける。

紙一重で避けるも、避けきれず幾つかのかすり傷を負っている。

上段回し蹴りを地面の砂を巻き込み放つ。

パパメルトは避けるも、一時的に視界を奪われる。


「ぬぅ!?巧い!」


その一瞬の隙に回し蹴りの慣性のままに後ろ回し蹴りを脇腹に放つ。


「!?硬ってぇ〜!」


脇腹に後ろ回し蹴りをかかとで差し込んだモーヴ。

しかし強固な【黄石の加護】を貫くことはできない。


「残念だったな!サヨナラだ!」


刹那。

足を持ちながらモーブに向かって名剣トパーズスマッシャーを振り下ろすパパメルト。

斬られる―――その一瞬。


「〈会心流・真剣白刃取り〉!」


剣というのは刃側は強いが側面は弱い。

剣の横から巻き込むようにいなしすくい取る。

よくある真正面から「パシッ」っと取るなどという芸当はではない。

刃をいなした次の瞬間、捕られた足の逆足でパパメルトへ金的二段蹴り。


「うっそだろっ!!」


男の圧倒的急所を撃ち抜いた感触は鋼鉄のような硬さのきゃんたま。

蹴ったモーブの方が蹴り足を痛めた。


「これが【黄石の加護】だ。そして輝石の騎士と呼ばれる騎士はな、剣術だけではないのだよ!」


すくい捕られた剣をすんなり放し、その放した手で思い切り拳をモーヴに向けて叩きつける。

【黄石の加護】によりガチガチに強化された拳がモーヴの顔面を捕らえた。


ドゴォッ!!


地面が沈没するほど強烈な威力パンチで、顔面が地面に沈殿するモーヴ。


「さぁ今度こそトドメだ…」


剣を振りかざすパパメルト。


「まずい―――【ファイアドライブ】」


中級火魔法【ファイアドライブ】は、炎の渦を発生させ対象にぶつける魔法。

アゲポヨが使える最大火力の魔法をパパメルトにぶつける。

爆炎が上がり炎の渦がパパメルトに纏わりつくのだが―――


「セイヤッ!」


剣を一振するとアゲポヨの魔法が拡散する。

魔力を纏う剣ならば魔法を切ることも出来る。


「【飛翔剣】」


斬撃を飛ばす戦士スキル【飛翔剣】。

パパメルトから放たれた斬撃はアゲポヨに襲いかかる。


「きゃあああ!?」


咄嗟に身をかがめるのだが、右肩に深々と斬撃が入り込む。


「アゲポヨさん!」


「駄目よ!こっちに来たら巻き込むわ!」


ボタンがアゲポヨに近づこうとするが静止するアゲポヨ。

またパパメルトから斬撃が飛んでくるかも知れないのだ。

保護対象の少女を巻き込むわけにはいかないというアゲポヨ姉御の冒険者としてのプロ意識。


「さて、あちらは衛兵に任せて…さて、藪蛇やぶへびを突いたか?」


冷や汗をかきながらモーヴに目線を戻す。

ぬるりと起き上がるモーヴ。

アゲポヨが傷ついた瞬間、大気を揺らすほどの魔力を放つモーヴ。


「輝石の騎士…がぁ…?」


「が、どうした?」


「輝石の騎士がナンボのもんじゃああっ!!【性質魔装・紫電】!!」


「あーあ、やべぇぜ…こりゃあ」


もう一度紫電を纏うモーヴ。

しかし限界を越えてひねり出す魔力に体がついていかず、耳や鼻から血が流れる。

憤怒の形相でパパメルトを見据えるモーヴ。

前屈下段脇構え、右手刀に全生命力を練り上げた魔力の本流をひしひしと肌で感じるパパメルト。


剣を構え直す。

カタカタと握る手が震えだす。


「(おいおい…こんなの獣王ヘレネスと殺り合った時以来だぞ!?)」


「〈エキゾチック―――】」


「待った!!降参だ!」


唐突な宣言と剣を後方へ放り投げて両手を上げて降参のポーズを取るパパメルト。


「しょ、将軍!?何のおつもりですか!奴は犯罪者ですよ!!」


ノースに着いた時に絡んできたフセイとか言う憲兵がしゃしゃり出てきた。


「悪いが、これ以上こんな所で命を懸けるほどできた将軍じゃねぇのよ俺は。お前が替わりに戦ってくれていいんだぜ?」


「いえ、それは…ははは」


明らかに逃げ腰のフセイを横目にワキヤックに近づき提案を持ちかけるパパメルト。


「なぁ青年よ、お前を逃がす代わりに俺を雇ってみないか?」


「……は?」


あまりに拍子抜けしたモーヴは魔装を不意に解いてしまった。


「このまま逃がすわけにもいかん、しかしこれ以上命をかけてまで戦いたくはない。さっきあっちの嬢ちゃんの急所をはずしてやっただろ?」


「ああ、だろうな―――あんたほどの実力者がこの距離で外さねぇ…で?何が言いてぇ」


「俺を冒険者パーティに入れろ。そうすれば監視も出来る、俺も冒険ができる、お前らは輝石の騎士の名前にあやかれる…一石なん鳥にもなるナイスアイディアじゃねぇ?」




「「「え、えええええええ!!??」」」


ノース領衛兵及び騎士達一同困惑。

アゲポヨやボタンも唖然。


「将軍!トパーズ領はどうするおつもりで!」


渋い貫禄のいかにもな将軍っぽいパパメルトの部下がパパメルトに問い詰める。


「よく聞け!これより俺は領主を引退。本日をもってランメルトを次期領及び、輝石の騎士に任命する!ってな訳でよろしく〜」


「「そんないきなり―――!?」」


パパメルト達の茶番の横でフラフラと鼻血と耳血を垂らしながらアゲポヨの元へ近寄る。


「モーヴ!?大丈夫なの?」


「その肩、あのおっさんにやられたのか…【ハイヒール】。すまなかったアゲ姉御…」


「か、回復魔法…ほぼほぼスキルか神官にしか使えない秘術なのに…。あー傷跡がない…すごい」


「傷が回復しただけだからな、血は戻ってないからな……気をつけろ……」


バタン!


唐突に前のめりにぶっ倒れたモーヴ。

薄っすらと気を失う前に見たのは半泣きのアゲポヨとボタンの姿であった。




――――――――――――



「うあ〜〜?……はっ、ここは」


私、セーソはムノーと一緒にモーヴ達をハメてやろうと奮起したはず…?

でも紫電に身を包んだときのモーヴは獣の様なワイルドな目つきにクラっと来た自分がいる。

まるで別人…

別人…


「閣下!?冒険者になるなどと本気ですか!!」


「もういいじゃねぇか引退したってさ。お前も報告ご苦労さんパイオッツ。お陰でフセイとラード・デブゲッチョの裏付けバッチリだったぜ。フセイの野郎、『魔神の尻尾』だったとはなぁ……」


「それが私の仕事ですから…」


下の階からどこぞのおじさんと最近『無双の剛剣』に入ったパイオッツというヒーラーの声が聞こえてきた。

周囲をよく見るとここはノースギルドの宿舎だった。

下の階に降りると、


「おい、おいおい、セーソ見ろよ…あのおっさんパパメルト・トパーズだぜ?」


大興奮のムノーの顔を見て私はテンションが下がる。

ん?トパーズ?―――トパーズって輝石の騎士のトパーズ!?


「よぉ〜、お前らがモーヴの元パーティの連中だな。これからモーヴのパーティ『竜の物語』のメンバーになるパパメルト・トパーズだ」


「何!?あいつ……」

「う、嘘…」


モーヴが輝石の騎士さえ一目置く存在ってこと?

本当にモーヴ……あのモーヴ?


―――あれ?


モーヴはあんなに強くない。

モーヴはあんなに肝が座ってない。

アゲポヨちゃんはモーヴの事を好きじゃなかった。

ムノーにモーヴが単純な腕力で敵うはずがない。


そうだ…そうだよ!


「別人…モーヴは別人!」


「あん、何いってんだおま―――」


「くくく、嬢ちゃんもそう思うか?」


セーソの呟きに訝しむムノー。

しかしそこへ便乗したパパメルト。


「そこのパイオッツはよぉ、俺のっていうかトパーズ領のなんだわ。君等がデブゲッチョの馬鹿と繋がっていようと今回は許してやる。というかもう領主じゃねぇからしーらね!ガハハハハ」


「私が全て報告しました(キリッ)」


「何のことかなー」と下手なごまかしをするムノー。


「いろんな報告を受ける中でモーヴという男、ありゃあ異常だ。実際戦ってみて一騎当千の猛者と同じ風格と気迫。とてもじゃねぇが以前から受けていた報告と違いすぎる。別人だろ…どう考えても。気になって旅に同行しちまったぜ!」


「そっか、そうだよね。うん!私も、『無双の剛剣』やめる」


「―――は?何いってんだ!そんな事許されるわけ―――」


私は思いっ切りムノーの顔面を殴った。


「ぐえっ!?ふざけやがって!!このアマぁ!!」


すぐさま殴り返そうとするムノーを軽くあしらい関節を外すパパメルト。


「いぎゃい!?離せ!離せこの……」


「口利きしてやろうか?」


「お願いします!」


もし別人だとしたら、私が感情的に迫って殴ってそれを了承する器のでかいワイルドな男…

それって……


「最高でしょ!」

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