第5話 強行突破

「止まれ!」


北の辺境の首都ノース。

その南門の検問を受けていた。


「これ、冒険証っす」


「『竜の物語』?聞かない名だな」


「まだできたばっかりのパーティーなの」


「ふん、そこで待っていろ」


あれから3日。

道中は特に何もなくすんなりノースについてしまった『竜の物語』。




しばらくして他の10人ほどの憲兵を連れて取り囲まれる。


「貴様ら!『悪魔の尻尾』の奴隷商の一味だな!大人しくついてきてもらうぞ!」


「あわわわわ」

「だ、大丈夫なのモーヴ」


「…あのなぁ、どうして俺達が『悪魔の尻尾』だとかって連中になるんだ?証拠は?」


「残念だったな!証拠はこの冒険証に偽造の痕跡と、なによりそこな少女の首輪…あれ?」


あるはずの首輪が無くて困惑する声を荒げていた憲兵の一人、


「ほーん…怪しいね?【魔装】。よし!コイツら蹴散らしてノースギルドに突っ込むぞ!」


「「ええええ!?」」


「堂々と反抗宣言だ!」

「全員で抑え込むぞ!」


「「「おおお!!」」」


一斉にモーヴに襲いかかる。


回し蹴り


「ごわっ!?」


正拳突き


「ぬわぁ!!」


「ふんぬー!!」


モーヴは地面をえぐり取っての岩石落とし。


「「うぎゃあああ!?」」


岩石が砕けるその破片に紛れて憲兵の首横、顎をことごとく打ち抜き、気絶させていきあっという間に

最初に声を上げた憲兵を残すのみとなった。


「〈下段蹴ローキック〉」


「いぎゃあ!!」


ぐぎっ!という鈍い音とともに憲兵の膝関節はあり得ない方向に変形して立てなくなる。


「こ、こんな事をしてタダで済むと思うなよ!この俺フセイ様に何かあったら領主様がたたじゃ済ませ―――」


「お前には冒険者ギルドに来てもらうぞ?『魔神の尻尾』のフセイさん?」


「―――え゛!?」


あっさりと憲兵の正体に気づいたのはボタンの報告が事前にあったからである。



――――――――――――



「『魔神の尻尾』?まさか…そんなテロ組織と繋がってるのあのデブ?そもそもなんでボタンちゃんと何が関係してるの?」


眉間にシワを寄せて訝しむアゲポヨ。

ソワソワするボタン。


「国境問題だろ?獣王国とは俺等が生まれる前、だいたい20年前には相当ドンパチやったんだろ?幾らアルが頑張って―――」


「「アル!?」」


「アルベルト陛下が頑張っても溝は埋まらねぇ。互いに裏で人身売買、嫌がらせ、小競り合いはいつもだろ?そこへ獣人の奴隷が冒険者によって輸送され、それを憲兵やら騎士が取り締まるためにたまたま人質の獣人まで巻き込んでしまった。怒り浸透の獣王国は20年前の戦争をぶり返す…なんてシナリオなんじゃねぇかな。あいつらそうゆうの好きだし」


「そ、そうかもしれません。私を生贄なんて言ってました…適当な冒険者を利用すればいいなんて事もラード男爵が言ってましたし…」


「あのデブ!性根まで腐ってんじゃん!同じ男爵家として許ねーし!」


「あえて策に乗ればいい。こういう時は知らないで事を進めて騙されたーーーってなったら向こうから馬脚を現すだろ?たぶんノース領辺りでアクションがあるだろ。俺の実家じゃ7年まえぐらいはしょっちゅうこんな事あったぜ」


「へぇ〜。ホウオウ王国って物騒なんですね〜」


「物騒なところばかりじゃ無いからね」



――――――――――――



ノースギルド


「おっすー!邪魔するぜ」


入口から唐突に入ってきたのは地味で無害そうな青年。

しかし謎の貫禄がある青年は褐色の美少女と兎獣人の少女を連れてずかずかと中央の受付嬢に話しかける。


「急ぎ、ギルドマスターのロンベルクさんに合わせてくれ!『魔神の尻尾』とこの少女について話が―――」


「受付嬢、そいつらの話なんて聞かなくていいぜ!」


バンッ!とギルドの扉が開くとそこに居たのは……


「うん?お前ら…暇か?」


「暇じゃねぇ!!その余裕も今のうちだぜフニャチンモーヴ!」


『無双の剛剣』のムノーとセーソと…デカチチとデカ尻みたいな名前の人たちがそこに居た。


「受付嬢さん、あいつら獣人の人身売買に関わってるんです!すぐにひっ捕らえてください!」


セーソは叫ぶ!


「「「な、なんだってー!」」」


ギルドにたむろしてる冒険者たちが『竜の物語』二人に敵意を向ける。


「あんのクソビッチーー!!「てへ♡」どうしよモーヴ!この人数相手まずい!」


周囲40人。

C級・B級冒険者の手練もちらほらいる。

ふとモーヴはボタンを見る。

怯えてアゲポヨに抱きついている。


「って事になっちまったけど、どうするボタンちゃん?ギルドに保護してもらうか?」


「い、嫌です。置いてかないで……」


震える少女の声を聞いて、腹をくくるモーヴ。


「やれやれ…本気、出しますか【性質魔装・紫電】!!」


紫電の稲妻が駆け巡る特殊な【魔装】を纏うモーヴ。


「エキゾチック〜♡…じゃなくて!?どうするつもりなのモーヴ!?」


「こうなっちまったらギルドは頼れねぇだろ?じゃあコイツら蹴散らして北の国境を強行突破しかないぜー!」


「強行突破!?そんな事したら指名手配―――」


「指名手配?いいじゃねえか!ここで死ぬよかな!さてテメェら……」


冒険者たちに向かって不敵に笑うモーヴは一言、


「武器を捨てて両手を上げない奴は全員ぶん殴る!!」


「ふざけんな!」

「ぶっ殺すぞ!」

「やっちまえ!」


40人一斉にモーヴに襲いかかる。

その瞬間、周囲に紫電の雷鳴が迸る。


「「「―――!?」」」


息吐く暇もなく、瞬きより早く、反応もできないままB級以外の冒険者たち約30人ほどが一瞬でバタバタと床に倒れ込む。


「ば、馬鹿な?何だアイツ!?」


理由が解らないといった様子のムノー。


「強すぎる…あれがモーヴ?まって、じゃああの時のオークキングはまさか……」


そんなこんなしてる間に紫電が二人の元へ走る。


「まて!?待て待て待て―――ぼへぇッ!!」


「モーヴぅ、私本当は怖かっ―――だぼえッ!!」


顎に超高速のビンタ。

十分に脳が揺れ、地面に伏せるムノーとセーソ。

ついでにデカチチとデカ尻にもビンタしておいたモーヴ。


「な、なんだこの怪物?こんな奴が無名だなんて…ええいノースギルド最強のB級冒険者パーティー『雷鳴の剣閃』がお前を仕留める。ラムダ!」


「応よ!」


「ハーミット」


「任せてダーリン」


「【雷鳴剣】!!行くぞ地味男―――ベブッ!!」

「ほげぼッ!!」

「いひーん!!」


出てきて即顎を撃ち抜かれたB級冒険者パーティー『雷鳴の剣閃』の面々。

完全に制圧した周囲を見てモーヴは【性質魔装】を解く。

同時に荷物を捨てボタンを背負うと―――


「逃げるぞアゲ姉御!」


「まったく!どこまでもついて行くわよ!」


「ご、ごめんなさいーーー!!」


絶叫とともに外に出ると今度は憲兵隊100人。


「貴様ら完全に包囲され―――」


「【賢者石・リンク】!’ヨセンゲツハニココテッモヲンゲンケノンミンジマ  リカイノョシンゲリレタキリヨウクコ”!!【パルサー(極小)】!!」


バチチチチチチチチ―――ドゴォオオオオン!!


「「「うぎゃあああああああ!!」」」


紫電の雷鳴が憲兵隊の尽くを焼く。

しかし、命を奪うほどの威力ではなかった。


「す、凄い…」


「スゴ―――ってこれってお伽噺の【原初魔法】なんじゃ……ねぇちょっと!一体どうなってるの―――ってモーヴ」


「や、やべぇ(フラフラ)」


「ま、魔力枯渇!?こんな時に―――」


【性質魔装】、【原初魔法】ときて流石に魔力が枯渇したモーヴはフラフラでも北門に向かって走る。

もちろんボタンを背負った状態で。


数刻の後、北門が見えた所で鬼神の如き気迫に足を止めるモーヴ。


「―――居る!」


「え、何が?」


「すまんアゲ姉御、ボタンちゃんを頼めるか?」


「え?え?ちょっと…」


ボタンを背から降ろすとフラフラと北門へ向かう。

高さ10m、横4mの巨大な門の中心にはジブ面の顔に傷のあるワイシャツジーパンのなんかだらしない無精髭の男がゆっくり立ち上がった。


「すまんがにーちゃん、ここを通すわけにはいかんのよ。北の辺境にもメンツってもんがあってなぁ…」


「俺はモーヴ・ビィエスエス。おっさんは?」


「俺はパパメルト・トパーズっていうしがないおっさんだよ。さて、本気でいかないと足元がすくわれそうだ…【黄石の加護】」


黄金のオーラを纏ったパパメルトは腰のロングソードを抜く。


「獣人の人身売買は絶対に許されねぇのよ。久々に熱くなる主君アルベルトの指示だからな…成仏してくれよ?」


「…これはやばいかもな……」


魔力枯渇しているモーヴの前に強敵現る。

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