第3話 よくある追放物的なモーヴ
「うっす、じゃあな!」
半年、しかも創設時のメンバー。
何らかの恨みつらみを言うものとニタニタ構えていたムノーはあっさりと追放を受け入れ、足取り軽くギルドを去ろうとするモーヴを流石に止めた。
「おいちょ、ちょっと待ぁてぇ!!お前、感情ってもんがねぇのか!?」
「?」
「女捕られて!パーティーを取られて追放されて、何も思わねぇフニャチンくんなのかって聞いたんだよ!!」
何故かキレるムノー。
少し考え込んたモーヴは口を開く。
「あのな、若いからってお前みたいな自制の効かないリーダーだと今後C級の仕事請け負う際に命が幾らあっても足りないぜ?むしろ追放はありがてぇ話よ」
「な、なんだとぉ?」
「そもそも新しいメンバーも性的目的だろ?じゃあ娼館に行けって話。俺らは冒険者だぜ?目的が違うだろうがムノー」
「そうだそうだ!」
「言ってやれモーヴ!」
「女侍らせてズリーんだよ!」
「ぐにに…言わせておけば…」
剣を抜くムノー。
「ギルド内での私闘は禁止です!」
「うるせぇ受付嬢!俺様はムノー、かの大英雄ワキヤックを超える真の大英雄だぞ!その俺をコケにしやがって、あの世で俺に詫び続けろーーーモーヴ!!!!」
大ぶりで切りつけてきたムノー。
隙だらけだったのでじっくり【魔装】した手刀の水平切りで―――
キンッ―――からんからん
手刀で剣を切ったモーヴ。
一瞬しーんとなった所でワッと盛り上がるギルド。
「イカスぜモーヴ!」
「ヒューヒュー!」
「スカッとしたぜ!」
拍手に対して一礼して立ち去ろうとした瞬間、ふと口にしたモーヴ。
「ただ、アゲポヨ姉御と以降、一緒に冒険できないのが唯一の名残だぜ」
と言い残して立ち去ろうとするモーヴ。
だがこの一言で完全に乙女心に火がついたアゲポヨはガッと消沈中のムノーの胸ぐらを掴んで言い放つ。
「なげぇ間世話なったけどアーシもこのパーティー抜ける!」
「は?はぁ!?待てよ!お前とはまだヤッて―――じゃなくて、お前が抜けたら戦力がまずいだろうが!寝言は寝てから言えよ―――」
「寝言はテメーだろボケッ」
「やーはんっ!!」
またしても金玉蹴り上げるアゲポヨ。
パーティのシンボルである剛剣が切られてしまって。挙げ句自分の股にぶら下がる剛剣も蹴られ、最早立ち上がる気力もないムノー。
この流れてセーソ向かって壁にドンッ!
あわあわするセーソに言い放つ。
「アンタの事ずうっとムノーより嫌いだったよ。モーヴに表ではいい顔して、あいつとヤッてる時思いっ切り罵倒してるお前が…」
「ね、ねぇ?私達仲の良い友だちでしょ?一緒に冒険しようよ?ムノーのそそり立つおっきくて立派な剛剣で…ね?」
「寝言は寝てから言えこのアバズレがぁーーー!!」
「ひゃだぶ!」
アゲポヨのガチビンタがセーソを捕らえた。
唖然とする新メンバーには目もくれずモーヴの元に走り出した。
「おまたせ!コレで私も一緒に冒険できるよね?」
「おう!こっちから頭下げるくらいだぜ!これからよろしく頼むぜアゲポヨ姉御―――」
「アゲ…でいいよ。親しい人はみんなそう呼ぶから(ってボッチだったから家族ぐらいしか居ないけど…)」
「じゃ、アゲ姉御だな。改めてよろしく。」
「うん」
太陽のように柔らかで輝かしい笑顔に若干どきりとしてしまうモーヴ。
後ろではミーハー達が「ヒューヒュー」「キスしちゃえ」などと
「までぇ!このまま、逃がしゃしねーよ!【剛腕】!うおおお!!」
そこらへんから拝借したロングソードをスキル【剛腕】でバフをかけがむしゃらに突っ込んでくる。
「もうっしつこい!」
いい雰囲気を壊されてウンザリのアゲポヨ。
「ギルド内での私闘は―――ってギルドの外じゃん。まぁいっか」
などと受付嬢の声がうっすら聞こえつつ、モーヴは紙一重でロングソードを
「すっげ!」
「完全に見切られてんぜ!」
「あいつ…本当にモーヴ?」
冴えない、地味、頼りないの3拍子揃った日の当たらない存在、それがモーヴ。
だが目の前にいるモーヴはまるで別人。
冒険者から一目置かれる。
「おっらぁ!!」
稲妻のような鋭い上段蹴りを、まるでお手本の綺麗な起動で首元に蹴り込む。
とたん脳が振動してムノーがぐったり倒れ込んだ。
更にモーヴは受付嬢に先日もらった金貨20枚の袋を投げて言う。
「騒がせたな、迷惑料だ。取っといてくれ」
「「「うぉおおおお!!ヒューヒュー!!」」」
「ヤバ!マジ痺れる…ま、まってぇ!」
鳴り止まぬ賛辞の歓声の中で、憎悪を向ける女が一人、
「あんなのモーヴじゃない…私の事、助けてくれなかったのくせに……」
――――――――――――
「やめ…やめてぇ!」
「ぐへへへ!すぐに気持ちよくしてやるからよぉ!」
痛い痛い痛い痛い!
大事なものをなくした喪失感と、ムノーへの怒りと、パーティーとして明日からどうにかパーティーをやっていかなければいけないという重圧で気持ち悪くて宿に還れず木陰で泣いたあの日。
ムノーとアゲポヨとパーティーを組んで一ヶ月ほどだっただろう。
あの日のことは一生忘れられない。
大事な話があると言って無理やり初めてをムノーに奪われたあの日。
私はもう一つ大事なものを失う。
「ど、どうしたのセーソ?」
夜の木陰に現れたのは幼馴染のモーヴ。
頼りなくてドジだけど優しい彼。
きっと私は彼が初めての相手になると思っていたのに…。
罪悪感と後ろめたさと安堵と…ごちゃごちゃの感情を笑顔で押し込めていつもと変わらないように彼と接する。
心配をかけさせないように…
「セーソ本当に大丈夫?無理してない?」
やっぱり、解っちゃうんだ。
でも嬉しい。
この優しさに泣いてしまいそう。
「ねぇ、モーヴ?パーティーを辞めて、また二人で冒険しない?私、ムノーって人、怖いよ」
震える声で訴える。
きっとモーヴは私の事を聞いてくれる。
大切な幼馴染だもの!
「心配しなくても大丈夫だよセーソ!」
「え、……何が?」
「ムノーって奴が君に酷いことしようとしたら、僕が守ってあげるから!それに二人に戻ったら今みたいに稼げ―――」
途中から何を言っているのかよく聞こえなかった。
ただ私の…心の中にあった大事な思い出や大事にしていたものが砕けてスゥーっと無くなっていくのが解った。
心を埋めるために好きでもない男に抱かれ媚びへつらう。
すると不思議なことに何もかも忘れられた。
もうこのままでいい、もう何も考えたくない。
そう、思っていたに…今更……
―――――――――
ギルドでの一件が終わり、宿に戻って互いの私室の荷物をまとめているモーヴとアゲポヨ。
コンコン、とモーヴの私室のドアを叩く音がしたのでアゲ姉御と思って開けてやると、
そこに居たのはきわどい格好をしたセーソの姿であった。
「あのねモーヴ。ちょっと話がしたくて…」
上目遣いでモーヴにおねだりのセーソ。
しかし現在のモーヴからしてみれば15歳の小娘が背伸びして大人の真似事をしているに過ぎないのでムノーが好みそうな服装は逆に萎えるのだ。
「んだよ、用があるならさっさと言ってくれ」
「……あのさぁ、あのパーティーを続けたいって言ったの、モーヴだよね?」
「(え、そうなの?)だが、追放されちまったからな。んじゃそういうことで」
ドアを閉めようとしたらズッと足を忍び込ませ、そのまま鬼神の形相で部屋に入り込んできた。
ガチャリと閉めると突然服を脱ぎだすセーソ。
先程の鬼神の表情はどこへやら、下着だけになるとうっとりとした表情でモーヴを見つめる。
しかしモーヴ、服を脱いでいる間に荷物の整理に戻っていた。
「も、モーヴ!?あのね…本当はモーヴの事が好きなの…もう、汚れちゃったけど…私のこと、好きにしても…いいよ♡」
「うーす」
「えっと、好きにしてもいいよ?」
「うーす」
「ご、強情な態度でもほんとはヤりたいんでしょ?男って女の子のことそういう風にしか見ないもんね!?」
「確かに」
「ねぇ、しようよ?」
ねっとり背中から抱きつきながら、成長途中のおっぱいをあてがうセーソ。
しかしモーヴのモーヴは一切反応していない。
「あのなぁ…何をそんなに焦ってるんだお前さん?」
「な、なに?」
「はぁ、自分のことも解ってねぇのか。俺はそんなガキを相手にできるような童貞じゃねぇのよ。男を漁りたいなら他を当たりな!」
よっこいしょとまとめた荷物を背負いモーヴが部屋を後にしようとした時だった、いきなりセーソにグーで殴られるモーヴ。
「な、なに?」
「ふざけんなー!!」
がむしゃらに殴る蹴るセーソ。
どこか嬉しそうなモーヴ。
「人の気も知らないで!パーティーを続けたいって言うからあんな奴に抱かれてやったのに!私の守るって言ったくせに!返せ!私の失ったもの全部返せ!!」
「(こいつ、なかなか筋がいいじゃない!)ありがとうございます!ありがとうございます!」
「ありがとうございますぅ!!こっの!馬鹿にしやがってーーー!!」
モーヴの部屋から異様な騒音がするので駆けつけるアゲポヨ。
「ワキヤック様!何かありま―――え?」
「「あ?」」
下着姿でモーヴを殴る蹴るしているセーソの現場を見たアゲポヨ。
数秒硬直したがすぐさま大声を出す!
「何やってのーアンタ達ィ!?」
「ちっ―――絶対許さないからモーヴ!」
先程の脱いだ服をすぐさま回収し、下着のまま窓から飛び降りる斥候らしい身軽さを発揮するセーソ。
青痣を幾つか作り、腕を組んで大の字に寝ているモーヴ。
なぜか満足そうな顔をしていた。
「本当に…何があったんですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます