第2話 モーヴ IN THA ワキヤック
「正直すまんかった。俺の本当名はワキヤック・カマセー。モーヴに取り憑いた…ワキヤックです」
「ふーん(プイッ)」
「(そっぽ向かれたし、まぁ仲間に他の野郎が取り憑いたわけだからいい気にならんわな。ま、追放されてソロで冒険も悪かないし、なんとかなるか)」
などとモーヴ(仮)は思っていたのだが、アゲポヨの内心は全く別だった。
「(やっべぇ!?マジか?本物!?あの、憧れの、ワキヤック様!?あーでもでも、荷物背負ったまま目を離すとスクワットと反復横跳び始めるし、休憩中に意味もなくダンジョンの壁殴りだすし、魔法も使えるし…ヤッバ!これ多分本物じゃん…どうしよ…心の準備が……)」
この反応の理由は彼女の過去に答えがある。
――――――――――――
北の辺境のケバギャル男爵家のアゲポヨ・ゲバギャル男爵令嬢。
もっとも令嬢と言えるほど裕福な家庭ではなかった。
両親が教会に入り浸り搾取されていたからである。
疑問を口にすると暴力を受け問いただされる毎日。
アゲポヨは独自の感性のまま肌を黒く焼き奇抜なメイクをするようになる。
両親に反抗的な態度を取っていたせいか両親はアゲポヨをいないものと扱うようになっていった。
しかし唐突に変化が訪れる。
東の辺境にある大教会が教会最大の武力組織『マタニティ』ごと壊された事により、両親が正常に戻ったのだ。
これによって領地が黒字化、領民への納税も減り、なによりアゲポヨに優しくなっていった。
アゲポヨも奇抜なメイクをやめ、ただの褐色美少女に落ち着いた。
しかし、ワキヤックという10歳の少年が『マタニティ』を壊滅させたことを知り、彼もいずれ通うという王都の魔導学園への入学を親に頭を下げてまで学費を出してもらった。
2年後、ワキヤックは入学してきた。
しかし彼の周りには魔導の天才サチウスと東の辺境の令嬢オリヴィア。
そして次代の輝石の騎士であるエレナとミリーナという絶世の美少女のオンパレードに近づくことさえできなかった。
ただ遠目でみた彼は独特のキマった髪型に精悍な目つき、そして男らしいムチムチの筋肉がアゲポヨのもろタイプの見た目であった。
「(マジヤバ!噂より超いい男じゃん!あー彼ピにしてぇ…)」
そんな理想とは裏腹に、自分は魔導の成績は中の下。
あの絶世美少女軍団の中に入ったとして霞むだけだし……。
くよくよしていると上空から水を落ちてきた。
【ウォーターボール】による同級生からの嫌がらせだ。
「あらごめんあそばせ?」
「ぷぷぷ、いつも一人でいるから気づきませんでしたわ?」
「ちょっとかわいいってだけでイライラしますの?」
とチョーシやってるこいつらは子爵だの伯爵だのの、要はアーシより偉い令嬢。
下手に手を出せば退学、しかもアーシのほうが…学園がこんな場所だって知ってたら入学してなかったしぃ!
「さぁ今日も大人しく魔法の練習台になってくださいませ〜」
もうマジ無理!やっちゃおうかな?
「やっちゃえよ」
「やっちゃおっか…って―――」
「「「えええ!!」」」
そこには噂のモヒカン大男(12歳170cm)のあの男が居た。
「あーやだやだ、王権が代わったってのにまーだこんな古くせぇことしてやがる…」
いじめの女たちに侮蔑の目を向けて、ちゃっかりアゲポヨの前に割って入るワキヤック。
「(嘘、マジ無理、半端ない、尊い)」
目がハートになっているアゲポヨに変わって【ウォーターボール】をいじめ令嬢達にぶつけるワキヤック。
「こ、こんな事をして許されると―――」
「アル(現国王)にこの程度じゃもみ消されるだろうな」
「ぐぬぬ」
「これで勝ったと思うなよ!」
と逃げ足早いいじめ令嬢達に、なぜかこの時アゲポヨは魔法を放ってしまう。
「【ファイアーボール】!」
「「「あっぎゃあああ!!」」」
「おいおい?流石に私闘で魔法使ったらヤバいぜ?」
「いいのよもう。だってやり返すのって誰かの力を借りるものじゃないでしょ?アーシずっとこうしたかったのよ」
ニコッとワキヤックに笑ってみせる。
本当は自分のせいでワキヤックに刑罰が向かないにさせるためなのだが。
ソレを察したのかワキヤックは
「先輩、あんたいい女だよ」
「ふえ?」
不意に顔を真赤にしてしまうアゲポヨ。
「俺はワキヤック・カマセー。なにか困ったことになったら頼ってくれ。力づくでなんとかする」
その真剣な眼差しに、「しゅきぃ」と呟くことしかできなくなったアゲポヨ。
そして夢のような時間は終わり、あっさり退学になってしまう。
勿論ワキヤック様が「取り消してやるぞ!」と声をかけてくれたのだが、学園に呆れていたしいい機会だった。
何よりこのままではワキヤック様の隣に立つことすらできないと自分の不甲斐なさを感じていた。
冒険者にでもなって実践を積んでいつかワキヤック様とパーティーでも…
「じゃあ、私が立派な冒険者の魔道士になったら、パーティーでも組んでくれる?」
「いいぜ」と即答のワキヤックにすぐさま顔をふせるアゲポヨ。
嬉しすぎて鼻血が出ていた。
こうして冒険者になったのだが、ムノーをを拠点にしていたギルドのマスターに紹介され、セーソとモーヴと組み、『無双の剛剣』が誕生し……
――――――――――――
「しっかし、まさかこんな早くパーティーを組むとは驚いたぜ。って言ってもアゲポヨ姉御はなんの事だか覚えてないだろうがな!」
「〜〜〜〜//////(あああああああああ!覚えているっつうの〜好きぃ!!鮮明に!くっそ〜これで確定しちゃったじゃん!ワキヤック様じゃん!あぁ〜どんな顔して明日から会えばいいのよ?…でもあのモーヴの見た目だし…でも、発言や男らしさがワキヤック様だったわ!はえ〜ん……)」
アゲポヨが挙動不審になっていると後方からセーソとムノーが駆けつける。
「お花摘みが遅いと思ったら―――これってまさかオークキング?」
「ど、どうしたんだこんな雑魚ダンジョンで?どうして倒してんだ?まさか―――」
「アゲポヨ姉御がやりました」
「「えっ!?スッゴ!!」」
「ちょま!ワキヤ―――」
「まぁ考えてみればこんな無能にオークキングなんて勝てる道理がねぇもんな!くくく、これでC級、冒険者として箔が付くぜ〜」
ニタニタするムノー。
「や〜んどうしよ〜。オークキングのお金が入ったらもっと綺麗になっちゃう〜」
夢心地のセーソ。
「ほんじゃ、オークキング解体してまーす」
とモーヴ。
「わ、私も手伝うわ?」
よそよそしいアゲポヨ。
それぞれの思惑が交差しながらも、とりあえずオークキングを換金するため地上に戻ることにする一行。
―――デブゲッチョギルド―――
「ほ、本物!!少々おまちください―――」
B級魔獣オークキングの登場に湧くギルド、天狗になるムノー。
受付嬢から渡された金貨は2000枚(日本円で200万相当)。
分け前はアゲポヨが金貨900枚、セーソとムノーが540枚、モーヴが20枚。
アゲポヨがムノーの股間を思いっ切り蹴り上げる。
「うごおおおお!?」
「きゃああ!!リーダー!?」
「うらやまー!」
「ふざっけんじゃないわよ!!なんでモーヴの分け前がこんな少ないのよ!大体モーヴが…」
「うわーい、20金貨ももらえたぞぅ。うれしーなぁアゲポヨ姉御のおかげだぁ!アゲポヨ姉御のおかげだぁ(チラッ)!」
「あ、う、あうあー。ったく、ポーターのモーヴが居なかったらこの金額は無かったのよ?分け前の額が違うんじゃないの?(大体、全長3m分の巨体を息も乱さず運び切ったモーヴに何も思わないの節すぎね?)」
「ちっ…じゃあ俺とセーソの分を減らして100枚、これ以上は譲歩しねぇぞ!」
「も〜モーヴにやるなんてサイアク〜」
「お、露骨になってきたじゃん(この女にモーヴは惚れてたらしい?相当な強者だな)」
「―――解った、それでいいわ。行こうモーヴ」
「うっす姉御」
「あら!やっぱりそういう男がタイプなんじゃないですか〜アゲポヨさん?」
セーソがいつもみたいにちょっとアゲポヨをからかうつもりで揚げ足を取ると、アゲポヨはまっすぐセーソを見つめてはっきり答える。
「アンタが馬鹿にしてる男、アーシさいっこうに大好きだし超タイプだから。アンタもう近づかないでね?」
その場に居た全員が絶句。
「おいおい、そんなこと言われたらオレっち恥ずかち〜」
モーヴは空気を読んでおちゃらけて見せたのだが、アゲポヨがモーヴに壁ドンをしつつおでこが当たるほど顔を近づけて
「これからも〜っと恥ずかしくしてあげるから、四露死苦♡」「んぁはい!」
そう言うと赤面して踵を返し、その場を立ち去るアゲポヨ。
情熱的な態度に、年甲斐もなくときめくモーヴ。
「やっべ、俺って押しに弱いんだよ〜」
まんざらでも無さそうな赤面モーヴを見つつ、唖然と見つめ合うムノーとセーソ。
そして宿の私室に戻ったアゲポヨは布団に顔をのめりこんで―――
「ああああああ!!何いってんよアーシぃいいい!!馬鹿!馬鹿!あああああああん(泣き)!」
足をバタバタさせながら布団の中に叫び続けるのだった。
―――3日後、デブゲッチョギルドにて―――
C級昇級、大金。
勢いに乗る話題の中心の『無双の剛剣』。
そこに新しい仲間が入ると唐突にリーダーのムノーに話を聞いたアゲポヨとモーヴ。
「はじめましてわたくしはヒーラーのパイオッツよ♡」
色絵ムンムンのシスター。
胸がデケェ。
「はじめましてポーターのシーリです。あの…よろしくです」
引っ込み思案で尻がでかい…?
あれ?
「モーヴ・ビィエスエス。今日でお前はクビ、追放だ!ガーハッハッハ!!」
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