第48話 真実とワキヤック

魔神との決戦から1ヶ月、アルベルトが国王に即位し悪徳貴族を根こそぎ殲滅している今日この頃。

ワキヤックは今チキン領に来ていた。


「お、来たがんす?」


「おっすガンちゃん」


パシンと粗めのタッチをすると、二人してチキン家の屋敷に踏み入れる。

客室にはイバリン、アーノルド、ヘンドリック。

更に男主人公のキーリと女主人公のメアリスと魔王バルバロッサに娘のタイタニスもいる。

反対側には悪魔3柱、カルダモン・ディアブロ・デイビアもいる。

更に何故か今一番忙しいはずのアルベルト王が執事姿で現れた。


「よく集まってくれたがんす。改めて……前世が小山雁助っていうそこのワキヤックと同郷で、転生したらガランスサタンっていう魔神でこのダンジョンを創った本人で、女神パーマディーテから密命を託され2度目の転生にてイバリン父上の息子となりましたガンス・チキンです」


「「「……」」」


唖然。


「まぁそうなるがんすね」


「おーい、おばさんのお菓子ある?メイドさーん、」


「まぁ、こいつはいつも通りがんすね〜母上、お菓子〜」


「は〜い」


「……さて、どこから話すがんすか……」




――――――――――――



始まりは末期がん。

二十歳という若さで死んで、パーマディーテ様に出会う。


「小山雁助、貴方は末期がんで死んでしまいました…ですが貴方には別の世界で生きる権利を与えましょう。更に転生特典として【賢者石ダンジョンコア】を自由にする権利を与えましょう……?ノーリアクション?私のやり方合ってる?またどやされるんだけど!?」


「は、はぁ?」


当時は現代のように?まぁオイラはよくわからんが異世界物がまだそこまで流行っていなかったので転生特典とかよく解らなかった時代。

なのに異世界転生のテンプレなどをパーマディーテさんが聞いていたのは、未来を見通す予知の力を持ったクロノスというじょうしから聞いたらしい。

今後、疑似ゲーム世界を作り上げ地球から被検体をいくらか拉致し、賢者の石…及び【ダンジョンコア】の未知なる元素エネルギー【魔力】の解析と、その力使って新たなる神々の繁栄をもたらそうという大きな計画を神々をパーマさんから聞かされていた。

「ゲーム世界なら拉致とか気付かねぇだろ人間などという猿どもはハーッハッハッハ!」などと高笑う最高神。

ちなみにここで言っとくと、上位の神々はホウオウ王国の中央貴族並に腐ってるがんす。

そんなクソヤバ上司から無茶振りをされ続けるパーマさんと酒を交えて話し合った時にこの話をよく聞いた。


「ガンちゃんよぉ、やってらんれぇのよぉわたしゃ。なーにが「新たなる高次元の存在へ」よ。ふざっけんじゃないわよ!私が『アフロディーテ』様のクローンだからってよぉ!好き放題言いやがってよぉ!はぁっ!?異世界転生!?地球侵略、知らねぇよ!!糞オーディン!!」


最近何かと地球のサブカルにはまっている宇宙の覇王の最高神。

地球を狙って何かと裏で動いていると知らされた。

その前段階の実験場がこのダンジョンである。

などと酒の勢いで話して大丈夫か、などと思いつつ時間が流れていく。


最初の100年はゲームみたいで面白かった。

RPGみたいな生物をドンドン生み出していく。

人間、エルフ、獣人、亜人、魔族。

さらにエネミーの魔獣の数々。

それを統治する四神と呼ばれる特別強力な魔獣。

自然、地形、中世ヨーロッパのような建物、ドンドン【賢者石】を使って想像していった。


しかし100年以上たった頃、オイラの精神はおかしくなっていった。

生物を生み出す愉悦感は無くなり、誰とも対等ではない環境。

100年も経つとやる気も薄れて、焦燥感のような感情と唐突な怒りに苛まれる日々。

そんな精神状態の中「がんす」と口癖を使い始めるそんな中、昔を懐かしみ悪魔三体を想像した。

この三体は特別で【賢者石】のリンク権限を与えた。

これが気に入らない四神が後にオイラを裏切ることなど考えもせずに。

それからはこの地に生きる者たちを見守りながらズルズルと何百年か経過したある日、


「コヤマくん…話があるの」


何百年も見守り慈しんだ大地を、上位神達が考えたゲームの内容にしろと言われたと言う内容。

まだオイラがこのダンジョンを創り始めた頃に聞かされていた内容だったために、来るべき時が来たと大きくため息をついた。


「私は反対です!主様の創られたこの美しい世界を今更―――」


ディアブロの一言がオイラの背中を押した。

そこからそれなりに仲の良かったパーマさんと戦う事にした。

数百年育てた世界をむざむざ明け渡したくないほど愛着があったんだね。

神々の嫌がらせとして勇者として召喚らちされた同郷の人たちを当てられたり、魔族を中心とした人型魔獣に女神信仰を植え付けたり、終いには四神を懐柔したりと踏んだり蹴ったりだった。

結果は…ご存知の通り負けちゃいましたよ。


その後は上位神の目をかいくぐり、オイラの魂を隠し封印するパーマさんに最近になって転生させられたんだ。

封印されてる間の記憶はないけど、封印から解放され今のガンスに転生する際に、鈴木健太(キーリ)、鈴木由佳(メアリス)兄弟が神の工作員によって火事でこちらに転生されてるからフォローを頼まれていたことと、この世界を【賢者石】の権限を奪って創り変えた事に関しての謝罪、さらにパーマさん直々に、この世界をゲームのシナリオから解放してくれと言われたよ。

この密命を受けて今に至る…がんす。




――――――――――――


「ちなみに地球の1年とこっちの100年は同じ時の流れがんす。だからオイラが死んでからの10年はこっちだと1000年になるするがんすよ」


「「「……」」」


ガランスサタンが魔神ではなく創造神であること。

女神の使命を受けて今目の前にいること。

そもそもこの星には魔獣しか居ないこと…。

すんごいスケールの話で誰も彼も困惑しているなかモヒカンが―――


「オイ!じゃあ俺はゲームみたいな世界に転生して冒険もしてねぇのか!?」


「は?」


この話の流れで空気を読まない男、ワキヤック。


「あぁドラ◯エか」

「鎌瀬、お前ドラ◯エ好きだな」


魔王親子がジト目でワキヤックを見る。


「うおおお!冒険するぞ冒険するぞ!」


「ワキヤック様、冒険者登録は12歳からっすよ?」


すっかり冒険モードのワキヤックは「うおおお!」と叫びながらどっかに行ってしまった。


「あ、あの馬鹿は放っておいて本題に入るがんす」


「え?今までの話、本題じゃないんですか?」


場違い感を出しているキーリが細々と声を上げてガンスに尋ねる。


「本題はここからがんす。つまり、神々を今後相手にしていくことになるとパーマさんと話し合った結果がんす」


「神々…とな?ふむ、ちょっとついていけぬな?」


ついていけないと顔でも言っているアーノルドを半ば無視してガンスは話す。


「地球が目をつけられている限り、特にオイラや鈴木さん達には関係のある話になってくるがんす。奴らは『スキルシステム』によって、スキルとともに根源魔力と呼ばれるこのダンジョンの生き物の寿命や魂に値するものを吸引して力を自動で蓄えてるがんす」


「え?じゃあ私達が普段使ってるスキルはその神々ってのに寿命を搾取されてるってわけ?…こわ」


「その通りがんす鈴木由佳さんことメアリスさん。さすが女主人公…でいいがんすね?オイラ『四神の扉』ってゲームやったことなくて…よかったら後で【エクスペリエンス】って魔法を使わせてほしいがんすよ」


「え、それって?」


「そこの魔王様の【ゲンブ】と同じ効果の魔法がんす」


「え?プライベートまで見られちゃうんでしょう?それはちょっと…」


「まぁキーリくんに頼むとして「おい!」さて、今後オイラや君たち転生者は神々と戦えるようにならないと地球を乗っ取られるがんす。たしか地球にダンジョンを発生させて、スキルを発生させて…想像つきにくいと思うけどそういう侵略をするつもりらしいってパーマさんから聞いたがんす」


「「(あ、現代にダンジョンが発生するパターンの異世界物だ)」」


キーリとメアリスが「あっ」と顔を合わせる。


「オイラ達は厳密にいうと人間では無いから宇宙空間でも温度の問題を解決できれば宇宙空間でも生存できる―――そこでね」


ゾワッ


ガンスから放たれる冷徹で強力な魔力に、実の父親イバリンは恐れを抱く。


「勇者キーリ、勇者メアリス。運が悪かったと思って諦めて、会心流黒帯3段のオイラの指導を受けるがんす」


「え、マジっすか!ん、小山って!?あの会心流創設者小山 大善だいぜんの一人息子で鎌瀬選手のライバルだってネットで書かれてた天才空手家の小山雁助!!」


「えー、私空手とかはちょっと……」


「別に空手じゃなくてもいいがんすがスキルを使わなくてもいいぐらい強くなってもらわないといけないがんす!ディアブロ!デイビア!」


「「ハッ!」」


「とりあえず、2人にタイマンで敵うぐらいには強くなってもらうがんす」


「んっんー、魔神様…アタシはどうするんー」


「え?カレーでも作ってくれがんす」


「んー、んん…この対応!数百年ぶりにゾクゾクするわよパパ♡「(うへぇ、こいつ苦手がんす。なんで創った当時のオイラ…)」」


るんるんスキップで厨房に行くインド人。


「お前、これからどうするんだ?」


イバリンが不安げにガンスに尋ねる。


「とにかくこの二人を鍛えに鍛えに鍛えるがんす。……父上がぼくちんをこの家から追い出したいのなら―――」


「『女神の使徒』を追い出せるか!お前が良ければチキン家を利用しろ!」


「父上…恩に着るがんす〜」


「「今後、我々もチキン家の尖兵となりましょう」」


悪魔2柱イバリンに頭を垂れる。


「う、うむ。」


「これは、更なる魔道具の研究が期待できそうだなチキン卿?」


「はっ、尽力いたしますアーノルド様…」


ドタドタドタという音の後にアルベルトが客室に戻る。


「はぁ、ワキヤック様にどっか行っちゃいましたよ。とにかく今後神々と戦うつもりならもう国境だの姿が違うだの言ってわだかまりだなんだってやってられないですね〜。まぁ僕の方でもできるだけ協力しますよ!面白くなってきたー!」


【魔装】してダッシュで王都に戻るアルベルト。


「あたしら魔王軍もできるだけ手伝ってやるよオカッパ」


「同意だ」


「ありがとうがんすバルバロッサ王、タイタニス姫」


「へへへ、俺達も神に楯突くぜぇ!」

「応ッ兄者!お祭りだな」


屋根裏に隠れていた獣王兄弟もサムズアップ。


「うふふ〜アタシも『モヒカンズ』の一員として協力しちゃうわよ〜」


窓の外に居たボンテージエルフババアもサムズアップ。

不意にコレでこの星にする全勢力に話が及ぶであろうとガンス。


「やっぱり天才だったがんすよ…鎌瀬犬彦。いんや、ワキヤック・カマセー」


ラスボスの魔神を懐柔し、世界の重鎮を仲間に引い入れ主人公たちとも知り合い、ラスダンのボス達悪魔も倒し、ストーリーもクソも全てをぶち壊した、まさに『(ストーリーも)破滅のモヒカン』。


「更に四神とも『魔境』でやりあっていると女神様から報告があった時はびっくりしたがんすよ…さすがオイラのライバルと言ったところ。だが心するがんす、犬彦がワキヤックになったのは異例中の異例。管理者であるパーマさんが把握できない転生ってのは、こちらが把握できていない第三勢力があるってことがんすよ?」


ガンスは遠くの宇宙そらを見つめる。






―――宇宙の心臓『アスガルズ』―――


「ゲハハハ!そうかそうか、あの鎌瀬とかいう猿、めちゃくちゃにしてくれたか?」


無邪気な妖艶なホストのような男がゲラゲラ笑う。


「今後はどうなさるおつもりで様?」


「そう急くなアフロディーテ。もちろん全てをあの老人オーディンから奪うのさ!地位も権威も地球もその他の惑星も―――そして【賢者の石】も!―――さぁもうすぐだ!次のラグナロクこそ貴様の最後だオーディン!!ガーハッハッハ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る