第47話 魔神VSワキヤック

「「【魔装】」」


大気が湾曲し、空間が震え、磁場嵐が起きる。

まさに神々の戦いといった魔力のぶつかり合いが拳を交えずに始まっている。




「「はえー」」


何やらよく解らない方向に話が進み、ヘレネスとアルベルトはその辺に座って観戦している。

ヘレネスの隣でカルダモンが回復魔法で腕を繋げている。

上級回復魔法【エクストラヒール】は法王や枢機卿クラスの神官でなければ使えないのだが普通に使っているカルダモン。


「そう言えば、カルダモン様って悪魔だったんです?」


アルベルトの何気ない質問。


「そうだわよんっんー。魔神様転生直後から既に接触していたのよね。それでワキヤック様の監視を頼まれていたのよ。まさか、魔神様の前世のお知り合いだったとは…んー、思わなかったね」


「そーなんですか、人類の滅亡とかはいいんです?悪魔はそういう物だって王都では伝承はがあって?」


「んっんー。結局元は全て魔神様が賢者石ダンジョンコアで創られた魔物だからね。同族で何してんのって、んー、話」


「……ちょっと、意味わかんないですけど…さらっと聞いちゃいけないこと聞いた気がしますよ?」


「人間型にも心臓部に魔石があったり、死んだら死体が残らず3日もすると魔導霧まどうむになって蒸発したりするの…んー、疑問に思わなかった?そもそも魔法って――――――」


「今までそういうものだと思ってました…あー聞こえなーい聞こえなーい」


「ガハハハ!腕を直してくれたなら何者でもええ!感謝するぞカルダモン殿!おいバルバロイ!ワシも絶対カマセー領に住むからな?こんな面白いもん立て続けに起きやがってー!」


「(気絶から復帰)兄者もそう思うか。ま、口利きしといてやらぁ」


「流石我が兄弟!ガハハハハ!」


獣王兄弟の会話を聞いてアルベルトは


「うーん…もう王国首都はカマセー領でいいんじゃないか?」


などとぼやきながら空間を捻じ曲げて戦う、最早神の戦いというような激戦を遠目に見つめ直す。




――――――――――――




「「おっらぁ!!」」


積み重ねてきた経験と誇りを乗せて、腕力のままに思い切り腕を振り抜く。


「「ぼふぁ!!」」


肉に当たると空間ごと震え、余波だけで大地がえぐれていく。

そんなノーガードの殴り合いを数百と繰り返した所で次の段階に入る。


「へっ、正直驚いたぜ。オカッパがこんな強いとはな」


「悪役面モヒカンのイッヌに言われたくはないがんす」


「そっか?まぁいい。これはモレクさんへのとっておきだったが…出し惜しみは無しだな―――【魔装・蜥蜴とかげ】!!」


ワキヤックが【魔装蜥蜴】と言い放った瞬間、強烈な魔力の衣が消え、薄皮一枚羽織るような薄ーい魔力帯がワキヤックの体を巡っている。

よく見ると黄金のルーンが全身に駆け巡って、背面にはリザードマンのような立派な尻尾のような魔力帯が発現している。

ワキヤックのオリジナル【魔装蜥蜴】。


「まーたなんか変なことしてるがんすね?じゃあオイラも本気、出しますか―――【魔神】」


この星、この宇宙に佇むダンジョンで最強の漆黒魔力帯を纏う魔装【魔神】。

かつて四神と女神相手に互角で戦いあったときの力をワキヤックにぶつける。


「漆黒とは、全ての色を混ざり合わせ塗りつぶした混沌の象徴…などと魔神らしいこと言っておくがんす―――〈会心流・変速正拳突き〉」


ガンスの放った実戦用正拳突き。

コレを尻尾魔力帯でいなす。


「なっ―――」


「どうだよ?尻尾の〈スワイ〉はよ」


ジャッジと組手を重ねる内に、尻尾という新たなる可能性に気付いたワキヤック。

それをどうにか発現したのがこの【魔装蜥蜴】。

通常の【魔装】は全力前回の魔力を纏うのに対して、この【魔装蜥蜴】はに使うのがコンセプト。

相手が反応できない柔らかいタッチによりいなす〈スワイ〉を尻尾の魔力帯で実現する。

もちろん尻尾なので流した後、両腕は空く。


「〈変速扇突き〉」


ワキヤック渾身の実戦用扇突き。

だが―――


「魔力帯が厚すぎて響かねぇ―――」


【魔神】の密度が厚すぎて攻撃が通らない。


「オラァ!!」


ガンスは返しの中段蹴ミトルキックをワキヤックの横っ腹に叩きつける―――


「なっ―――」


刹那、エアバックの様に膨れ上がるワキヤックの【魔装蜥蜴】の魔力帯。


「(全身に張り巡らされたルーンは無意識で反応するためのバイパスがんすね)」


この一瞬のやり取りを経て、互いに攻め手を変える。


「「〈通し〉」」


接触時に力の反発を抑え、衝撃を体内に流し込む〈通し〉に互いにシフトチェンジ。


「ぐっえ!!」

「ぐわぁ!?(あの尻尾〈通し〉までできるのか)」


互いに打撃を交わす中、


「しゃらくせぇ、‘’ヨセンゲツハニココテッモヲンゲンケノンミガメ

リカイノョ―――”」


「〈リンク・キャンセル〉」


先程ディアブロの魔法を止めたガンスの権限スキル。


「原初魔法における『賢者石ダンジョンコア』とのリンクを切ってやったがんす。そもそも魔神オイラに魔法は無駄がんす」


「パルさぁ―――はぁん!?くっそ姑息な…だが、無駄と言われたら何が何でもぶっ壊したく成るのが漢だぜ!はぁあああああ【エクスプロード】着弾―――【拳銃拳】」


いつの間にか習得している上級火魔法【エクスプロード】を極限まで球体に抑え込み、野球ボール並になった所でワキヤックの【拳銃拳】。


「【ダイタルウェーブ】着弾―――【拳銃拳】」


「!!こんのぉ!?」


「イッヌに出来る事がオイラにできない道理はないがんすーーー!!」


同じ威力での衝突だが、属性相性が悪くワキヤックが押し負ける。


「のわー!!」


この衝突によって、ワキヤック後方の山が一つ消し飛んだ。


「「「はえー」」」


遠くで観戦しているギャラリーが呆然として「あいつ死んだな」と思っている最中、さも当たり前のようにガンスの前に立ちふさがるワキヤック。


「痛かったがんす?それはすまなかったがんすよ〜。あんなに煽っておいてこんなに弱いなんて思わなかったがんすー。ねぇ、今どんな気持ち?ねぇ、今どんな気持ち〜(にちゃあ)」


「ふぅぅぅう、認めよう。お前は強い。俺が知ってる雁助じゃない…」


「当然だよ…イッヌにとってオイラは数十年前かもしれないけど、オイラは末期がんで死んでから何百年も生きてるがんす!魔神なんて呼ばれて!誰も対等に接してくれなくて……どれだけ寂しかったと思う!?気が何度も触れて、抑えられなくて、会心流の道場が恋しくて……そしたらディアブロやデイビア、それにスパイスカレー(カルダモン)を創る事だってするだろっ―――」


「いや、共感できんだろ」


「くそっ!!!そういうやつだよお前は!だから友達なんだろうがさ!」


そう言いながらも連打をワキヤックに打ち込むが…当たらない?


「〈変速正拳突き〉」


「〈スワイ〉」―――スカッ


「〈猪蹴り(踏み込みと地面の反作用を利用した会心流の特殊な前蹴り)〉」


「〈スワイ〉」―――スカッ


「ぬわぁあああああ!!完全に見切られたがんすーーー!!」


「おぅ、何か慣れてきた」


「くぅぅうう、本当に、イッヌは本当に天才がんす……しかし、今オイラは魔神。大いに利用させてギャフンと言わせるがんす!!【賢者石・リンク】」


次第に虹色に輝き出すガンス。

そして―――


「“虚空より来たれり原初の怒り 我の権限を持ってここに発現せよ”―――【パルサー】」


モレクやワキヤックが放つ【パルサー】より巨大な、まるで星をぶつけるが如き紫電の稲妻。

それを大気の震えと次元のゆらぎとともに凝縮していくガンス。


「【パルサー】―――着弾。…ミサキちゃんの事、謝るならここでやめてもいいがんすよ?」


「ほざけ」


「じゃあ死んでも知〜らない―――螺旋ルーン展開!【拳銃拳・パルサー】!!」


ワキヤック最大級の必殺技を繰り出すガンス。

空間は魔力の濁流に耐えきれず湾曲し、磁場嵐は嵐の前の静けさと言わんばかりに一瞬晴れ渡る。

次第に空間が元に戻っていき、その結果巨大過ぎるガンスの放った紫電のエネルギーが光速に迫る速さでワキヤックに放たれる。


ここでワキヤックは三戦立ち。

尻尾がタコの吸盤のようにワキヤック前方に広がる。


「?」


これにはガンスも困惑。

何がしたいか見当がつかない。

ワキヤック【魔装蜥蜴】の尻尾に紫電エネルギーが触れた瞬間、


「【マジックドレイン】」


「あああああああ!!」


これにはガンスも「しまった」の表情。

以前、モレクとの戦闘で【パルサー】を喰らって生き残ったのも、魔法を喰らって自分が唱えられるのも実はこの【マジックドレイン】というスキルのおかげてあると以前バルバロッサ魔王様から聞いたワキヤック。


紫電を吸引しつくし、紫の雷鳴を宿すワキヤックの魔装蜥蜴。

蓄電するモヒカン。

普段の自分の構え。

渾身の力で蹴り込む地面。

直後に襲う音速の圧も跳ね除け加速し続ける世界の中でただオカッパメガネ向けて突進する。

その推進力のままにまるで投げ込むかのように放つ渾身の貫手。

そこには魔装・紫電・推進力・腕力・遠心力・自重の全てが乗っている。


「〈エキゾチック・パルサー】」


先程自分の放った魔力更に凝縮した紫電手刀がガンスの腹部を貫く。


「ぐ……わ……」


膝をつくガンス。


「「魔神様!!」」

「パパ!!」


悪魔3体がガンスに駆け寄ったが、それを静止するガンス。


「まだ、これからがんす……【エクストラヒール】」


穴の空いた腹部を即座に回復したガンス。

しかしガクガクと足が震えている。

ダメージの蓄積が隠しきれない。

それを見てワキヤックはため息を一つ。

【魔装蜥蜴】を解く。


「なっ、なんのつもりだイッヌ!勝負はついたって言いたいのか!!」


ワキヤックは大きくため息をついてから上を向いて話し始める。


「……らしく無いこと言うからよく聞けよ雁助。お前が死んで寂しかったのは俺の方だよ」


「――――――へ????」


あまりにも想像打にしない事を言われ、口を半開きにし【魔神】の魔装を解いてしまったガンス。


「お前がさ、ガンで亡くなって…俺は生まれて初めて泣いたよ。小山雁助って奴はさ、俺にとって生まれて初めての友達で、本当の家族より家族みたいな親しいやつで、かけがえのない存在なんだよ」


「お、お?」


何故かこそばゆくなるガンスは、目をパチクリさせながらキョロキョロしだす。


「同門で美人で同級生の美咲みさきはさ、俺も別に付き合っても悪かねぇってぐらいには好感はあったさ。でもお前が好きなこと知ってたから断ったんだよ。俺にとって雁助は美咲より大事だったからな」


「へぇええ!?だって、「あんなガサツな女、俺タイプじゃねぇし」って言ってたじゃん…そういうことなの?」


「お前が…どんな形であれ生きててくれたことが俺は単純に嬉しい。何百年生きてたとか寂しいとか知るかよ!生きててくれて…ありがとうガンちゃん」


モヒカンでいかついいつもの顔が、年齢相応の10才児の顔でボロボロ泣いていてた。

それを見てオカッパメガネもボロボロ泣いている。


「イッヌ!!」


肩をガシっと引き寄せると笑いながら泣き合う二人。

それを見た周りの全員がこの時、戦いの終わりを悟ったのだという。

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