第46話 最強の悪魔ディアブロ

「〈猪突〉」


下段が構えから踏み込みと同時にやや突き上げる[会心流・棒術]の突き。


「ほほう?」


指一本でディアブロに止められた。

【魔装】した状態渾身の突きを…。


「フンッ!」


大気を切り裂く鋭い前蹴りがアルベルトの顔面を捕らえる。


「―――ツあっ!?はぁ、はぁ、冗談じゃない……」


先程後ろ前蹴りによって首から先を失ったばかりだと言うのに、すぐさま顔面が四散した。

そして炎となって原型を戻す。


「その様子だともってあと一回というところか。運がなかったな少年」


不敵な笑いを浮かべるが、けして目は笑っていない。

けして油断をしていない。

圧倒的な実力差があったとしても。


「(勝ち筋はない、と見て間違いない。でもこんな所で死ぬわけにはいかない。僕の野望、あの腐れ果てた王国をピザ一色にするまでは……)」


敗色濃厚のアルベルトの前に2つの銀光がディアブロにほとばしる。


「兄者!」

「応ッ!」


〈白光〉による爪撃


「ちぇいらぁッ!!」


しかし、ディアブロの三戦立ち中段廻し受けによりいなされる。


「なにィ↑(歓喜)!!」

「こりゃあ坊っちゃんの!」


「ふんぬッ!」


諸手打ちを片手づつビャッコ兄弟に当てる。


「「ごわっ!」」


地面を一度バウンドしてから互いバクテンしてスルッと着地する。


「おうおう!なんじゃあの強い悪魔は!血が騒ぐのぉ〜」


ビャッコ兄弟の兄ヘレネスは満面の笑顔でアルベルトに問いかける。


「おう、アル坊。苦戦してるのぉ」


「いやぁ助かります、バルバロイさん、ヘレネス様」


へたりと尻もちをつくアルベルトは大きくため息をついた。


「む、その白銀の狼男…貴様らも王族ではないか?ふむ、力に溺れた腑抜けしかいないと思ったが……認識を改めよう。―――【性質魔装】」


すると漆黒の魔力を纏うディアブロ。


「【闇】か…?」


「【闇】だ。そして【闇】は―――〈無足之法むそくのほう〉」


一歩、ニ歩と静かに歩いたと思えば、急にビャッコ兄弟の前に現れる。


「「―――!!」」


早く動くわけでもなく、ただ歩行術〈無足之法〉。

緩やかなる清流の動きの後に、濁流が如き強烈な剛拳を放つ!


「〈変速正拳突き〉」


「ぐおむッ」

「がっは!重い―――ぬ!」


「重さとは威力なのだ。魔神様から直々に教えて頂いた戦術、『カイシンリュー』を冥土の土産にするとよい」


そしてディアブロが見せた独得の構え、。これは…


「ワキヤック様の構え!?」「やっぱり坊っちゃんじゃねぇか!」


「ワキヤック…モレクを退けナムチを倒したという噂の男か。ククク、より興味が湧いた。貴様らを血祭りに上げてその男に会いに行くとしよう」


またしても〈無足之法〉による歩法ですんなりと間合いを捕られてしまうビャッコ兄弟。


「バルバロイ!挟み撃ちにするぞ!」


「応ッ!兄者!」


「「【ビャッコ】展開、〈白光〉!!」」


空間を跳躍しつつ、うなじを狙うヘレネス。


パシッ


渾身の貫手を手首を持たれキャッチされると、

そのまま手を上に払い、脇腹ががら空きになった所で殺人フックを3発連打。


「ゴボッ!―――やるねうっ!!」


血を吐いた瞬間目つきが変わるヘレネス。

より強固な魔力を纏い、見境なく爪を振り回す。

その射線上の空間がズレる。


「ほう、これは白虎の【ディメンション】だな?その程度ならば我にも可能だ」


数メートル離れた位置から渾身の手刀を打ち下ろすディアブロ。

避けるまでもなく、間合いは完全に空いていたのだが―――


キィィン


手刀の射線上の空間がズレたため、ヘレネスの右腕が吹き飛ぶ!


「所詮スキルなぞ強力な魔法をいかにも自分の力と錯覚させるだけのお遊びだ」


「ノワァッ!?」


「兄者ッ!!貴様ァ゙ーーー!!ガルルルル!!」


白い閃光となったバルバロイの連撃・猛攻。

しかし全てを紙一重で外され、強烈なカウンターフックを顔面に喰らって地面に叩きつけられたバルバロイ。

亜空間移動の最中、さも当然の如く強烈な打撃を喰らったバルバロイはクレーターのように地面を陥没したのち、意識が飛んだ。


「そんな…『モヒカンズ』最強のバルバロイ様が……」


「彼奴も相当な強者であるのだろう?ただ我には敵わぬというだけ、さぁ覚悟を決め―――」



ズドォォォオオオオン!!



「な、なんだ!?この馬鹿げた魔力のぶつかり合いは?一つは魔神様?もう一つは―――モヒカン?『破滅のモヒカン』!?いや、奴がワキヤックか!!」


王都の方向で大気を震わせる魔力のぶつかり合いが発生している。

その余波は西軍のこちらまで伝わってくるほどで、この時初めてディアブロの焦りを見せる。


「ふむ、思った以上の怪物だ。遊びを終わり終わらせよう。魔神様の元へ行かねば―――〈賢者石ダンジョンコアリンク〉」


するとディアブロは虹色に輝き出す。

星は震え、空は泣く。


「なんだこれ?」


余りにも格が違うという光景につい呟いたアルベルト。


「こりゃあ、助からんな(笑)」


ヘレネスもお手上げ。

周囲全てがディアブロが放つ虹色の魔力で埋め尽くされ、立ち上がることも出来ないほどの魔力圧がその場の全員に降り注がれる。

ソレだけで十分な攻撃になりえるのだが、ここからディアブロは原初魔法を唱える。


「“我、ディアブロの権限をもって賢者石に命ずる。全ての命あるものを奪い尽くし、創造主 小山雁助の糧とせよ”―――【ディストラクション】」


虹の魔力が白くなった瞬間、空も大地も関係なく全てが消滅した―――はずだった。

そこに思いも寄らない人物がディアブロの魔法をキャンセルした。


「―――は?なぜ?馬鹿な?この世界は『賢者石ダンジョンコア』が全てだ!女神でも神どもでもなく魔神様が―――」


「だから、オイラが出できたがんすよディアブロ」


メガネ・オカッパ・いかにもモブの成り立ち。

その姿を見てアルベルトは口を鯉のようにクパクパしている。

なかなかその人物の名前が出てこなかったからだ。


「……ガンス君?え…?え?」


「あの悪魔オイラに任せてほしいがんすよ」


ガンス・チキン 10歳。

チキン家の長男にして魔法がそこそこ使える温厚な少年…のはず?


「ガンス…お前…?」


「父上、申し訳ないがんす。終わったら全部話すがんす」


そう言うとディアブロの前に立ちふさがるガンス。

ディアブロはあたふたしながら、


「ばっ馬鹿な!?だってあちらに……だが、この懐かしさ、それに『賢者石ダンジョンコア』とのリンクは切れている。こんな事女神にも出来ない……もう御方しか説明がつかない」


「女神様によってもう一度この地に舞い戻った元魔神、ガランスサタンこと小山雁助でもあるガンス・チキンがんすよ。300年ぶりがんすかぁディアブロ?」


「「「!!??」」」


その場でその会話を聞いた全員が困惑した。

この冴えないオカッパメガネが魔神?

しかし既にディアブロは頭を垂れている。


「この時を…長らくお待ちしておりました……」


「おまたせがんす。……ただ、」


先程までのほほんとしていたガンスの表情が一変、険しい顔立ちに変わる。


「『賢者石ダンジョンコア』の権限をリンクするためにどれほどの命を奪ったがんす?皆『賢者石』から生まれた兄弟姉妹家族なんだから仲良くしろって言わなかったがんす?」


「それは…―――許せなかったのです!女神は自分を主とした信仰を、裏切り者の四神は―――」


「お前、パーマさんがどういう状況で何をしてるかしってるがんすか?」


「……は?どういう……」


「ふぅ、あの方は神々の中でも中間管理職みたいなもので、上司の偉い神様とかの命令を聞かないいけない微妙な立場がんす。わざわざ転生特典に『賢者石』を頂いて、数百年も自由気ままにこの星を広げて、返却の際に惜しくなって我儘をしたのはオイラの方がんす。言い聞かせたはずだったがんすけど?」


ガンスの睨みにたじろぐディアブロ。


「しかし、この星も生物も全てをお創りになられたのはガランス様でございましょう?」


「え、ガンスが?」


「ええい!御身の前で口を挟むか蛆虫め―――」


「口を挟まないでほしいのはお前がんすディアブロ…」


「…は」


「アルベルト様、その辺の諸々は後で話すがんす、もう少し待ってもらっていいがんすか?」


「よ、よろしいがんす…?」


ふぅ、と大きなため息をついてガンスは語りだす。


「オイラがなぜガンスに転生したのか、パーマさんと何があったのか、改めて話―――」


ドゴォォォン!!


[おぉぉぉぉ、すぅぅぅぅん↓]


ドッザァァアアアアン!! 


そこへガランスサタンらしき巨人がこちらに吹っ飛んできた。


「ぺっ、もっと骨のある奴かと思えばでかいだけだったぜ…ん、ガンスどうした?ってそこにいる悪魔―――強えな!!」


スッとディアブロと同じ構えをして、これにはディアブロも驚く。


「ガランス様、これはどういう…」


更にそこへ


「んっっんーーーー!!魔神様!ご無事ですか!!」


「くっそーむかつくーーー!魔神パパが転生してるなら先に言えってのよこのクソホモ野郎――――――パパ、パパぁ!!」


インド人とドスケベサキュバスもその場に合流。

デイビアはガンスに向かって涙を浮かべながら手を振る。


「デイビア…!カルダモン!?」


インド人を見て驚くディアブロ。

その姿をガン無視してワキヤックはガンスに問いかける。


「オイ、オイガンス。あちらのドスケベデイビア女王様がお前のことパパって呼んだぞ、一体どういう―――」


「ちょっと、モヒカン!パパになにする気よ!!このデイビア・ミサキが許さな―――」


「ミサキ!?え?ミサキっておまっ!?それってどういう―――」


「デイビア、ちょっと黙って欲しいがんす―――」


「私はねこちらの(ガンスに向かって)魔神様に創って頂いたオリジナルデーモンのデイビア・ミサキよ」


「えぇ!?あっ…(察し)。それ魔神?ガンスぅ〜やっぱり雁助じゃねぇのかよ?それにしても……拗らせすぎやしませんか?久しぶり会ってなんだけども…」


「おい犬彦!それに触れたら、ぶち殺すぞっていつも言ってたよな?」


「はっ、ディアブロ・イヌヒコーです魔神様!」


「ちょ…怖い怖い…なんて名前つけてんよ?同級生と初恋相手の名前なんて、ねぇ?重すぎへん?しかもパパ呼びさせるとか…すげぇなお前!」


「「初恋相手!?」」


「むっぎゃああああああ!!」


この瞬間、ガンスから先程のディアブロの様な虹色の魔力がほとばしる。


「ぜってぇ許さねぇぞイッヌ!俺の思い出に…アアアアン!? BSS(僕が先に好きだったのに)ぃ!!土足で、心に、踏み込んでからに―――!!」


「おっおっおっ?やるかやるか?お前の腕がどれだけ鈍ったか見てやるよ?」


「イッヌぅぅううう!?お前!お前の事を好きだったミサキちゃんに替わってぶん殴ってやるッッ!!おいディアブロ!あの肉塊(ガランスサタン本体)を立たせろ!本体に戻ってあのイカレモヒカンぶん殴ってやる!!」


「はっ―――はい!!」


もはや何百年続けてきたキャラ付けの「がんす」の語尾を忘れるほど怒り心頭のガンス。


「【賢者石・リンク】!”小山雁助の権限を持って魔神と同調せよ”」


虹の魔力とガンスの体が全て魔神であろう巨人に全て吸い込まれると、魔神の体が漆黒の霧になって凝縮されていく。

しばらくして霧が晴れると、先程の激怒オカッパメガネがさっきのフォルムそのままに漆黒の体になってワキヤックの前に現れた。


「いくぞイッヌ!」


「こいよガンちゃん!」


後世でお伽噺に成る『破壊のモヒカンと魔神』の戦いの始まりである。                                                                                                   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る