第44話 西軍VS悪魔

鏖殺おうさつだ」


身長190cm程の漆黒の肌をした青年の様な姿に、額に鋭く光る白銀の角。

白く長い髪に血のよう濃い紅眼をギラつかせ、憤怒に顔を歪める。

右隣には2mある漆黒の両手に短槍を持った虎獣人。

左隣には2mある漆黒の弓を持ったケンタウロス。

しかしどちらも通常の亜人には見られない漆黒の体と翼、そして額に一角。


「我はディアブロ様の右腕、『氷霊フェンリル』」

「我はディアブロ様の側近、『玄夢ナイトメア』」


「「魔神様の贄となれ!」」


王都に巨大な魔神らしき存在が立ち上がったと同時にアルベルト率いる西軍の上空に現れた3体の悪魔。

強大な魔力もさることながら猛者特有の風格をアルベルトは感じ取った。


「アルベルト様、即撤退を。殿はジャッジ様にお任せします」


「……うす、アル」


「それがよさそうだ!私は尻尾を巻いて逃げますよ―――」


「逃さん」


上空から落ちてきた最強の悪魔ディアブロ。

落下の慣性を利用したあびせ蹴りをアルベルトに放つ!


「―――!!」


直撃!


アルベルトの身体は四散。


「ちッ!四神の力か、まるでナムチの様な再生力だ」


ディアブロが舌打ちをした瞬間、アルベルトの肉塊は燃え、やがて炎は一つに纏まり、原型を取り戻した。

服も元に戻っている。


「アルベルト様―――くっ!?」

「―――!?」


「「邪魔はさせん!」」


アルベルトに割って入ろうとしたコウメとジャッジに先程の悪魔フェンリルとナイトメアが立ちふさがる。




アルベルトは肝を冷やし、棍を構える。


「今ので1/4も魔力を消費してしまいましたよ。容赦ありませんね―――」


「!?…ほう?王族とやらである貴様自ら戦おうと言うのか?王族とは四神の連中の力を得ただけで権威を振りかざすだけの蛆虫だと思っていたが……面白い!」


クツクツと笑うディアブロは、ボクシングのような構えを取る。


「格の違いを見せてやろう…」


「そう言って足元すくわれるのが世の常ですけどね〜」


アルベルトはおちゃらけて言うが、首筋には冷や汗。

ディアブロの一流の気迫に圧倒されていたのだ。




――――――――――――



「早く倒す。アルベルト、合流」


「はいっ頑張ります!」


アルベルトと切り離されたコウメとジャッジは世にも珍しい短槍の2槍使い、いわゆる二槍流とでも言うべきか?正面に虎獣人の悪魔。

後方にケンタウロスの悪魔が弓を引いている。


「来るぞ!」


そう一言声を張り上げたのは、後方に戻っていたアーノルド。

そのアーノルドの一言とともに悪魔2体は動き出した。


「【ディメンションアロー】」


馬獣人悪魔ナイトメアの放った矢は一瞬霞むと、次の瞬間矢が大量に発生し、様々な角度から襲いかかる。


「【パリィ】」


リザードマン自慢の尻尾をジャッジは矢に向かって一蹴。

すると矢は方向を変えジャッジの周囲から外れる。


キキュウゥゥン!!


弾かれた後も勢いのまま地面を貫通。

まともに喰らえば蜂の巣だったであろう。


二人の攻防の横でコウメとフェンリルも激しい接近戦をしている。


「〈インターセプション〉」


インターセプションとは、相手の動作途中で打撃による止めとカウンターを両立した戦術である。

148cmの小柄なコウメによるフェンリルの踏み込みの瞬間を狙った関節蹴りだったのだが―――


ズンッ


「―――なっ(完璧なタイミングだったのに!?)」


コウメの放った〈後の先〉による〈インターセプション〉、タイミングドンピシャから短槍を割り込まされた。

フェンリルはコウメの放たれた右足を短槍ですくい上げ、もう片方の短槍で3段突―――


「【アクセル】」


アーノルドの補助魔法【アクセル】により、コウメの身体速度・反射神経が上昇。

おかげでコウメの獣人としての身体能力により致命傷は避けることが出来たが、太ももや肩をかすめ血がぬるりと流れる。


コウメが自分の短槍を避けたことでフェンリルはニタリとほくそ笑む。


フェンリルは左の短槍を下段に、右を脇に抱え込むように構えつつ前のめりに体をかがめる。

まるで突進の前の猪のように


「【魔装】!」


【魔装】したフェンリルは音速を越えた速度でコウメに突進。


「【魔装】」


コウメも【魔装】を纏い、短槍の突きの握り手を狙い、避けながら回し蹴りで攻撃。


フェンリルは短槍を放し、手首を帰して回し蹴りをキャッチすると地面に叩きつける!


「い゛ぎゃあ!?」


地面の陥没と共にコウメの体が跳ね上がる。

そのまま腹部を短槍で突き刺そうとするフェンリルに


「【回転斬り】」


剣術スキルで短槍をはねのけるアーノルド。

アーノルドのスキル【八方美人】は補助魔法でも剣技でも人並みに以上達人以下で使いこなすことが出来る。


「何度もすいませんアーノルド様!」


「構わん!一応コレでも王国で名の知れた将軍の一人なのでな。面白モヒカン集団程では無いにしろ強力は惜しまぬ」


「はい!感謝します―――」


「グハハハハ!いいぞ、――“ヨセカツテイヲテベスニココ―――」


「噂の原初魔法!?させない―――」


強靭な足から成る兎獣人最大最速の


「〈音速蹴り〉」


ソニックブームを越えた際の重圧をも利用したコウメの必殺横蹴り。

だがフェンリルはそれを腹筋で受け止め、更に原初魔法を唱え続ける。


 「テッモヲンゲンケノンジマ ヨイカセノガウョヒルナカズシ”【氷河世界グレイシア】」


解き放たれた魔力のともに白銀の世界が開かれた。





「ギギィ!」


西軍の戦場の全て、比喩ではなくが白く凍てついた。

その中央から一匹のリザードマンが這い上がる。

その後ろにはアーノルド、コウメ、西軍の一部将軍、魔導兵器【ガランス】3機が無事であった。

しかしその他全ての兵士と騎士、魔導士たちが全て凍ってしまった。


「これほどか原初魔法…急いで倒さなければ3千近い西軍が低温で死んでしまうか…」


よろりとふらつくアーノルド。

それを支えるイバリンとヘンドリック。


「ヘンドリック殿、いや緑石の騎士殿!アーノルド閣下は私に任せて、あの悪魔を切ってくれ!」


「すまない、チキン卿!」


ヘンドリックは【緑石の加護】によって全身に風を纏い、空気抵抗無視の特攻をフェンリルに斬りかかる。


「魔法の解除は貴様の命だな!」


「そうだ輝石よ」


真空を纏った名剣エメラルドハーケン袈裟懸けを短槍一本で受け止める。

ヘンドリックが纏った風が短槍に触れた瞬間に凍っていく―――


「!?貴様も輝石の能力を―――」


「火を纏う、水を纏う、土を纏う、風を纏う。これは【性質魔装】である。輝石の騎士などと四神の力に頼った貴様らが我々本物の技術に敵うわけなかろう―――」


もう片方の短槍でヘンドリックを薙ぎ払う。

ヘンドリックの風の鎧を引き裂き、腹部の切り口が凍りついたせいで地獄の痛みでヘンドリックは意識が遠のく。


「ぐくっ……」


そのヘンドリックを担いで全力で逃げるコウメ。


「逃がすか!!」


「いえっ、これで終わりです!」


「―――!?」


フェンリルを狙う巨大な銃口が3つ、コウメの真後ろに備える【ガランス】が三機。


「【アクセル】」


絶妙なタイミングでアーノルドの補助魔法。

コウメが【ガランス】の射線上から外れると即座に放たれた。


「「撃てー!!」」


超高圧のエネルギー砲が3つ重なってフェンリルに割と至近距離で放たれたことによってフェンリルは避けられないと判断、


「【グレイシア】!」


一度展開すると、魔力続く限り魔法が発現する原初魔法。

超巨大な魔力を全方に凝縮し、氷壁を作り上げたフェンリル。

強大な魔力がぶつかり合い磁場嵐と大気の湾曲が起こる。

―――そして、


「―――馬鹿な!?」


氷壁を貫通した【ガランス砲】はフェンリルを蒸発させた。




白一色であった氷結世界だったが魔法の干渉が切れ、元の草原に戻った。

しかし、多くの兵や魔導士の顔色が青ざめている。


「やったでがんすーーー!!」


【ガランス】のルーンレンズを通して外の状況を確認したガンスの歓声も束の間、


「ぐわっ!?」「きゃっ!?」


一瞬の喜び後、コウメの足とアーノルドの肩を矢で撃ち抜かれる。

彼方からケンタウロスの悪魔、ナイトメアによる弓を受けてしまった。

しかも、


「ぐっ…回復魔法が受け付けない…」


中級回復水魔法【ハイヒール】を使うイバリンだがアーノルドの傷が回復しない。

そして二人とも上の空で反応がない。


「まさか、フェンリルを打ち破るとは…」


と言いつつも正確無比に矢を飛ばしてくる……

上空100mの上から矢が降り注ぐ。


「ぐわっ!?」「くそっ!?」


ヘンドリック、イバリンと立て続けに主戦力の腹部や太ももを撃ち抜く。


「ち、父上!?すぐに【ガランス】の中に入るがんす!!」


イバリンをすぐさま装甲の厚い魔導兵器【ガランス】の中へ一時避難させようとイバリンを引きずるガンス。


「あうー」


と言ってヨダレを垂らし、目の焦点が合わない。


「父上!大丈夫がんす?父上?」




「ふむ、しぶといアリめ……だが、我の矢を受けたものは悪夢に苛まれる。我が生きている限り永遠にだ。そしてこれから貴様もそうなる」


上空でナイトメアが独り言を囁くと、続けざまにガンスに狙いを定め矢を放とうとするが―――


「―――む!?なぜだ?なぜ指が離れん?」


【魔装】を練り上げた凶靭な矢が手から離れない。

意識とは別の生物としての根幹に関わるような腹の底にある魔石自体から伝わるに恐れを感じる。


「(あのオカッパ眼鏡の餓鬼に対して大悪魔ナイトメアが!?なぜ……!!)まさか!ディアブロ様がおっしゃっていた―――」


「ギャルルゥ!!」


何かに感づいたナイトメアはその一瞬の隙に背後を捕られる。

上空100mという場所にて。


「リザードマンだとぉ!?」


「〈歩行術・風踏〉」


歩行術・風踏かぜふみは、以前ワキヤックがスタンピートの時にダイブイーグルを切り落とす際に「いちいち跳ね上がるのめんどー」ということで開発した対空用歩行術。


足の裏に特殊なルーンを張り巡らせ、空気を反発させることにより、磁石のS極とS極を近づけたような現象が起きている。


しかし反発は踏み込んだ際に発生する一瞬のみなので足踏みをなくすと落下する。

ワキヤックから直々に教わった『モヒカンズ』リザードマン、ジャッジ・ディシプリン。


「グエッ!」


ジャッジの右フックによる打撃が上空100mでの戦いのゴングとなった。

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