第42話 辺境北軍VS悪魔

「なんだありゃあ?」


王都に立つ漆黒の巨人に最初に気づいたのは輝石の騎士ランメルト・トパーズ。


「ランメルト?アレは一体何なの?」


「シャーロット様、ありゃあもしかしなくても魔神ってやつなんじゃ?」


「まっさかー。馬鹿言ってないで、あの変なキマイラ倒しましょうか…【アースブラスト】」


上級地魔法【アースブラスト】とは星の引力を広範囲で放つ強力な魔法で、『バイオキマイラ』達は何の抵抗もできず吹き飛んでしまう。


「【黄石の加護】!オラオラオラ!」


【黄石の加護】によって、自分の体と剣がカッチカチになると、『バイオキマイラ』の強靭な表皮も難なく切り捨てた。

更に『バイオキマイラ』の爪撃もお構い無しにランメルトはガンガン前に出る。

最高の攻撃力と最高の防御力を誇る【黄石の加護】。身体や手にした物質を固くするというシンプルな能力だがそれゆえに強い。


しかし、そんなランメルトに唐突な衝撃が襲う。

『バイオキマイラ』さえ傷つけることの出来ない身体に未知の衝撃が走る!


「グハッ!!」


「ランメルト!?―――なによこの漆黒のゴリラ!?」


いつの間にか巨大なカラスの翼を背中に生やした3mの漆黒ゴリラがドラミングしていた。

ランメルトは地面の中へのめり込んだ。


「ウホウホウホ!グシオンがイチバーン!」


自分のことをグシオンと言ったゴリラがガッツポーズを決める。


「君めぇ〜、一人で突っ込んじゃだめぇ〜ってディアブロ様に言われてためぇ〜」


「ウホ!?ごめんよバフォメット…」


バフォメットと呼ばれたかわいらしい全長50cmくらいのお人形のような羊型の女の子。

傘をゴシックな傘をさしてちっちゃな背中の羽でふわふわ浮いている。


「めぇ?何かゴミムシが一杯で鬱陶しいめぇ〜。

ヨセンゲンケニココテッモヲンゲンケノンジマ  ヨンゲンコノミカルタウノンゼ―――【ディザスターレイ】〜」


「や、やべぇ…シャーロット!!」


「わかってる!!スキル【難攻不落】!【アースウォール】!!」


強固な地面から生えた土壁。

眼前上空に現れた謎の10m程の光玉に対して隔たりを創る。

そしてシャーロットのスキル【難攻不落】により【アースウォール】はより強固に仕上がる。

予想通り光玉から無数のレーザーが無差別に放たれた。


ズガガガガアガガガン!!



4000の軍隊は半壊、その隙間に先程のゴリラとキマイラ達が雪崩込んで来る。


「うほーーー!!」


「ぐえ〜!?これって絶対王都の連中じゃねぇだろ!シャーロット様、一回逃げよう!」


「そうね、戦況がよろしく無いわ!いいわ全軍退却―――」


「させないぞう?」


上空から新手の漆黒の二足歩行の象が降ってきた。

全長は4mほどの漆黒の巨体からシャーロットに向かって踏みつけ!

その間にランメルトが割って入る…が、

更にその間に銀光が2つ走った。


「いだぁあああああいぞう〜!!」


銀光は象の足を切断。

その瞬間バフォメットとグシオンの顔色が変わった。


そこには銀のたてがみをなびかせる狼男が二人。


「獣人!?もしかして―――あぁ、国境が近いからかしら、見たことある…」


「まさか?え?俺も見たことあるけど…本物!?」


「おう、そこの銀髪ドリル嬢。お前さんがノース辺境伯代理か?」


「はっ!病気の父に変わり指揮官を務めておりますシャーロット・ノースであります。ヘレネス閣下」


「は〜そんなかしこまんなくていいって。観光ついでだし!しかし悪魔に出会えるなんてラッキーじゃん!」


「ガハハハ!やはりモヒカン坊主に付き添うと退屈しねーなガハハハ!!」


「!?そちらの…モヒカンの方は以前ワキヤックと一緒にいたような…」


「おう、『モヒカンズ』のリーダーバルバロイ・ビャッコだ。この髭親父の弟さ、たしか黄石の坊主か?」


「王弟閣下ーーーおぼぼぼぼ!!」


「ちょっと泡吹いて!やめてよランメルト!私だって気絶したいわよーー!!」


「まぁ、後は俺らに任せてくれや嬢ちゃん。ほれ、アーノルドの書状じゃ!」


「あ、はい。拝見します…確認取れました……」


「それじゃ…殺っていか?へへへ、わくわくするなぁ!」


ニヤついた目で悪魔たちを見つめるビャッコ兄弟。


「こいつら…ムカつくめぇ〜」

「うほ〜(# ゚Д゚◁!!」

「いちち、痛かったぞぉう!!」


両方空間が震えるほどの魔力を放つ。


「「【ビャッコ】!!」」


【ビャッコ】。

四神白虎によって発現するユニークスキル。

その能力は……


パポン


空間が波打つと狼兄弟の姿は消える。

そして次の瞬間、悪魔たちの後ろに魔力の波紋から飛び出してきた。


「「死ねやぁーー!!」」


「いったいめぇー!!クソぉ、これが【ビャッコ】の〈空間跳躍〉!?」


空間の波紋と波紋をワープする〈空間跳躍〉。


「ダハハハハ!!こんな事もできるのぅ!〈空間切断〉」


そう言うと手刀を振り落とすヘレネスの手刀の軌道上にいた象の体が

そこには象の魔石もあって…


「ぱぉぉぉおおお〜ん―――」


「「ガジャースラ!!」」


空間を切断しずらす〈空間切断〉。

4mの巨体が一瞬で黒い霧になって蒸発した。


「やばいめぇ〜グシオン!」


「うほほん!しょうが無い、【フェロイティ】を使うウホ!」


「ほう、ゴリラの原初魔法か…バルバロイ!」


「あーあ、兄者の悪い癖だ。待ってりゃいいんだろ?」


原初魔法は〈詠唱〉によって高次元の存在とシンクロすることによって得られる魔法。

それ故に発言までのインターバルが長いのだが、ヘレネスはついつい珍しいスキルや魔法を視たがるクセがある。

そのせいで何度も死にかけたのだが、本能で生きるヘレネスは全く反省をしない。

だが、そんな兄貴を尊敬しているバルバロイは渋々従うのがいつもなのだ。


「ヨセイハシヲレハテッヲンゲンケノンジマ  ガンイノオウゾクゾノヲンエンシ―――【フェロイティ】」


すると20m程まで巨大化。

サイ◯人とかキング◯ングのようになった、グシオンは無差別に暴れだす。


[ギッシャアアアア!!!!]


北軍も『バイオキマイラ』も関係なく踏み潰し、殴り潰し、投げ潰す。

そんな中、狼兄弟はまるで少年の様に目を輝かせる。


「でっかいのぉ〜ほっほっほぉ〜い!」


「ロマンじゃのう、兄者!」


そう言うと銀色の光を放ち、次の瞬間二筋の光とかした。


「(空間と空間を移動している際に攻撃しようとすると、何故か銀色の光を放つ)」


「(それを我ら獣王に属する者たちは〈白光〉と呼んでいる!)」


スキル【白虎】による偶然の覚醒、〈白光びゃっこう〉。

空間を飛翔する身体は光と化し、光速にて敵を捕らえる。

その白い光は他次元の物質であり、触れた瞬間、物質は問答無用にエグリ取られる。


「「ホラホラホラ!もっと足掻けヤ゙足掻け!」」


地球を7周半するほどの速度へ到達しようという速度でグシオンを襲う!


ドラゴンなど足元にも及ばない強靭な表皮を持つグシオン。

しかし強度など意味を持たず、端から中心まで乱雑に削り取られていく。


[いげぇえええ!?や゛べでぇ゛〜!!]


そして魔石が心臓の位置で見え隠れする。

白光は方向を魔石に向かってほとばしる。




グシオンの魔石は大きな穴が二つ開く。



「うあぁ……そんな…めぇ〜」


蒸発する巨大なグシオンを見つめる悪魔バフォメット。

その刹那―――


「うがっ!?」


「俺を忘れてたな?寂しかったぜ〜」


横からザックリ剣で切り落とすランメルト。

胸部にある魔石をキチンと真っ二つにすると、バフォメットも黒い湯気のようなものになって消えた。


「私達の勝利よ!勝鬨をあげろー!!」


「「「うおおおおお!!」」」


シャーロットの声に、その場に居た北軍は全員雄叫びを上げる。


「ほー、噂に聞く輝石の騎士か!坊主中々やるではないか!どうだ獣王国に来ないか!」


「坊主!今から一戦どうだ!」


「か、勘弁してください…」


へなへなと膝をつくランメルトに、ビャッコ兄弟は豪快に笑う。


「しかし、〈白光〉になった儂らに敵う相手なぞそうはいまい」


「兄者、世界は広いぜ?あのイカしたモヒカン坊主は俺の〈白光〉をニ度目には見切ったぜ!」


「おお!あの西軍にいたイカしたモヒカンの小僧が!よし決めたぞ!さっさと息子に後を譲ってわしもカマセー領とやらで暮らすぞバルバロイ!」


「(えぇ、マジなの!?これ、なんとか国境の和平に使えないかしら?)」


獣人族の王族の話を不意に聞き耳を立てたシャーロットは、獣王国との今後に友好的な道筋を思考している。

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