第41話 辺境東軍VS悪魔 

東の戦場は領主マウンテンの活躍によりやや優勢である。


「キシャアアアアアア!!」


『バイオキメイラ』の鋭い爪がマウンテンを襲うと、


「〈スワイ〉」


「キシャ?」


やんわり、優しい母の腕の中の様にいなされると、


「〈ショウ〉」


「ゲブァ!!」


まるで10tトラックが時速140kmで突っ込んできたような衝撃が正確無比で『バイオキメイラ』の持つ胸部の急所に叩き込まれる。


魔獣の心臓部とも言われる魔石を撃ち抜かれピクリとも動かなくなる。

すると周りの『バイオキメイラ』も恐れおののき、変わりに王都の方から現れたレッドドラゴンとバイコーン(S級魔獣)がマウンテンに向かって突っ込んでくる。

レッドドラゴンの周辺を焦土にする【ファイアーブレス】によって火の津波がマウンテンを襲う。


「〈纏絲てんし〉」


【魔装】した状態のマウンテンがゆるりと両手で包み込むような動きをすると、【ファイアーブレス】はマウンテンの前で渦を巻き圧縮されていく。


「〈ショウ〉」


圧縮された【ファイアーブレス】を〈ショウ〉を【魔装】して叩き込むことで、圧縮火炎は勢いよくバイコーンの方に放たれる。


「ぎゃくぅぅぅうんッ!?」


3mの怪物馬バイコーンは圧縮火炎の50m級の大爆発を喰らうと、へたりと横に倒れた。

ファイアードラゴンはバツの悪そうな顔でバイコーンを見つめていた。

その間にファイアードラゴンの腹部に〈発勁〉を打ち付ける。


「さすがお父様。怪我をした人はこちらにお並びくださいー私の回復魔法で元気なってくださーい」


小さな体であっちにこっちに立ち回るヒーラーのオリヴィア。


「【青石の加護】で強化された水魔法を喰らえ!【タイダルウェーブ】!!」


サイラス・サファイヤが起こした砲範囲の津波。

その濁流は【バイオキマイラ】や王都から発生する魔獣たちを押し流す。

押し流したところに騎士達が一気に攻め込み、魔導師団による集団魔法で撃破していく。

最初20体ほど居た『バイオキマイラ』もようやく半分を仕留めただろう。

東軍全5000の部隊から1500という犠牲を払いながらも優勢を保っていた。




マウンテンはふと、周囲に違和感を感じ空を見た。

空間の魔力の震えとともに突如現れた上空の黒雲とともに漆黒の巨人が降臨する。


[オォォォォオオオオスゥゥゥウウウ!!!!]


その場の全てを震撼させる絶叫。

そしてこちらに向かってくる二体の漆黒の存在。

一体は牛の様な顔に角、2mほどある慎重にカラスのような巨大な翼を羽ばたかせている。

もう一体はヘビのような8つの顔に二足歩行の獰猛な熊のような体をとりつけたような風貌で背中にこれまたカラスのような翼が6枚もついている。

漆黒の体、漆黒の翼の異様な見た目で3mほどの全長の化物。

湾曲する魔力を纏い、優雅に宙に浮いている。


「さぁ降臨の一撃を皆様に差し上げましょう―――”ヨセンゲツハニココテッモヲンゲンケノンジマ

リカイノョシンゲリレタキリヨウクコ”―――【パルサー】」


星が降ってきたのか?

勘違いするほど巨大な雷鳴が地上に落とされる………






バチ゛チ゛チ゛チ゛チ゛ドォギギギィーーー!!!!






先程まであった地形は灰色一色のクレーターと化してしまった。

焦土の土の中からの中からひょっこり現れたのはマウンテン。

その背後には娘のオリヴィア、サイラス、ゴマ・サバヨームを始めとした各東の辺境の領主たちが集まっていた。


「辺境伯!?」


マウンテンは前のめりに倒れている。

〈スワイ〉で流しきれなかったようだ。

改めて目線で敵を追う青石の騎士サイラス。


「あれはまさか…悪魔?我がサファイア家の伝承にある悪魔!?」


「正解正解!」「ピンポンピンポン!」「青石発見!」「殺そ殺そ!」「殺せ殺せ!」「魔神様の障害!」「300年前の恨みを晴らせ!」「鏖殺おうさつ!鏖殺!」


頭が8つもあるヘビの悪魔は様々な表情でサイラスを煽る。


「くくく、どうですこの紫電のモレクの雷は―――やはりあのモヒカンがおかしかったのですよ(トラウマ)!」


焦土の匂いを嗅ぎ愉悦に顔を破顔させる牛顔の悪魔モレク。

以前の人間らしい姿ではないこちらが本来の悪魔モレクなのだろう。


「「「俺も続くぜ!【ファイアーブレス×8】!」」」


「「【ウォーターウォール】!」」


ゴマ、サファイア、サイラスによる中級魔法の【ウォーターウォール】による水の障壁を張るのだが、【ファイアーブレス×8】の勢いは留まる事はなく、水の障壁を貫通する。


「ま、不味いーーーくそぉ!」

「きゃああああ!」

「どわああああ!」


爆発。


すると、耳がキーンとなってよく聞こえないサイラス。

かろうじて意識があり、起き上がり周りを見る。

徐々に戻る聴覚と共に目線に入る景色は灰色の焦土が延々と広がっている。


「(全滅?3千以上の大部隊がたった一発の魔法で?…そんな…)」


視界の端に写ったすすコケた顔のサファイア。

サイラスは体を引きずってサファイアのところへ。

既に左足の足首から先は消し飛んでいた。


「(息はある…よかった)」


「「「よかった、よかったねぇ、すぐ死ぬけどねぇ?」」」


絶望の表情で振り向くサイラス。

首が8つある悪魔がヨダレを垂らしてサイラスを上から覗き込む。


「はじめまして」「僕は『畏敬のヤマタノ』」「魔神様の忠実な下僕」「魔神様の忠実な道具」「魔神様の生涯はすべて消し去る」「女神、四神、四神の王族、輝石の騎士の全てだ」「お前は輝石の騎士」「だからここで消す!」


8つの顔は既にブレスを放とうと口の中に魔力溜りができていた。

「ここまでか!」とサイラスが顔を伏せた―――その瞬間、




「パパ!あそこに前のめりの冴えない丸眼鏡の親父ーーあれがマウンテン辺境伯だ!【ゲンブ】で鎌瀬から見た!」




遠くの上空から少女のような声が聞こえた。

サイラスとヤマタノという悪魔も揃って上空を見つめると、褐色の大男がヤマタノの首二つを一緒に蹴り飛ばした!


「「ぐげぇええ!!」」「何者だ?」「ああ吹き飛ばされる!?「おのれぇえええ!」「ぶっ殺してやる!」「魔族!?」


人族と歴史上もっとも多く争う種族こそ魔族。

お互いに嫌悪の象徴であって救援なんて事はあり得ないと何度も瞬きをするが…明らかに敵意がない。

それどころか好意的に魔族に抱きかかえられたメガネイケメンのサイラスはドキリとしてしまうほど柔和な表情であった。


「うむ、よく生きていたな青年」


「あ…あなたは?」


「わしはバルバロッサ・ゲンブ。ここにアーノルド殿の書状もある。救援だ」


ゲンブとは四神の一柱、その名を継ぐとはつまりこの方は……


「陛下、ご助力痛み―――」


「よいよい、それより離れておけ。足は直しておいたが歩けるか?」


「え?ばっ―――」


すぐさま左足を見ると生身の自分の足が生えていた。

高位の回復魔法なのだろう。

顔色一つ変えずに唱えられるようなものでは無いはずだが…。

これが魔王。


「パパ、俺や精鋭1000人居るのも忘れてない?」


ややボーイッシュなゴスロリファッションの可愛らしい褐色の少女がバルバロッサの後ろで腕を組みながらイキがっていた。


「ほう、子守とは相変わらずですね〜。だから大臣に遅れをとるのだろう?」


「貴様とは2度目だな、紫電のモレク。随分と派手に暴れたものだ。貴様が大臣を煽ったのをわしは既に視ているぞ?」


「【ゲンブ】ですか?怖い怖い」


「こ、こいつ鎌瀬の体験で見たぞ!【パルサー】って原初魔法の使い手…じゃあそっちの八頭の変な生き物も…悪魔?ヤマタノオロチ?」


鎌瀬の体験をしたタイタニスは、日本の昔話にまつわる事も知っている。

故に疑問が湧く、今まで何とも思ってこなかった人の名前やこの畏敬のヤマタノに関しても日本の物が多すぎる。


「(どうなってんだよ。……今はそれどころじゃないか!)おいお前ら!パパとの距離を取りつつ、俺達は援護に徹するぞ!」


「「「ハッ!」」」


「何だ何だ!」「全員で来ないのか?」「雑魚雑魚!」「舐めてんのか!?」


「違う、わしの邪魔になるのが解っているのだタイタニスは…」


仁王立ちをする魔王は【魔装】を纏う。

静かで繊麗された魔力は、波打つ事もせず研ぎ澄まされ、底しれない魔力の濃度を纏っている。


「相変わらず…嫌な奴だ。貴様が二十歳の時に殺っていれば……、くそっあのモヒカンにしろバルバロッサにしろ、どうして私ばかりが失態を犯すのだ!」


「くひひ!」「癇癪かんしゃく癇癪!」「だっさーい」「おこ?おこなの?」「弱いモレク」「尻拭いが辛ーい」「魔神様に顔向けできる?」「ざまぁねぇぜ」


「黙れ!新参の悪魔風情が…今度こそ汚名を注ぎ、顕現された魔神様に私の存在を証明するのだ―――ヨセンゲツハニココテッモヲンゲンケノンジマリカイノョシン―――」


「させるか!」


モレクの横っ腹にミトルキックがもろに突き刺さる。

堪らずモレクは腹を抱えよろける。


「貴様の原初魔法のインターバルは11秒弱。以前モヒカンの男が視ていたのを知らんのか?それを待ってやるほどわしは甘くないぞ?」


「ぐげぇええ!くそぉ…」


「「「後ろががら空きだバーカ!」」」


8つの顔から鋭い牙で鋭い襲いかかるヤマタノ。

バルバロッサは後ろに目があるかのように動きを見切り、紙一重で避けつつ首元に貫手を8つ差し込む。


「「「ぐええ!?」」」


「【危険感知】【回避】【カウンター】」


【危険感知】生き物や死霊などの敵意を感知し、空間で位置を把握できるスキル。

【回避】攻撃に対して最善の行動をするスキル。

【カウンター】その攻撃に対して攻撃を返す。


【ゲンブ】は追体験だけでなく、そのものが持っているスキルさえも会得することが出来る。


「なんだこいつ?」「強い!」「この世界で最も強いとか言われてた奴!」「許さない!」「もうどうなっても知らない!」「こいつ嫌い!」「死んじゃえ死んじゃえ!」


「む、この魔力波動は?原初魔法だな!やらせると思うな―――」


「貴方こそ、私を忘れていませんか?」


横から異空間から取り出した大斧を振り落とすモレク。

当然のように【魔装】を纏っており、バルバロッサは真剣白刃取りで捕らえるも抑え込まれる。


「くっ、この怪力…」


「魔法だけが悪魔だと思わないことです!ヤマタノ!!」


「俺がいることを忘れてんじゃねぇ!」


タイタニスが【魔装】を纏いあびせ蹴りをヤマタノに浴びせようとするがヤマタノの4つの頭に妨害される。


「ばーかばーか!」「僕らは8つ」「4つでも原初魔法を顕現できるし!」「ヤマタノ様に死角はないんだよ!」




「「セラタモヲイサンテニココテッモヲンゲンケノンジマ

ヨウホマノョシンゲルスツタウトニリンシ―――【メテオストライク】」」




上空より超巨大な隕石が落ちてくる。

その大きさは大陸…と言っても過言ではない。

その場の誰もが押しつぶされると絶望したが、タイタニスが何やら唱え始める。


「’ヨセンゲツハニココテッモヲンゲンケノンミガメ

リカイノョシンゲリレタキリヨウクコ”――」


「ば―――馬鹿ーーー!!??私のだぞ!私の原初魔法だぞ!ふざけるな!!―――モヒカン?あのモヒカンから【ゲンブ】模倣したな!舐めやがってー!!」


「お主こそ、わしを忘れてはおらんか?」


「ぐごっ(右ストレート)!?くっっそぉおおお!ばかにしやがってぇぇええええ!!」


「【パルサー】」


タイタニスの頭上に巨大な魔法陣が現れ莫大な紫電の雷が隕石向けて放たれる。

魔法を放った瞬間、魔力を使い切ったのかタイタニスは鼻血を流し前のめりで倒れた。



ズシャアアアアアアアン!!   フシュン




「「「そ、相殺!?」」」


「残念だったな。後ろががら空きで貴様が馬鹿だったな―――」


「「「あぐっ―――ま、魔石!?僕の魔石―――」」」


何故か魔獣と同様に魔石が核の役割を果たしていた。

そしていまヤマタノの胴体の奥にある魔石はバルバロッサの貫手にて砕かれた。


「「「ぎにげぇええええ!!??」」」


じゅうううという黒い湯気とともに塵一つ残さず蒸発してしまった。


「ぐぬうぅ、分が悪い。どんなに汚泥をすすろうと最後に勝てば」


「逃がしませんよ?」


背後にいたのは冴えない中年、眼鏡の割れたマウンテン。

【魔装】を纏いガッチリ腕を掴まれていたモレク。


「あー、せっかく魔神様にあえたのになぁ…」


「〈発勁・ショウ〉」


捻動・連動・振動・骨。

すべてを瞬時に駆動し、掌底が当たる瞬間に力みによる硬直。

モレクが最後に視たマウンテンの体は鬼のように膨張し、すぐさま波の様な衝撃が自分の体を駆け巡り爆発四散した。


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