第39話 辺境大連合VS王国軍③

ウエスト領陣営が王都へ進軍中、聖女とガーリック公爵派総数2千人がアーノルドと合流した


「うーっす!待っちゃった感じっすかアーノルド様ぁ〜ってかパスタうめぇ!」


「すいません、聖女のくせに行儀が悪くて…って本当に美味いっすねパスタ。―――へぇ、カルボナーラって言うんですか?」


停戦を持ちかけるはずの聖女とガーリック公爵両陣営はがっつり手を結び、これから攻め落とす王都攻略への戦略を詰めている。

そんな中、ガーリック派と共に忍んで来たシブメン宰相、ウィリアム・リード侯爵がまるで田舎から都会に出てきたばかりのように浮かれていた!


「おいおい、アレは魔王様ではないか?おい、あっちには獣王様もいるぞ!勝ったなこりゃあ!!」


「あ!処刑の時のいい感じのおっさんじゃないっすか?」


「おっ!?き、君は『破滅のモヒカン』様ではないか!今王都ではカルト的な人気だぞ!そうか…君も参加するのか!勝ったな!風呂でも借りてこよう!アーノルド!ちょっといいか〜」


これから王都に攻め込むと思うとウッキウキな宰相様の言葉にひっかかったハゲヤック。


「『破滅のモヒカン』?何のことだワキヤック。そもそもなぜ宰相様と知り合いなのだ?」


「えっと、まずイースト領に居た時に王国騎士団に捕まって―――」


「やっぱり後で聞こう」


ハゲヤックがワキヤック問題を後回しにした所で、迫る王都へのアーノルド・ウエストによる口実が全軍に響き渡る。


「さて諸君、先陣は我らウエスト領というのが辺境伯全員の決まりでな!先陣を切ろうという者はいるかな?」


「はい!アーノルド様、イバリンの息子のガンスでがんす。【ガランス】の威力を見てもらいたいガがんす!!」


元気よく手を上げたのは冴えない丸メガネ坊っちゃんヘアーのガンスくん。


「おお!いいではないか!!あの【ハルマゲドン】に変わる移動式の新兵器!イバリンはそれでいいか?」


「ええ!お任せください!【ハルマゲドン】ほどではありませんが、王都を焦土にしてみせます!」


イバリンのかなりの自信にアーノルドが頷いた。


「では【ガランス】の一撃を初撃としてそこから全軍突撃とする。長引けば長引くほど兵糧が怪しくなるからな短期決戦ということを忘れないでほしい。それと…私も【ガランス】に搭乗してもいいか?このフォルム…男心そそられるんだよな〜」


「いいですとも!!」


メガネをチャキンと持ち上げたイバリンは満面の笑みでアーノルドに装置の説明をし始める。


王都への道中は平和そのもので、待ち伏せが無いどころか罠の類すら一切ない。

飛行魔法で先行した魔王やミシュラムの話によると王都では指揮をとるものが無く大混乱、こちらにさく人員が居ないんだとか。


「よっしゃ…どんどんすすめーーーん?」


ワキヤックが【ガランス】より早く先頭を走っていると、上空に無数の殺気を第六感でキャッチする。

見上げると3メートルでリザードマンの顔にエルフの耳、ドラゴンの腕と尻尾、ホークマンの翼、ライオンの足を持つ…


「ってポチのやつと同じ奴らじゃん!?いっぱい飛んでら〜」


『バイオキメイラ』が集団で空を飛んでこちらに向かってきている。

ちなみにポチというのはワキヤックのイースト領でボコボコにされた挙げ句、ペットに成り果てた悲しき『バイオキマイラ』の事で、現在カマセー領で畑を耕している。


「「キシャアアアアアア!!」」


無数の化物が上空より降り注ぐ。


〚うおーい、ざっと20〜30はいるぞ!とりあえず【ガランス】撃っちゃえば?〛(無線)


〚そうでがんす!―――射角79°に訂正、てぇー!!〛


凄まじい衝撃共に撃った方にも衝撃が伝わり車体は震えた。

約横幅100mの激太エネルギー砲がキメイラ達に命中。

5体が消し炭すら残らず上空で蒸発した。

しかし、上陸した残りのキメイラ達に騎士や兵たちがどんどん殺られていく。

しかし、銀の光が一瞬光ったと思うと『バイオキマイラ』は一瞬で細切れになってしまう。


「兄者!俺のほうが多かったな!」


「くぅ〜知らん間に強くなりおって〜、帰ったら息子に王位さっさと継がせてわしもモヒカン共とやらに入ろっかの〜」


などと会話が聞こえてきた。


「じゅ、獣王様達だ〜」「敵だとゾッとするけど味方だとここまで心強い!」「さっき銀色に光ってなかったか?」


などと騎士達が安堵の表情を浮かべる。

何と言っても鋼鉄の騎士鎧をバターのように切られ、一分もしないうちに数百という戦力が削られてしまったのだ。

ふと【ガランス】からでてきたアーノルドがワキヤックに浮かばない表情で声をかけてきた。


「ワキヤックくん、不味いことになった。あの化物はどうやら四方に放たれたようだ。王都の戦力か怪しいが獣王様たちのいない他の辺境伯達は厳しい戦いになってしまう…そこで」


「救援っすね。わっかりやした。バルバロッサ様居る〜」


「呼んだかね鎌瀬」


上空からガタイのいい魔族が降ってきた。


「さっきの連中追って他の領地の救援に言ってほしいんだけど…これアーノルド様の書状ね!」


「良かろう!ここから一番遠いイースト軍とやらに向かおう。我が部隊1000は精鋭揃い、みな【フライ】で飛んでいけるでな」


「おうおう、魔王よ!ぬしがそっちっちゃあ、俺たちゃ北でも行くかねバルバロイ!」


「了解だ兄者!―――って俺『モヒカンズ』のリーダーだが、勝手にいいかい坊っちゃん」


「ええよ。アーノルド様の書状は忘れんなよ!亜人なんだから差別がね…っと、俺とカルダモンが西を担当すっか!コウメちゃんは西軍の指揮と守りをたのむぜ!ジャッジを好きに使ってやれ」


「わ、ワキヤック様…がんばります……」


「……うす」


「んっんー、ミシュラムちゃんほどじゃないにしろわーたしもそれなりに魔法は嗜〈たしな〉んでるわよ〜カマセーちゃん♡」


「改めてカマでインド人は濃いな。よっしゃ解散!王都で会おうぜ!」


「「「応!」」」




「行ってしまったな……コウメと言ったかね」


「『モヒカンズ』の…コウメでちゅ!?―――です!アーノルド様…よろしくお願いします」


「『モヒカンズ』?ワリカンの面白部隊か、君は軍師だと聞いたが…さっそく君の助言を聞きたいのだが」


「はい、救援はアレで十分です。敵の狙いは十中八九アルベルト様です。戦力をチラつかせてこちらを煽り、敵が分散した所で総大将を獲る…といった意図を感じます。急ぎアルベルト様の護衛を増やしつつあえて後退を助言致します」


「お、おう(えらく饒舌になったなこの兎っ娘?)」


「【ガランス】を扇形に展開しつつ後退、魔導部隊と騎士部隊を真っ二つにわけて編成してください」


「その心は?」


「……情報を精査した結果、奴らはとんでもない無能の集まりです!」


「ブフォwww、そうだな…」


「混乱が収まった後何も考えず全軍で総大将に突っ込んでくるでしょう。なので【ガランス】5機全てによる波状攻撃、生き残ったものはイバリん部隊の集団魔法及び西軍最強緑石部隊による殲滅でどうにかなりそうです…ただ、」


「ただ?」


「先程の確か…『バイオキメイラ』という『魔神の尻尾』が創り出した生命兵器で、主様のペットでもある生命兵器の投入なのですが…」


「ペット!?ワキヤックくんはペットにしちゃったのか?」


「(王都の連中がアレだけの数…カマセー兵内の『草(忍のこと)』を何人か放ちましたが……奴らにあれだけの数の『バイオキメイラ』を用意する事が出来るとは思えません。アレ一体で本来ドラゴンをも超える力を秘めています」


「王国中隊を全滅させたドラゴンと同じ力を持った生き物をペットにしたのか…」


「つまり、不確定要素が裏に糸を引いています。そしてその連中は教会でも『魔神の尻尾』でもなく今回の戦場に現れるかと思われます―――厳重に守りを固めてくださいませ…」


「うむ、ご苦労だった。参考に―――」


アーノルドがコウメの話を聞き、後方の本隊に戻ろうとしたその時、前方からオオトカゲのような、翼を治めこちらに突っ込んでくる壮大な黄色の巨躯と稲妻を纏った…ドラゴンが兵たちを蹂躙し突進んしてきた。


「ぎしゃああああああ!!」


叫びとともに雷鳴を吐き出した。

その【サンダーブレス】によって、ざっと数十名の死傷者が出てしまっただろう。

その余波は1キロほど離れたアーノルドのところまで伝わってきた。


「イエロードラゴン!?S級の魔獣がこんな…たまたまではないか。全軍構えよ!ここで食い止め―――」


「アーノルド様、ここは私に任せてください。ジャッジ様に手伝って貰う必要もありません」


そういうと小柄で可憐な兎獣人のコウメがイエロードラゴンに向かって前に出る。


「な、ちょっと待ちなさい!王国騎士中隊でも厳しいってさっき言ったばかり―――」


そこに無口なリザードマンがアーノルドの馬を静止させた。

横に首を振っている。

必要が無いという意思表示だろうが…


「(近づいてきてよく分かるが、あの巨躯は5mはあるぞ!?150cmそこそこの獣人に…しかも私の娘と同じ頃の少女に何が出来るというのだ?軍師であろう?)」


しかし、『モヒカンズ』は実力で選ばれるカマセー領の特殊部隊。

例外無く実力で選ばれている。

そしてコウメはそうして選ばれている。

ドラゴンを前にしてコウメはフェンシングの様な構えをとる。

そしていざドラゴンのアギトがコウメを捉えようとした刹那、ドラゴンの首は宙に舞った。


「「「おっ、お〜〜〜!!」」」


騎士や兵士に歓喜が湧く。

兎獣人特有の強靭な足から放たれたサイドキックは、まるでブ◯ース・リーを思わせる見事なフォームのコウメが首を失った巨体を前に鎮座する。


「やはりただの色物部隊ではない…と」


アーノルドは呆れたかのように呟く。

目の前には【魔装】で毛が逆立った戦士の形相のコウメが居た。

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