第36話 ガーリック公爵とワキヤック

「ワキファーーーーッッッッック!!何でもいいからわしに着いて来い!!」


カマセー領について早々、父のハゲヤックに呼ばれたワキヤック。

客間に連れてかれるとそこにはあのダンディなニンニクシェフことサードフィール・ガーリック。

そして美しい茶髪の美少女、品格もあり貴女の鏡のようあ美しい所作、正に貴族の令嬢といった正統派美少女、ニュウ・ガーリックの公爵親子が揃って居た。

王都からこのクソ田舎のカマセー領まではなかなかに距離があるのだが?

ワリカンなきハゲヤックは自他ともに認める無能。

公爵家などキャパシティを遥かに超えた存在がいるのでワキヤックを呼んだのだろう。


「おお、ワキヤックくん。王都で見せた処刑は大変愉快だったよ」


「王都?処刑?」


ちなみにハゲヤックはワキヤックが王都で処刑されていたことなど知らない。

イースト領から帰ってきたと思っているのだ。


「初めてお会いします、わたくしガーリック家のニュウでございますワキヤック卿。早速ですがガーリックの新たなるレシピを―――」


「すまないねワキヤックくん。ニュウも私も王都で話していたガーリック料理について気になって夜も寝られず、早馬を飛ばして護衛も付けずにここまで来てしまった。ははは」


「うふふ」


「こんなド田舎まで、すげえ行動力だな。…アル」


「はい、ワキヤック様」


「ミシュラムを連れてきてくれ、例のラーメンをが出来てたら持ってきてくれってな」


「あぁ!アレですね!解りましたー」


「らーめん?というのですかそのガーリック料理は?」


「らーめんはらーめん何だけど…まぁいいや来たら話す。ちょ、父上?茶菓子も出してないじゃないっすか?ちょっとそこのメイド、母上に言って抵当な茶菓子を見繕って!そこのメイドも抹茶で持ってきて!緑茶は珍しいから面白いだろ。玉露だぞ玉露」


テキパキと指示をするワキヤックと愛想笑いを繰り返すハゲヤック。




しばらくすると強烈で暴力的なニンニクの香りが扉越しだと言うのに臭ってきた。

ガーリック親子はたちまち高揚し、発情したような反応をしている。


「おお…これだ。この脳髄を刺激する挑発的で淫靡な香り…」


「あぁ〜、むせ返るような濃厚な香りに火照ってしまいましたわ」


こいつら何いってるんだ?とワキヤック。

正統派美少女の色っぽい表情に鼻の下を伸ばすハゲヤック。

あとでカマセリーヌ母上にチクろう。


さて、遂に現れた噂のラーメン。

丼には山と盛られたもやしとキャベツ。

その周りにはくったくたまで煮詰まったオーク肉の分厚いチャーシューがドサリ。

その強烈なインパクトでガーリック親子はゴクリと唾を飲み込む。


「お久しぶりですガーリック公爵様、私がワキヤック様の知識を元に作り上げた最凶のガーリック料理。その名も……『SBR《セカンドブラザーラーメン》』」


「「『SBR《セカンドブラザーラーメン》』」」


セカンドブラザーラーメン。

いわゆる二◯系ラーメン。


「にんにくいれましょうか?」


ミシュラムがそう言うとその意図が解らずワキヤックを見るガーリック親子。


「そもそもチャーシューも背脂もスープもにんにく入ってますけど、ここで追加で刻みニンニク入れますかって意味です」


「「お願いします!」」


にんにくと背脂をマシマシにしてこれでもかって追加をすると、食品としての品性皆無の例のラーメンの完成。


「それでは…いただくとしようかニュウ」

「ええお父様、食べる前からギンギンににんにくを感じますわ!」


「その料理はすでに野菜マシマシ状態でよそっていますので残しても大丈夫―――って聞いてます?」


一口フォークで口にした瞬間、まるで大食い選手のごとく食べ始める親子。

あの細い体のドコにそんなに入るんだってぐらいの食べっぷりにボンテージエルフババアのミシュラムはにっこり。


「つぁああああああい!!ゲㇶヒヒヒ!!犯罪的なガーリックと野菜のバランス、そしてわしわしの極太メン、この魔性のスープが一体になって私を魅了して離さない!ずるるるっるるっる!!キマるぜーーー!!」


「うんひっぃぃぃん!!ふぅっ!ふぅっ!チャーシューといいましたかこのぶっとい肉の塊〜♡この厚さでナイフ無しでほろりと口でとろけました。味も官能的でわたくし…絶頂して―――」


などといい始めて、なんと二人してスープまで完食。

お腹がぽっこりしていて「もう食べれない」とか「く、苦しい」とか言っている。


「食べきるなんて凄いわね〜。でも気を付けてね、そのラーメンの真の恐ろしさは依存性にあるのよ。程々にね」


「ふっふっふ、コレだけ食べたんだぞ。もう当分はいいかな(フラグ)」


「ええお父様、流石にわたくしもこれ程美味しくても毎日食べたいと思える量ではありませんもの…ゲップ、」


ミシュラムからレシピを貰い、自領でとんでもない依存性に苦しむどころか、自分から身を投じることになるのだが、それはそれとして…、


「さて、ついでというか…ワキヤックくん、きみに話があって来たのだ」


そう言うとテーブルに王都の周辺地図と、中央貴族の領地地図を次々にワキヤックに進呈する。


「えっと、中央貴族のガーリック様がコレは不味く無いっすか?」


「不味いな、だが王都は君のお陰でかなりの混乱に陥っている。諜報や騎士が私に目を向けることはまずない。この地形の情報を渡す代わりに我々中央貴族の一部と密約を結んでほしい」


「密約?」


「そうだ、君たちが思うようなあのドクサレ中央貴族はいくらでも討伐して構わないのだが、一部の貴族達を保護してもらいたい。無論こちらからも討伐軍に手を出すことはしないという証を…ニュウ!」


「はい、お父様」


「人質としてここに残りなさい」


「へ?ここ?なんで?男爵領とかいう雑魚貴族っすけど?」


「まぁ私はアーノルドと仲が良かったというのもあるが、それより明らかに君は異常だよワキヤックくん」


「異常?どこがです?」


「圧倒的な実力。そして私が掴んだ情報だと四神に継ぐとされる実力の悪魔の一柱のを仕留めたと聞いた」


「え?でも『魔境』だと俺ぐらいの実力じゃないと生き残れないっすよ?」


「『魔境』!?あの伝説の神域に足を踏み入れたのか!人の身では普通無理なのだ(断言)。君は女神の使徒かなにかなのだろう?聖女のレベッカ殿が「あいつマジやべーっす、女神様にお会いしたこと何度もあるっすけど、それと同様の神力バリバリだったすよ!?アーシマジチビリそうだったすからね?」と言っておったぞ。その様な存在に歯向かうなど愚の骨頂。状況もわからぬ愚物は…贄になれば良い。何よりにんにく伝道師でもあられるからなワキヤックくん。ミシュラム様から聞いたぞ」


「ほんと、坊ちゃまはレシピの神様ですよ〜」


「はぁ…そうっすか、では父上?」


「ファッ!?わしになにか振るのか?むりむりかたつむり!!」


「いやぁ、ニュウ令嬢が人質になるっつってもこのカマセー領じゃ、男爵領じゃ無理でしょ。ウエスト領にはニュウ公爵令嬢にお年も近いドリル嬢もいらっしゃるし、アーノルド様がなんとかしてくれるでしょ!」


「それだぁ!!流石我が息子!」


「残念だがそれは無理だ」


ガーリック公爵の後ろからコック姿のアーノルドがひょっこり現れた。


「アーノルド様ぁ!?なんでぇ?」


「すまぬがハゲヤック、カマセー領に行きたいと言われたのはニュウちゃん自身なんだ、私では爵位的に劣るので説得は無理だったよー(棒)」


「ええ!この広大な農地と最新の建築物が並ぶカマセー領!更に数々のレシピを提供くださった同士、ミジュラム様もいらっしゃいます。わたくし気に入りましたわ!」


「はえ〜。でも柄の悪い兵達は多いし、峰麗しい令嬢様にはきついかもですけど?」


「ちょっとにんにくの匂いがするだけで小言を聞こえるように噂するあの中央貴族共より遥かに良いです。それにわたくし、こう見えて結構武道に精通しているのですよ?」


上腕二頭筋を自慢気に見せるニュウ。

立ち振舞や首の太さから見て嘘ではないとワキヤックは看破する。


「まぁこんなド田舎のなにがいいか分かりかねるけどここまで言われちゃしょうが無いすね。という訳で後は頼みます父上!」


「助けてワリカンーーー!!」




――――――――――――



「それにしても、思ったより早かったじゃないかアーノルド」


カマセー領を離れる帰り道、親友であるアーノルドとサードフィールは揺れない馬車の中で募る話を話していた。


「アルベルト様がカマセー領にいた事、神童ワキヤックが勝手に色々してくれること……まさか【ハルマゲドン】を持ってくるなど考えもしなかったが。古代兵器なき今、イバリンの兵器ができ次第中央に宣戦布告だ!」


「いやー怖い怖い、私は密約が通って安心しているよ」


「サード、お前は密約無くとも昔から中央に反発していたではないか?それで宰相様とその莫大な商会の利益を使って、私より早くクーデターを目論んでいただろ?あのリストの中央貴族は私がクーデターの話を考えた頃から居たメンバーばかりだったぞ?」


「お前も私も中央と教会には幾度も屈辱を受けたものだ。…しかしあのワキヤックという方は本当に何者なのだろうな」


「あのワキヤックならば何が起きても驚かんよ。流石に【ハルマゲドン】の一件は笑ってしまったが…。魔神の一撃にも耐えた伝説にある強度の、あの装置を手刀でスッパリ、とはな?」


「いやぁー5mの兵器を誰も盗もうとは考えんよなぁ!」


「「アハハハハ!」」


「さて、ようやく今までの鬱憤うっぷんも晴れるというものだ…やろうか親友」


「ふむ、いいだろう。歴史に名を残そうではないか。おっとあの堅物、ヘンドリックも呼ぼうではないか?」


馬車の中で幼馴染の二人が熱い語り合うのだった。


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